あんまりです、お姉様〜悪役令嬢がポンコツ過ぎたので矯正頑張ります〜

暁月りあ

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転生なんて、あんまりです!

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 彼女はどこにでもいるようなフリーターだった。
 将来に夢も希望もなく、朝から晩まで働いて、貯金をためて。
 ただ、趣味のゲームにほんの少し課金する程度。
 オタクと呼べるほど熱中してることもなく、ただ好きなシーンを見るためだけにやっているようなもの。
 同じ趣味の仲間と話を合わせるためにやっている程度の、平凡な女だった。
 ただ。仕事に行く前。
 駅の長いエスカレーターで、後ろでふざけていた学生にぶつかって転げ落ちる。その時まで。

──あぁ。

 彼女にとって、ふざけていた学生がぶつかったことも、前に人が居らず、そのまま転げ落ちるときも全てがスローモーションに見えた。
 何が起きているのか。理解することを頭が拒否した。

──ラスボス倒すの難しかったのになぁ。

 彼女がやっていた恋愛ゲームは、5人の攻略対象者と共にラスボスを倒して結ばれるというありきたりなゲームだった。そもそも恋愛ゲームなのだから、最後はどういうエンディングかはともかく、攻略対象者と恋が成就するのは約束事項だ。
 戦闘描写と人が死んだ描写があったりしたので、15歳という年齢制限があったものの、年齢制限が18歳ではないということは性描写が主ではないことは明白。途中出てくる悪役令嬢を倒すのが大変だが、追課金がない優しい仕様だった。
 彼女に唯一、推しが存在したゲーム。

──こんなことなら、リリスの王国崩壊バッドエンディング。最後まで見ればよかった……!

 現実逃避した頭で思い浮かぶのは、昨日ラスボスを倒したゲームのこと。
 そんな現実逃避の後に、彼女の意識は暗転した。

*****

 暗闇から意識が浮上する。
 瞼を意識してあけて、彼女は初めてそれを認識した。
 ぼんやりと狭い視界の光の中で、白色のなにかが彼女を覗き込んでいた。
 人、そう呼んでいいのかは彼女に判断はできない。小さい子が書いたような、頭だろう丸と、体であろう大まかな形のなにか。

「ーーー」

 白色は何かを言って彼女に触れる。
 何故だかは分からないが、温かい気持ちが溢れた。雛が初めて見たものを親と認識するように、白色は敵ではないと本能的に理解する。

 彼女は微睡の中にいた。
 死して一体何が起こっているのか理解ができない。ここは天国か、地獄か。
 話している言語は、彼女の知るものではなかった。そもそも、聞こえる音を言語として理解するまでに時間を要した。

「ーー!ーーー!!」

 暫く周囲が騒がしかったようにも思う。
 相変わらず、何を話しているのかは分からないけれど。

 また、時は過ぎる。
 優しい微睡をくれる白色は現れなくなった。
 悲しくなると、誰かの泣き声が聞こえた。
 しかし、その泣き声を止める人はいない。

「ーーー」

 ある日、薄い赤色が現れる。
 それは白色と比べるととてもとても小さかった。白色の子供だろうか。
 それは少し不機嫌そうな雰囲気を出して。
 しかし、他の気配がするとするりとどこかへ行ってしまった。

「ーーマー」

 薄い赤色は度々彼女の元を訪れた。柔らかいカラフルなものを彼女に押し付けたり、彼女の頬を軽く突いたり。理解はできなかったが沢山彼女に話しかけたり。

「ーーマティ」

 薄い赤色が、薄紫だと認識できるようになって、心持ちつり上がった藍色の瞳を潤ませながら、彼女を見てそう呟いていると理解したのは、随分後になってからだった。
 マティという単語の意味は知らない。
 けれど、次第にクリアになっていく視界の中で、紫髪の幼い子を悲しませているのは自分だと理解する。

ーー何故、そんなに悲しいの?

 そう問いかけようとした彼女は、うまく動かない短い手足に気づく。実は自分が赤ん坊であることに漸く気づいたのだった。
 生後11ヶ月。それが、彼女自身転生した事を理解した日だった。

「まぁ……まぁてい……?」

 生まれて初めて口にしたのは、舌足らずなーーこの世界でいう母親を指す言葉。
 彼女が初めて言葉という言葉を発したことに驚いた後、今までにないくらい憎しみを込めた顔で紫髪の幼子は手をあげる。

「ーーっ! うっ」

 けれど、その手は振り下ろされない。
 ポロポロと大粒の涙で頬を濡らし、必死に嗚咽を堪えるように歯を食いしばる。

「まぁてい?」

 馬鹿の一つ覚えみたいだが、その単語しか分からない。意味のある言葉だとは分かるのだが、幼子が怒る理由も分からない。
 繰り返し言えば、とうとう大声を上げて幼子は泣き出してしまった。
 彼女も、その泣き声に感化されて火が付いたように泣き出した。

 そのあとは見たこともない大人達がやってきて、混乱が起きて。
 幼子と同じ紫髪の男が、幼子を連れて言ってしまう。
 後日、すっきりした顔で、その幼子は更に彼女を構うようになった。

 これが、リリィ・ペトルとアマリリス・ペトルの邂逅であった。
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