執着王子のお気に入り姫

暁月りあ

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XXおさんぽ

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 毎日、と言うわけではないが彼は私に会いに来るようになった。
 夕方の私の仕事が終わる少しくらい前に姿を現して飲み物だけを注文する。
 そのままヨタヨタと無理をしない程度に働く私を眺めて、仕事が終わって就寝準備が終わった頃合いに寝室の窓から入ってくるのだ。

「ひまじんなの?」
「君に会いに来くために時間を作ってるだけだよ」

 腹が立ったのかむにっと以前よりも肉がついてきた頬を摘まれた。
 そしてそのまま少しだけ話をして彼は帰っていく。
 3ヶ月が経ち、周囲も私に慣れて来た頃には彼も常連の1人として認識されている程度に彼は私に会いに来た。

(子供なのにいいのか)

 子供なのに酒場で働いている私が思うことじゃない。
 でも、周囲からすると一般人には見えない彼の雰囲気に関わろうとする人は少ない。
 たまに初めてのお客さんが絡んでは周囲が止めたり、冒険者や傭兵に至っては彼の顔を見るだけで引き下がるものも多い。

(まあ、普通に笑いながら殺気を上手にコントロール出来る子供なんてそうはいないよね)

 遠目から見ながら一人納得する。
 命をやり取りをする職業を長く続けている人ほどその態度は顕著だ。
 まるで化け物をみるような。
 私にまで疑いの目を向けるのはやめてほしいけど。

 そんなある日。
 私はスピナからもらった外套に初めて袖を通した。
 中は古着であるものの、生地が滑らかだ。ふりるもついていて可愛い。
 濃い茶色の外套は汚れひとつない。着ていないのだから当然だと思うところだが、この世界は1度めの私が住んでいた場所のような潔癖な場所ではない。
 中古なら汚れていることが多いし、新しく買った服でも中古を新品と偽る店があるため油断はできない。

「ライア、どこか行くのか?」

 店に降りてくると箒を片手に煙草を吸っていたディンバーが声をかけてくる。

「うん。おさんぽ」
「店の外に出るなんて久しぶりだろ。スピナに連れて行ってもらうか?」
「ううん。ひとりでいい。おみせのちかくをおさんぽするだけ」

 余り話はしなかったが以前よりも流暢に話せるようになってきている。
 偶に飲みに来てくれる薬師からそろそろ運動もした方がいいと提案を受けた。
 診療ではなく飲みついでの雑談なので料金はいいと言ってくれる優しい人だ。
 ディンバーが私を虐待していないか見張っているような気もするけど。

「あまり遠くには行くなよ」
「あい」

 ピッと手をあげて私は店を出る。
 店の場所は大通りから外れた場所にあるため、人通りも少ない。
 まずは大通りへと向かうことにした。
 この王都における大通りとはその名の通り大きな通り。
 王城のある場所が少し高い場所にあり、そこを囲むように都市は発展しているのだ。
 王都の外壁から王城へ向かう大きな通りは4本。それらを大通りと呼ぶ。
 それはカリアが生きていた時代と変わりないようだ。

(変わりない、というか変われなかったという方が正しいのかな)

 本来なら王都が栄えるほどに外壁が外へと広がって新たな外壁を建設されるもの。
 しかし、この国の力は衰える一方で後宮ですら崩れた場所があったくらいだ。外壁に大きな穴が空いていたとしてもきっと私は驚かないし、どうやら外側に新たな街が作られたようでもなかった。
 今日の目的地は王都の東側で行われる露店市場。
 現在の場所から大人の足で1時間ほどかかる場所にある。
 子供の足ならその倍かかるだろうと考えて早めに出てきたのだが、体力のない体は目的地へ辿り着く前に足が動かなくなった。

「ちゅかれた」

 邪魔にならないように端のほうでちょこんっと座って休憩する。

(できればもう少し歩きたかったんだけど)

 これではまだディンバーの店に住む前の方が体力があった。
 後宮では体力と傷を回復することにひたすら努めていたので、最低限の体力はつけていたのだ。
 ベッド生活もそれなりにあったせいもあってか体力づくりを怠っていた私の落ち度だ。
 かといってやはり子供の足で市場まで向かうのは考えが甘すぎた。
 通り過ぎる人を眺めながら、ふくらはぎをトントントンと叩く。
 行けたところで帰ることが出来なければ大変だ。

(今日は諦めようかな)

 体力がない。今日だってまだ30分しか歩いてない。
 体を鍛えていなかった1度目の私よりも体が弱い。
 まあ、子供の体で家から出られない生活を何ヶ月も続けていたらそうもなるかと溜息を吐く。

「まずはたいりょくから」

 目標は市場に辿り着けるようになるまで。
 露店市場は基本的に王都の東側にある商業区の下層で行われる市場だ。
 朝方から昼過ぎまで露店が立ち並び、果実から骨董品まで様々なものが売られる。
 今生ではまだ行ったことがないので少し興味があったのだが、諦めたほうがいいだろう。

(体力がついたらまたチャレンジしよう)

 街行く人は私を見ても声をかけてきたりはしない。
 足早に歩く人が殆どで、それぞれに今日を生きるだけで精一杯なのだろう。
 人々を眺めていると、見知った顔が近づいてきた。 

「あれ? ライアちゃん」
「すぴな」
「どうしたのこんなところで」

 シャツにロングスカートとラフな格好のスピナが私を覗き込む。
 スピナの家はこの近くなのだろうか。
 格好を見るにいつもの出勤服だ。
 きっと店に向かう途中だと見当がつく。
 私はそんなスピナへ両手を伸ばした。

「ん?」
「だっこ」

 まだ少し舌足らずな口調でそう催促する。
 すると、スピナは変な声を上げて手で口を覆った。

「は、え!? ライアちゃんの、だっこおねだり……今日が私の命日か」
「う?」
「なんでもないない。はい、どーぞ」

 少し鼻血が垂れているが、それを指摘はしない。
 割と仕事以外の場所では私に構おうとして鼻血を出しているので流石に慣れてしまったのだ。
 周囲から疑わしい視線で見られてもなんのその。
 いい意味で周囲を気にしないのはスピナの長所なので私はスピナに指示されるまま彼女の背中へ体重を預けた。

「店に行くところだけどこのまま連れて帰って良いんだよね?」
「あい。ありあと」
「どういたしまして」

 よいしょっと私を抱え直してから彼女は歩き出した。
 私からすれば30分の道のりを彼女は少しだけ足早に店へと戻っていく。
 こうしておんぶして貰うと気付くが彼女の背中は余り揺れない。平均よりも軽いとは言えどそれなりに重い筈なのに全く疲れを感じさせない歩きに少しばかりの違和感を感じた。
 この世界の人は普段の移動を徒歩で済ませる分、健脚な人が多い。
 それにしても上半身が殆ど揺れないなんてことはあるだろうか?
 そんな私の思考はのんびりとしたスピナの声かけに遮られる。

「今日は何してたの?」
「おさんぽ」
「へぇ。それで疲れちゃったかぁ」
「あい」
「どこまで行きたかったの?」
「いちば」
「ここから近いとなると……東通りの市場かぁ。流石に遠いねぇ」
「たいりょくがんばる」
「そうだね。もっと元気になったら一緒に行こっか」
「あい」

 さり気無くお出かけの約束をスピナとすると何を妄想したのか更に血を噴き出していた。
 私をおんぶしているから鼻血はそのままなのだけどいいのだろうか。
 店先を掃除していたディンバーがそんなスピナを見て生ごみを見るかのような顔をした。

「何鼻血出してるんだ、スピナ」
「ふえ、鼻血出てます?」
「出てる出てる」
(気付いてなかったのね)

 中々に変態だなと私は思いつつ降ろしてもらう。

(とにかく、暫くは体力作りを目標に目指せ市場)

 私はふんすと一人奮起した。



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