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転生なんて、あんまりです!
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──どうやら、自分は転生したらしい。
読み聞かせ中に、ぼんやりと彼女は考える。
「リリィ、きいてる?」
「だぅ」
あらぬ方向を見ていた彼女──リリィに問いかけるのは姉であるアマリリス・ペトル。以前のようにぼんやりではなく、少しはっきりと見えるようになったので、姉の美少女具合もわかる。
夕方から夜になる直前の海のような、波打つ紫の髪の一部を朱いリボンで結わえており、色濃い藍色の瞳はちゃんとリリィが話を聞いてないことを怒ってか普段心持ちつり上がっているだけなのに、少し離れても分かる程度にはつり上がっていた。
白い肌は太陽を知らないように滑らかで美しく、それでいて幼子特有のぷっくりとした柔らかさを兼ね備えたアマリリスは美少女といっても過言ではない。
こうやってアマリリスの容姿をきちんと把握できるようになったのもつい最近だ。
赤ん坊というものは視力が弱いらしく、始めは手元しか見えない。周囲のことなんてぼんやりとしかわからないものだ。少しずつ見えてきていることを考えても、もっと時間をかければ視力も良くなると思われる。それには遠くを見る訓練をして、なるべく視力が良くなるようにしなければならない。
もっとも、相手がいる途中でそのようなことをするのは余りに失礼だが。
こんな美少女が姉なのだ。自分も美少女なのだろうとリリィは考える。
けれど、1歳半の幼児に鏡を見る機会は無く。
幼児だし致し方なしと甘んじて現在の状況を受け入れていた。
「よみきかせするとね。はやくおはなしが、できるんですって。はやくことばをおぼえて、おはなししましょ」
侍女の誰かから聞いたのか、そうアマリリスは言う。
あながち、侍女の言葉は間違ってはいない。
1年近く、辛抱強く色々な絵本を文字を見せながら読み聞かせしたり、よくアマリリスが話しかけてきてくれたおかげで、スポンジが水を吸い込むように、始めは拒絶していた脳もヒアリングはどんどん上達した。
ただ、ヒアリングと話すのは少し違う。自分で文を組み立てて話すというのは、少しこつがいるものだ。
「だっこ、だっこぉ」
幼い体では学びたいと思うが、脳が飽きるのも速い。
片言で、まだリリィは単語しか使えないものの、意思が伝えられる程度にはなった。
「しかたないわねぇ」
そう言いながら、アマリリスは落とさないように大きなラグの上に座って、リリィを膝にのせる。
子供の体温は温かい。子供同士でぴったりと体をくっつければ、とても安心した。
精神年齢はたしかに成人しているのかもしれないが、この世界では生まれたてである。
誰かに甘えて当然の年齢なのだから問題ない。
「じゃあ、つづきをよむわね」
そう言って子守唄のように優しい声音で絵本を読む姉の横顔を、リリィは見つめた。
──悪役令嬢、アマリリス・ペトル。
そっと胸の中でつぶやいた。
転生する前に遊んでいた恋愛ゲームの悪役令嬢とアマリリスは、あまりにも似ていた。
その幼いながらに面影がある容姿と、名前。加えて、主人公のデフォルトの名前はリリィ・ペトル。
つまり、ゲームの主人公として転生した状態だと気づいたのは、数ヶ月前のことだ。
「あるひ、ぜんりょうなおうこくのかたすみに、じゃあくなひとびとがいました」
リリィは前世において、唯一推しという存在がいた。
推し、すなわちゲームというそのジャンルの中でリリィが一番好きな人のこと。
──こんなことなら、リリスの王国崩壊バッドエンディング。最後まで見ればよかった……!
そんなリリィの最後の願いを神様が叶えてくれたのか。
またはここが醒めない夢の中なのかなんてどうでもよくなった。
「じゃあくなひとびとは……リリィ、しゅくじょはね。そんなかおしちゃぁ、だめなのよ」
メッと言いながら、残念補正のかかっているリリィの頬に自分の頬をすり合わせる。
リリィの前世における最推しは攻略対象者の誰でもなく、悪役令嬢のアマリリスであった。
勿論、あのゲームをしていたのならば、推しがアマリリスであるという人も一定以上いた。
クリアするために、アマリリスはリリィに敗れる。
それは悪役令嬢としてお約束なのだが、アマリリスの敗北スチルは人気のクリエイターが手を施した美しいものだったから。アマリリスに関するスチルがなぜか多く、そのどれもが画集として世に出れば在庫切れとなるくらいに人気のあるものだった。ファンアートも多数存在し、人によっては引き伸ばして額縁に入れていた人もいた。
それによってアマリリスにわざと負けてアマリリス勝利スチルも集める人もいたくらいだ。主人公の敗北スチルは1枚だけだったのに、アマリリスに対してやけに力が入っていたように思う。
リリィがアマリリスを推す理由はまさにそこだった。
また、リリィは知らないのだが、設定資料集なるものが販売されていた。その設定資料集を見てアマリリスを好きになった人も多くいたそうで。
そんな最推しが目の前にいる。
しかも幼少期から一番近い主人公(妹)目線で見れるのだ。
こんな幸せはあるのだろうか。
「だう……」
ただし、この姉。
「じゃあつづきを……あれ、よめない?」
首を傾げて絵本を斜めにしながら、体も斜めになるアマリリス。
読めないのも無理はない。
「ぎゃう(逆)ぅぅ」
絵本を逆に持っているのだから。
ゲームの中の主人公になったリリィ。
その悪役令嬢となるアマリリスは、思ったよりも天然というかドジっ子のようだ。
読み聞かせ中に、ぼんやりと彼女は考える。
「リリィ、きいてる?」
「だぅ」
あらぬ方向を見ていた彼女──リリィに問いかけるのは姉であるアマリリス・ペトル。以前のようにぼんやりではなく、少しはっきりと見えるようになったので、姉の美少女具合もわかる。
夕方から夜になる直前の海のような、波打つ紫の髪の一部を朱いリボンで結わえており、色濃い藍色の瞳はちゃんとリリィが話を聞いてないことを怒ってか普段心持ちつり上がっているだけなのに、少し離れても分かる程度にはつり上がっていた。
白い肌は太陽を知らないように滑らかで美しく、それでいて幼子特有のぷっくりとした柔らかさを兼ね備えたアマリリスは美少女といっても過言ではない。
こうやってアマリリスの容姿をきちんと把握できるようになったのもつい最近だ。
赤ん坊というものは視力が弱いらしく、始めは手元しか見えない。周囲のことなんてぼんやりとしかわからないものだ。少しずつ見えてきていることを考えても、もっと時間をかければ視力も良くなると思われる。それには遠くを見る訓練をして、なるべく視力が良くなるようにしなければならない。
もっとも、相手がいる途中でそのようなことをするのは余りに失礼だが。
こんな美少女が姉なのだ。自分も美少女なのだろうとリリィは考える。
けれど、1歳半の幼児に鏡を見る機会は無く。
幼児だし致し方なしと甘んじて現在の状況を受け入れていた。
「よみきかせするとね。はやくおはなしが、できるんですって。はやくことばをおぼえて、おはなししましょ」
侍女の誰かから聞いたのか、そうアマリリスは言う。
あながち、侍女の言葉は間違ってはいない。
1年近く、辛抱強く色々な絵本を文字を見せながら読み聞かせしたり、よくアマリリスが話しかけてきてくれたおかげで、スポンジが水を吸い込むように、始めは拒絶していた脳もヒアリングはどんどん上達した。
ただ、ヒアリングと話すのは少し違う。自分で文を組み立てて話すというのは、少しこつがいるものだ。
「だっこ、だっこぉ」
幼い体では学びたいと思うが、脳が飽きるのも速い。
片言で、まだリリィは単語しか使えないものの、意思が伝えられる程度にはなった。
「しかたないわねぇ」
そう言いながら、アマリリスは落とさないように大きなラグの上に座って、リリィを膝にのせる。
子供の体温は温かい。子供同士でぴったりと体をくっつければ、とても安心した。
精神年齢はたしかに成人しているのかもしれないが、この世界では生まれたてである。
誰かに甘えて当然の年齢なのだから問題ない。
「じゃあ、つづきをよむわね」
そう言って子守唄のように優しい声音で絵本を読む姉の横顔を、リリィは見つめた。
──悪役令嬢、アマリリス・ペトル。
そっと胸の中でつぶやいた。
転生する前に遊んでいた恋愛ゲームの悪役令嬢とアマリリスは、あまりにも似ていた。
その幼いながらに面影がある容姿と、名前。加えて、主人公のデフォルトの名前はリリィ・ペトル。
つまり、ゲームの主人公として転生した状態だと気づいたのは、数ヶ月前のことだ。
「あるひ、ぜんりょうなおうこくのかたすみに、じゃあくなひとびとがいました」
リリィは前世において、唯一推しという存在がいた。
推し、すなわちゲームというそのジャンルの中でリリィが一番好きな人のこと。
──こんなことなら、リリスの王国崩壊バッドエンディング。最後まで見ればよかった……!
そんなリリィの最後の願いを神様が叶えてくれたのか。
またはここが醒めない夢の中なのかなんてどうでもよくなった。
「じゃあくなひとびとは……リリィ、しゅくじょはね。そんなかおしちゃぁ、だめなのよ」
メッと言いながら、残念補正のかかっているリリィの頬に自分の頬をすり合わせる。
リリィの前世における最推しは攻略対象者の誰でもなく、悪役令嬢のアマリリスであった。
勿論、あのゲームをしていたのならば、推しがアマリリスであるという人も一定以上いた。
クリアするために、アマリリスはリリィに敗れる。
それは悪役令嬢としてお約束なのだが、アマリリスの敗北スチルは人気のクリエイターが手を施した美しいものだったから。アマリリスに関するスチルがなぜか多く、そのどれもが画集として世に出れば在庫切れとなるくらいに人気のあるものだった。ファンアートも多数存在し、人によっては引き伸ばして額縁に入れていた人もいた。
それによってアマリリスにわざと負けてアマリリス勝利スチルも集める人もいたくらいだ。主人公の敗北スチルは1枚だけだったのに、アマリリスに対してやけに力が入っていたように思う。
リリィがアマリリスを推す理由はまさにそこだった。
また、リリィは知らないのだが、設定資料集なるものが販売されていた。その設定資料集を見てアマリリスを好きになった人も多くいたそうで。
そんな最推しが目の前にいる。
しかも幼少期から一番近い主人公(妹)目線で見れるのだ。
こんな幸せはあるのだろうか。
「だう……」
ただし、この姉。
「じゃあつづきを……あれ、よめない?」
首を傾げて絵本を斜めにしながら、体も斜めになるアマリリス。
読めないのも無理はない。
「ぎゃう(逆)ぅぅ」
絵本を逆に持っているのだから。
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その悪役令嬢となるアマリリスは、思ったよりも天然というかドジっ子のようだ。
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