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第15話 力を合わせて、走り抜け!!(前編)

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 長い長い、どこまでも続く直線の道。
 左右と後ろは赤い水に囲まれている。

 閻魔王女が指先を鳴らすと、一瞬にして地獄のマラソンの舞台にカケル達は移動してきた。
 確認すると、上空右には閻魔王女が、左には飛行車に乗ったカオリ達。
 瞬間移動などというありえない現象だが、もう驚く気にもなれない。

(ここが、スタート地点か)

 カケルとイダが並んで立つ。
 ツヨシが叫ぶ。

「カケル、頑張れよ」
「ああ」

 カケルはイダをにらむ。
 七日間走り続けられるという鬼。
 彼に勝つのは自分だけでは無理だ。
 だが、仲間達の力を借りれば……

「ツヨシ、お前は今のうちに寝ていてくれ」

 カケルは車上のツヨシに言った。
 どうあがいても、どこかでカケルも休息と睡眠が必要だ。
 その時、代わりに走ってもらうのはツヨシ達である。

「ああ、分かった」

 ツヨシはそう言って、横になろうとして……「ううぅ」と声を上げた。

「ツヨシ?」
「いや、大丈夫だ」

 そう言うが、横になったとき……肩を座椅子に着けたときに痛そうにした。やはりツヨシの肩は……
 カケルは心配を振り払う。
 今は、少しでも、一歩でも先へ走るのが自分の役目だ。
 イダがカケルに牙を向ける。

「人間の子よ、せいぜいあがくがいい」
「ああ、あがいてやるよ」

 カケルの返事に、イダがニヤッと笑った。
 閻魔王女がその様子を見ながら実況する。

「さあ、皆さんお待ちかね! 最後のマラソン勝負がいよいよはじまるよー! ここまで予想外の粘りをみせてきた人間チームの無駄なあがきに期待だね!」

 観客のいる会場から離れたのに、悪趣味な実況をしてみせる閻魔王女。

「よーい、スタート!」

 後ろの道が、赤い水へと崩れ沈む。
 カケルとイダは同時に走り出す。
 いよいよ、最後の勝負が始まったのだ。

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 どこまでも続くまっすぐな道を、カケルは走り続ける。
 隣を走るのはイダ。
 閻魔王女やツヨシ達を乗せた飛行車もついてくる。
 カケルは腕時計をちらっと見る。
 走り始めてから、すでに2時間が経過していた。
 閻魔王女が相変わらずのニヤニヤ顔で楽しげに実況する。

「スタートしてすでに2時間! 人間代表のカケルくん、がんばっているがそろそろ辛そう! 一方のイダ選手には余裕があるか?」

 カケルはもちろん無視だ。
 カオリが閻魔王女に言う。

「ちょっと、2時間も走ったら普通は給水ポイントくらいあるでしょう?」

 その通り。
 走り始めてから――いや、地獄に連れてこられてから、カケルはまったく水分をとれていない。もちろん、食事も。
 それはカオリたち飛行車の面々も同じだ。

「ははっ、それは人間界のマラソンの話でしょ♪ 地獄のマラソンに給水ポイントなんてないよ」

 期待はしていなかったが、閻魔王女はやはりそう言った。

「そもそも、鬼は普段、水や食料を必要としないからね。必要なのは……年に数回人間の血肉を喰らうことだけ」

 はなっから、カケル達に水や食料を渡すつもりはなかったらしい。

(まずいな)

 すでに喉はカラカラだ。
 空腹は我慢できても、水分なしでどこまで走れるか。
 本当にこの勝負が7日間つづくとしたら、たとえ途中で交代しても――
 絶望に落ちそうになる。

(くそっ)

 だが、そんなカケルにカオリが言った。

「カケルくん、頑張って、鬼になんて負けないで!」

 カオリの必死の声は、カケルの背を押すには十分だった。

 そうだ。
 何を弱気になっているんだ。
 オレはまだ走れる。
 走っているじゃないか。
 走れる限り、どこまでも走る。

 それが、マラソンの天才、先崎翔だ。

「当然だろ! まだまだ余裕だよ」

 カケルはそう言って、カオリ達に手を振る。
 本来、走っている最中に声なんて出すべきじゃないが、それでも応援にこたえた。
 自分自身を奮い立たせるために。

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 走り始めて、六時間。
 もう、八十キロは走っただろう。

 喉が渇く。
 いや、乾くのを通り越して痛みすら覚える。
 足も痛い。
 息も苦しい。
 疲れた。
 眠い。

 体は水と休息を求めている。
 カオリ達の声援もなくなってきた。
 みんなだって喉が渇いて、お腹もすいているのだ。

 頭がクラっとなる。
 記憶と自己認識がおかしくなってくる。

 ここって、どこだっけ?
 赤い空、赤い水、変わらぬ景色。
 オレ、なにをしているんだ?

 走っている?
 なんで?
 誰と?
 誰のために?

 なんだか、頭がぼーっとする。
 もういいんじゃないか?
 もう、足を止まろう。
 これ以上走るなんて無理だ。

 カケルの足がふらふらとよろめく。
 足がもつれ、膝から崩れ落ちる。
 カケルの意識が闇へと消えようとしていた。
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