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XIV感情の有無
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※attention※
この話には人の生死に関わる残酷な描写があります。
────────────────────────
1階は酒場で2階は居住スペースのようだ。
店の戸締まりを済ませたあとに2階の奥の部屋に通された。
「ここを使ってくれ」
そこはベッドと小さなクローゼットのみの簡易的な部屋だった。
掃除はされているようで埃は目立たない。
むしろつい最近まで誰かがここにすんでいたかのような。
(考えすぎかな)
ちらりとディンバーを見上げれば、どうぞとばかりに中を勧められる。
「掃除はしていたからな。気にせず使ってくれ」
これ以上疑ったとして詮無いことだ。
取り敢えずは雨風を気にせずに寝られる場所を確保できただけでも感謝するべきことなのだから。
壁の厚さや空のクローゼットを見ている間にディンバーは一度出ていって戻ってきたようだ。
その手には一枚のシャツがあった。
「俺のシャツで申し訳ないが今日はこれを着て寝てくれ。あと、もう明け方だし寝ろ。俺も眠い。後のことは次起きてからでもいいだろ」
ひとつあくびをしてディンバーはふらふらと部屋を出て自室に向かう。
その後姿を見送ったあと、私は部屋でディンバーに渡されたシャツを着た。
小さな体のせいか、ディンバーのシャツはぶかぶかだ。
寝間着にするには丁度いい大きさのそれに着替えて、今まで着ていた服と荷物をベッドの近くの床において横になる。
今生ではベッドで寝るなんて初めてではないだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら、私はゆっくりとまぶたを閉じた。
▼▼▼▼▼
「隊長?」
ぱちりと火花とともにそう呼びかけられたのが自分自身であることを思い出す。
はっとして顔をあげると、そこには私を心配している部下たちが日を囲んでいた。
「どうしたんですか、ボーッとして」
「ガンディス……」
部隊のムードメーカー。
いつも明るくて、どんなときでも希望を捨てなかった。
「今日の隊長、格好よかった~」
「今までだって格好いいじゃないですか」
「隊長の糸がぱあっと広がって、それから」
「アリア、シャルドネ、アルフ」
女3人寄れば姦しいとは言うが男が混ざっていてもそれは変わらないという3人。
弓術が得意なアリア、料理が得意なシャルドネ。
よくスケッチをしている絵が好きなアルフ。
私の話を目の前で堂々と楽しそうに話している。
その話の内容から今日の防衛戦の話をしているのだと理解する。
「やっぱカリア様が隊長でよかった。安心して後をついていけます」
王族と知りながら、この隊の皆はただのカリアとして私に接してくれた。
優しくしてくれた。誇ってくれた。
私には生まれつき感情がないことを理解してくれた人達。
そして。
「やはり、今日の作戦に無理があったようです。お疲れなら休んだほうが」
「ヘルト」
茶髪というのはありふれた色だ。
その中でも彼はまるで収穫時期の麦畑の中にいるような優しい色。
青い瞳は北の国の血が流れている証拠だが、優しい少し垂れ目な感じが人気で。
私の隣にいつもいた。
彼の最期のときまで。
「隊長?」
「っ……!」
視界が霞む。
まるでそこには違う者があるかのように。
幻覚が見えた。
ガンディスが死角から剣で切られて事切れたときの。
「やだ~、どうしたんです?」
アリアが話しかけてきて再び視界が霞む。
また、幻覚が見えた。
血だらけの戦場で亡くなった彼女の姿が。
「体調でも悪いです? 隊長だけに」
「いや、流石にそれは不敬だろうが」
シャルドネとアルフの言葉に視界が歪む。
結婚を考えていた2人が手を繋いで。
あとは任せましたと私に笑いかけたのを最期に。
見つけた時には血だらけの中、冷たくなった姿が。
「あ、あぁ……」
酷く喉が渇いた。
脳を直接揺らされるような不快感。
痛ましいことだと『理解』していても、辛いと。
吐き気を催すほどの拒絶を私は知らない。
「やめろ、やめてくれ」
絞り出すように懇願する。
嫌な予感が全身を包んだ。
冷や汗が止まらない。
どれだけ望んでも結果は覆らないというように。
「カリア様」
振り向いてヘルトの瞳を見た瞬間、私の脳裏に走馬灯がよぎる。
まるで沢山の絵になった過去を連続で見せられているかのように。
隊の皆を犠牲にしてまで戦争に勝ち続けたのに。
得られたのは絶望と処刑だけ。
断頭台の刃が、カリアの首を落とす。
その瞬間まで。
▲▲▲▲▲
「っは!!」
勢いよく上半身を起こして息を整えた。
どくどくと心臓の音が耳奥で木霊する。
暫くして漸く落ち着いてきて、大きく息を吐く。
頭が混乱していた。
しかし、視界に映る小さな手が私がカリアではないということを教えてくれる。
「また、このゆめ」
頭が冷えてきて周囲を見渡せばディンバーから借りた部屋ということを思い出した。
起き上がって窓を開ける。
まだそれほど時間は経っていないのだろうが、明け方ではなく人々が活動を始めた頃合いだ。
もう一度眠る気にはなれず、ぼんやりと外を眺めた。
2つの記憶を思い出してからよく夢を見る。
まるで忘れるなというように。
私のせいで死んだ人々の夢を。
私が死ぬ夢を。
(もう1人の人生はあまり見ないのに)
心のなかでぼそりとこぼす。
当時『感情』がなかったとしても、それほど衝撃的なことだったということ。
夢の中で『悲しみ』を覚えるというのなら。
それは当時のカリアが思ったことではない。
彼女には普通なら悲しむだろうとは理解していても悲しむということが分からなかったから。
態々夢の中で『恐怖』を味わいたくないのに。
感情が分かるようになって面白いと思う反面、こういう昔の夢で揺さぶられることも多い。
知りたくなかったと思っても知らなかった頃には戻れない。
(感情が分かるようになるのも一長一短、かな)
深いため息が朝の空気に消えていった。
この話には人の生死に関わる残酷な描写があります。
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1階は酒場で2階は居住スペースのようだ。
店の戸締まりを済ませたあとに2階の奥の部屋に通された。
「ここを使ってくれ」
そこはベッドと小さなクローゼットのみの簡易的な部屋だった。
掃除はされているようで埃は目立たない。
むしろつい最近まで誰かがここにすんでいたかのような。
(考えすぎかな)
ちらりとディンバーを見上げれば、どうぞとばかりに中を勧められる。
「掃除はしていたからな。気にせず使ってくれ」
これ以上疑ったとして詮無いことだ。
取り敢えずは雨風を気にせずに寝られる場所を確保できただけでも感謝するべきことなのだから。
壁の厚さや空のクローゼットを見ている間にディンバーは一度出ていって戻ってきたようだ。
その手には一枚のシャツがあった。
「俺のシャツで申し訳ないが今日はこれを着て寝てくれ。あと、もう明け方だし寝ろ。俺も眠い。後のことは次起きてからでもいいだろ」
ひとつあくびをしてディンバーはふらふらと部屋を出て自室に向かう。
その後姿を見送ったあと、私は部屋でディンバーに渡されたシャツを着た。
小さな体のせいか、ディンバーのシャツはぶかぶかだ。
寝間着にするには丁度いい大きさのそれに着替えて、今まで着ていた服と荷物をベッドの近くの床において横になる。
今生ではベッドで寝るなんて初めてではないだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら、私はゆっくりとまぶたを閉じた。
▼▼▼▼▼
「隊長?」
ぱちりと火花とともにそう呼びかけられたのが自分自身であることを思い出す。
はっとして顔をあげると、そこには私を心配している部下たちが日を囲んでいた。
「どうしたんですか、ボーッとして」
「ガンディス……」
部隊のムードメーカー。
いつも明るくて、どんなときでも希望を捨てなかった。
「今日の隊長、格好よかった~」
「今までだって格好いいじゃないですか」
「隊長の糸がぱあっと広がって、それから」
「アリア、シャルドネ、アルフ」
女3人寄れば姦しいとは言うが男が混ざっていてもそれは変わらないという3人。
弓術が得意なアリア、料理が得意なシャルドネ。
よくスケッチをしている絵が好きなアルフ。
私の話を目の前で堂々と楽しそうに話している。
その話の内容から今日の防衛戦の話をしているのだと理解する。
「やっぱカリア様が隊長でよかった。安心して後をついていけます」
王族と知りながら、この隊の皆はただのカリアとして私に接してくれた。
優しくしてくれた。誇ってくれた。
私には生まれつき感情がないことを理解してくれた人達。
そして。
「やはり、今日の作戦に無理があったようです。お疲れなら休んだほうが」
「ヘルト」
茶髪というのはありふれた色だ。
その中でも彼はまるで収穫時期の麦畑の中にいるような優しい色。
青い瞳は北の国の血が流れている証拠だが、優しい少し垂れ目な感じが人気で。
私の隣にいつもいた。
彼の最期のときまで。
「隊長?」
「っ……!」
視界が霞む。
まるでそこには違う者があるかのように。
幻覚が見えた。
ガンディスが死角から剣で切られて事切れたときの。
「やだ~、どうしたんです?」
アリアが話しかけてきて再び視界が霞む。
また、幻覚が見えた。
血だらけの戦場で亡くなった彼女の姿が。
「体調でも悪いです? 隊長だけに」
「いや、流石にそれは不敬だろうが」
シャルドネとアルフの言葉に視界が歪む。
結婚を考えていた2人が手を繋いで。
あとは任せましたと私に笑いかけたのを最期に。
見つけた時には血だらけの中、冷たくなった姿が。
「あ、あぁ……」
酷く喉が渇いた。
脳を直接揺らされるような不快感。
痛ましいことだと『理解』していても、辛いと。
吐き気を催すほどの拒絶を私は知らない。
「やめろ、やめてくれ」
絞り出すように懇願する。
嫌な予感が全身を包んだ。
冷や汗が止まらない。
どれだけ望んでも結果は覆らないというように。
「カリア様」
振り向いてヘルトの瞳を見た瞬間、私の脳裏に走馬灯がよぎる。
まるで沢山の絵になった過去を連続で見せられているかのように。
隊の皆を犠牲にしてまで戦争に勝ち続けたのに。
得られたのは絶望と処刑だけ。
断頭台の刃が、カリアの首を落とす。
その瞬間まで。
▲▲▲▲▲
「っは!!」
勢いよく上半身を起こして息を整えた。
どくどくと心臓の音が耳奥で木霊する。
暫くして漸く落ち着いてきて、大きく息を吐く。
頭が混乱していた。
しかし、視界に映る小さな手が私がカリアではないということを教えてくれる。
「また、このゆめ」
頭が冷えてきて周囲を見渡せばディンバーから借りた部屋ということを思い出した。
起き上がって窓を開ける。
まだそれほど時間は経っていないのだろうが、明け方ではなく人々が活動を始めた頃合いだ。
もう一度眠る気にはなれず、ぼんやりと外を眺めた。
2つの記憶を思い出してからよく夢を見る。
まるで忘れるなというように。
私のせいで死んだ人々の夢を。
私が死ぬ夢を。
(もう1人の人生はあまり見ないのに)
心のなかでぼそりとこぼす。
当時『感情』がなかったとしても、それほど衝撃的なことだったということ。
夢の中で『悲しみ』を覚えるというのなら。
それは当時のカリアが思ったことではない。
彼女には普通なら悲しむだろうとは理解していても悲しむということが分からなかったから。
態々夢の中で『恐怖』を味わいたくないのに。
感情が分かるようになって面白いと思う反面、こういう昔の夢で揺さぶられることも多い。
知りたくなかったと思っても知らなかった頃には戻れない。
(感情が分かるようになるのも一長一短、かな)
深いため息が朝の空気に消えていった。
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