執着王子のお気に入り姫

暁月りあ

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XIII美味しい話の裏には

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「それで、ここ最近うちの周辺を彷徨いていたお嬢ちゃん。なんのようだ?」
「きづいてた?」

 見上げれば、男は肩をすくめる。
 魔法で色を変えた私と同じ茶色の瞳は何処となく冷たい印象を受けた。
 音を立てずに男は私へ近づく。

「まあな。お嬢ちゃんも魔力ごと気配を消すのはある程度できるようだが隠密向きではないな。魔力の波長が特徴的すぎる。どちらかといえば殿になって敵を討伐する隊長ってところだ」
「むぅ……」

 店内の様子も魔法の糸で探っていたのだが、それには気づかれていないらしい。
 しかしこの男はどの段階で気づいたのかはわからないものの、私は泳がされていたということ。
 確かに男の言う通り完全に気配を消す、ということが苦手だ。
 私は隠密に向かない。
 それは昔副官だった騎士にも言われたことだ。
 スプラウト王家の持つ魔力はその魔眼故か独特すぎる。
 故に隠密活動が必要な作戦には常に外されて男が言うように部隊の殿を務めることが多かった。

「ま、お嬢ちゃんくらいの年頃ならその程度でもすごいと思うぞ。純粋に」

 そして、この男は侮れない。
 ぽんっと私の頭を撫でる手は拒否しない。
 ただ、ほんの少し悔しくてむくれてしまった。

(あまりにもこの男は強い)

 足運び、体外に漏れ出る魔力の制御力。
 そして抱き上げられてわかる筋肉の質感。
 今の私では手も足もでないほどに強い。
 まあ座れと勧められるがままにカウンター席に座らされる。
 そして一杯のミルクが差し出された。

「それで?」

 温かいミルクで喉を潤す私を横目に続きを促してくる。

「わたしを、おいてくれましぇんか?」

 別に遠回しに言うことでもない。
 要求を直球で投げた。
 特に驚いた様子はない。
 顎髭を撫でながら、その視線は私から外れなかった。

「残念だが、それはできねぇな。生憎と酒場ってところは治安が悪い。子供は働かせられねぇ」
「いいえ」

 どうやら酒場の給仕係ウェイターとして雇ってほしいと捉えられたようだ。
 即座に否定する。
 男の言う通り、酒場は情報が集まるが治安もよろしいとは言い難い。
 このご時世、時として暴力で解決したい者も現れる場所だ。
 私が逆の立場だったとしても孤児院をおすすめする。

「ばしょをかしてほしいです」
「場所を?」

 私が求めるのは身売りをせずとも金が稼げる場所だ。
 それも孤児院という国が管理しているような場所ではない方がいい。

「みせのかたすみでかまいません。ほうしゅうの2わりを、ばしょだいとして、おわたししましゅ」
「店の場所を借りて報酬の2割をくれるたってな、なにをするんだ?」

 人が集まる場所。私の『仕事』を求めてくれる場所。
 そこさえ提供してくれるならこの酒場という場所はうってつけであった。

「──2けんさき、おうちのねこ」

 後宮から出た豪雨の日。
 軒先にいた豪胆な猫。
 あの猫の額には確かに星のマークがついていた。

「いばしょ、わかります」
「なるほどな」

 私が売るのは『情報』。
 魔法の糸というのは情報の取捨選択が必要になるものの必要な場所に伸ばせていたら情報を拾うことが可能だ。
 現在の魔力では王都全体というのは難しいが、条件を絞れば探すことも難しくない。

「だが、人は見た目で選ぶもんだ。その格好でなにを信じるんだ? 下手すると盗人扱いだ」
「うっ」

 普通に暮らす平民、否。そこら変にいる浮浪児よりもボロボロの衣服。
 残り少ない携帯食を包んだボロ布を体に巻き付けている様は余程酷い。
 話だけ聞いてもらえただけ幸運だったと思うしかないのか。
 ぐっと閉じた瞼の遥か上から聞こえたのは深い溜息だった。

「はあ、仕方ねぇか」

 それは、単なる気まぐれだったのかもしれない。

「条件として、うちで寝泊まりすること。部屋なら余ってる。それから、俺が言った危険な客には近づかないこと」

 ぱっと上げた顔に映ったのは気怠そうな。
 どこか罪悪感を感じているような、バツの悪そうな顔。

「ほれ、これくらい守れるなら置いてやってもいい」
「いいの?」
「人の好意ってもんは素直に受け取るもんだぜ」
「こうい……」

 確かにこの提案は好意以外の何ものでもない。
 住む場所と仕事ができる場所をやすい報酬で提供してくれる。
 こんな見た目の子供にも関わらずに。
 それが好意以外になにがあるだろう。
 こっそり売り払うにしろ、男の体格からして私に気づいた時点でそうすればよかったはずだ。
 それでも私が近づくまで待ってくれていたということは悪い人ではないのだろう。
 それほど現状では圧倒的な戦力差が私達の間にはあるのだから。

「よろしくおねがいしましゅ」
「あぁ、よろしく。俺はディンバーって言うんだ。お嬢ちゃんは?」
「わたしはラ……」

 素直に今生の名前を話そうとして。
 そういえばお尋ね者であったことを思い出す。
 ついうっかり話してしまいそうになって反省した。

「わたしのことは、ライアってよんでください」
「ライアね。了解」

 ラティアから少し捩っただけの名前を名乗る。
 すると手が差し出されたので、遠慮がちに握ればがっちりと握り返された。
 よろしくと。歓迎されているような。
 そんな温かい握手に照れくさくなる。
 こうして私はディンバーの元で過ごすことになったのだった。
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