執着王子のお気に入り姫

暁月りあ

文字の大きさ
15 / 22

XIV感情の有無

しおりを挟む
※attention※
この話には人の生死に関わる残酷な描写があります。

────────────────────────


 1階は酒場で2階は居住スペースのようだ。
 店の戸締まりを済ませたあとに2階の奥の部屋に通された。

「ここを使ってくれ」

 そこはベッドと小さなクローゼットのみの簡易的な部屋だった。
 掃除はされているようで埃は目立たない。
 むしろつい最近まで誰かがここにすんでいたかのような。

(考えすぎかな)

 ちらりとディンバーを見上げれば、どうぞとばかりに中を勧められる。

「掃除はしていたからな。気にせず使ってくれ」

 これ以上疑ったとして詮無いことだ。
 取り敢えずは雨風を気にせずに寝られる場所を確保できただけでも感謝するべきことなのだから。
 壁の厚さや空のクローゼットを見ている間にディンバーは一度出ていって戻ってきたようだ。
 その手には一枚のシャツがあった。

「俺のシャツで申し訳ないが今日はこれを着て寝てくれ。あと、もう明け方だし寝ろ。俺も眠い。後のことは次起きてからでもいいだろ」

 ひとつあくびをしてディンバーはふらふらと部屋を出て自室に向かう。
 その後姿を見送ったあと、私は部屋でディンバーに渡されたシャツを着た。
 小さな体のせいか、ディンバーのシャツはぶかぶかだ。
 寝間着にするには丁度いい大きさのそれに着替えて、今まで着ていた服と荷物をベッドの近くの床において横になる。
 今生ではベッドで寝るなんて初めてではないだろうか。
 そんなことをぼんやりと考えながら、私はゆっくりとまぶたを閉じた。


▼▼▼▼▼

「隊長?」

 ぱちりと火花とともにそう呼びかけられたのが自分自身であることを思い出す。
 はっとして顔をあげると、そこには私を心配している部下たちが日を囲んでいた。

「どうしたんですか、ボーッとして」
「ガンディス……」

 部隊のムードメーカー。
 いつも明るくて、どんなときでも希望を捨てなかった。

「今日の隊長、格好よかった~」
「今までだって格好いいじゃないですか」
「隊長の糸がぱあっと広がって、それから」
「アリア、シャルドネ、アルフ」

 女3人寄れば姦しいとは言うが男が混ざっていてもそれは変わらないという3人。
 弓術が得意なアリア、料理が得意なシャルドネ。
 よくスケッチをしている絵が好きなアルフ。
 私の話を目の前で堂々と楽しそうに話している。
 その話の内容から今日の防衛戦の話をしているのだと理解する。

「やっぱカリア様が隊長でよかった。安心して後をついていけます」

 王族と知りながら、この隊の皆はただのカリアとして私に接してくれた。
 優しくしてくれた。誇ってくれた。
 私には生まれつき感情がないことを理解してくれた人達。
 そして。

「やはり、今日の作戦に無理があったようです。お疲れなら休んだほうが」
「ヘルト」

 茶髪というのはありふれた色だ。
 その中でも彼はまるで収穫時期の麦畑の中にいるような優しい色。
 青い瞳は北の国の血が流れている証拠だが、優しい少し垂れ目な感じが人気で。

 私の隣にいつもいた。
 彼の最期のときまで。

「隊長?」
「っ……!」

 視界が霞む。
 まるでそこには違う者があるかのように。
 幻覚が見えた。
 ガンディスが死角から剣で切られて事切れたときの。

「やだ~、どうしたんです?」

 アリアが話しかけてきて再び視界が霞む。
 また、幻覚が見えた。
 血だらけの戦場で亡くなった彼女の姿が。

「体調でも悪いです? 隊長だけに」
「いや、流石にそれは不敬だろうが」

 シャルドネとアルフの言葉に視界が歪む。
 結婚を考えていた2人が手を繋いで。
 あとは任せましたと私に笑いかけたのを最期に。
 見つけた時には血だらけの中、冷たくなった姿が。

「あ、あぁ……」

 酷く喉が渇いた。
 脳を直接揺らされるような不快感。
 痛ましいことだと『理解』していても、辛いと。
 吐き気を催すほどの拒絶をカリアは知らない。

「やめろ、やめてくれ」

 絞り出すように懇願する。
 嫌な予感が全身を包んだ。
 冷や汗が止まらない。
 どれだけ望んでも結果は覆らないというように。

「カリア様」

 振り向いてヘルトの瞳を見た瞬間、私の脳裏に走馬灯がよぎる。
 まるで沢山の絵になった過去を連続で見せられているかのように。
 隊の皆を犠牲にしてまで戦争に勝ち続けたのに。
 得られたのは絶望と処刑だけ。
 断頭台の刃が、カリアの首を落とす。
 その瞬間まで。


▲▲▲▲▲

「っは!!」

 勢いよく上半身を起こして息を整えた。
 どくどくと心臓の音が耳奥で木霊する。
 暫くして漸く落ち着いてきて、大きく息を吐く。
 頭が混乱していた。
 しかし、視界に映る小さな手が私がカリアではないということを教えてくれる。

「また、このゆめ」

 頭が冷えてきて周囲を見渡せばディンバーから借りた部屋ということを思い出した。
 起き上がって窓を開ける。
 まだそれほど時間は経っていないのだろうが、明け方ではなく人々が活動を始めた頃合いだ。
 もう一度眠る気にはなれず、ぼんやりと外を眺めた。
 2つの記憶を思い出してからよく夢を見る。
 まるで忘れるなというように。
 私のせいで死んだ人々の夢を。
 私が死ぬ夢を。
 
(もう1人の人生はあまり見ないのに)

 心のなかでぼそりとこぼす。
 当時『感情』がなかったとしても、それほど衝撃的なことだったということ。
 夢の中で『悲しみ』を覚えるというのなら。
 それは当時のカリアが思ったことではない。
 彼女には普通なら悲しむだろうとは理解していても悲しむということが分からなかったから。
 態々夢の中で『恐怖』を味わいたくないのに。
 感情が分かるようになって面白いと思う反面、こういう昔の夢で揺さぶられることも多い。
 知りたくなかったと思っても知らなかった頃には戻れない。

(感情が分かるようになるのも一長一短、かな)

 深いため息が朝の空気に消えていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

処理中です...