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第一章 離宮の住人
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「わぁ、美味しそうだね。早く食べよう、リーシャ!」
「ふふ、はい。では、失礼いたします」
私はテーブルに殿下と自分のぶんの昼食を並べると、用意しておいた自分の椅子に腰を下ろした。
目の前に座った殿下が、にこにことそんな私を見ている。
ここで働くようになってふた月が経った頃からだっただろうか。私は、殿下共に食事を摂るようになっていた。
本来は王族と使用人が同じ席で食事を摂るなどとんでもないことだが、主人の要望であれば例外もある。
それでも毎食一緒に食事をする主従など聞いたことはないが、王族である自分の世話を一人でしていること自体前列がないのだから、そんなこと気にしなくていいと思うと殿下に言われてしまったのだ。
一緒に食事ができれば片付けなどの効率も良いため、お言葉に甘えるようになったのだが、存外彼と二人の食事は楽しかったりする。
私の家族のことを話したり、殿下のお母様のことを聞いたりと、色々な話をすることができたので、殿下とより親しくなれたように感じている。
殿下のお母様は、病弱で控えめな方だったけれど、とても優しくて美しい方だったそうだ。お会いしてみたかったですと言うと、殿下は嬉しそうに笑った。
お父様が借金を作ってしまった話をすると、殿下は一瞬呆れたような顔をした後、「でも、リーシャがここに来てくれたのはそのおかげだから、なんとも言えないや」と複雑そうに苦笑していた。
殿下と一緒に食事をするなんていいのだろうかと、初めは緊張していたけれど、今は殿下と同じテーブルにつけるこの時間が、とても楽しみになってしまった。
……だって、美味しそうに食べる殿下のお顔を、正面から見ることができるんですもの!
殿下の食べっぷりは本当に良い。
たくさん食べる姿は見ていて気持ちがいいし、美味しそうに食べてくれる殿下を見ているだけで嬉しい。
それだけで、もっと色々なものを作って差し上げたくなるのだ。
野菜はあまり好きではないようだが、顔を強張らせながらもきちんと食べてくれている。殿下のそんな微妙な表情の変化を見分けられるのも、こうして目の前で座って観察できるようになったからである。
微笑ましい気持ちで殿下の様子を見ながら食事をしていると、殿下が何か思い出したようにパッと私に顔を向けた。
「そうだ。ねぇ、リーシャ。僕、魔法で掃除を手伝うよ」
突然、殿下が掃除をすると言い出した。私は目を剝いて、すぐさま遠慮する。
「ええっ!? そんな、大丈夫ですよ。掃除はわたくしの仕事ですから」
魔法を使うとはいえ、王子に掃除をさせるなんてとんでもない。その場面を想像してみれば、とても異常な絵面であることは明らかだ。
「でも、あの時みたいに脚立から落ちたら困るでしょう? なら、高いところだけ手伝うのはどう?」
「そ、そうですね。それなら、いい……のでしょうか……?」
脚立から落ちかけた前例があるため、危険性を問われれば否定はできない。実際、あれからあの脚立を使うのが怖くて、高いところがなかなか掃除できないでいたのだ。
何だか流されてしまったような気がするけれど、殿下が満足そうな笑みを浮かべているし、本音を言えばとても助かるので、まあいいかと思うことにする。
……それにしても、殿下はいい主人よね。
普通、使用人が脚立から落ちかけたとはいえ、自分がやると言い出す王族はいないと思う。こんなに優しい主人を持てて幸運だと思うと同時に、早く彼の冷遇が終わればいいのにと願ってしまう。
そんなことを考えていると、ふと殿下のフォークが動きを止めた。
私の様子を窺うようにこちらを見ては、ふと目を逸らす。
そして、おもむろに口を開いた。
「……リーシャは、婚約者とか、恋人はいるの?」
「ふふ、はい。では、失礼いたします」
私はテーブルに殿下と自分のぶんの昼食を並べると、用意しておいた自分の椅子に腰を下ろした。
目の前に座った殿下が、にこにことそんな私を見ている。
ここで働くようになってふた月が経った頃からだっただろうか。私は、殿下共に食事を摂るようになっていた。
本来は王族と使用人が同じ席で食事を摂るなどとんでもないことだが、主人の要望であれば例外もある。
それでも毎食一緒に食事をする主従など聞いたことはないが、王族である自分の世話を一人でしていること自体前列がないのだから、そんなこと気にしなくていいと思うと殿下に言われてしまったのだ。
一緒に食事ができれば片付けなどの効率も良いため、お言葉に甘えるようになったのだが、存外彼と二人の食事は楽しかったりする。
私の家族のことを話したり、殿下のお母様のことを聞いたりと、色々な話をすることができたので、殿下とより親しくなれたように感じている。
殿下のお母様は、病弱で控えめな方だったけれど、とても優しくて美しい方だったそうだ。お会いしてみたかったですと言うと、殿下は嬉しそうに笑った。
お父様が借金を作ってしまった話をすると、殿下は一瞬呆れたような顔をした後、「でも、リーシャがここに来てくれたのはそのおかげだから、なんとも言えないや」と複雑そうに苦笑していた。
殿下と一緒に食事をするなんていいのだろうかと、初めは緊張していたけれど、今は殿下と同じテーブルにつけるこの時間が、とても楽しみになってしまった。
……だって、美味しそうに食べる殿下のお顔を、正面から見ることができるんですもの!
殿下の食べっぷりは本当に良い。
たくさん食べる姿は見ていて気持ちがいいし、美味しそうに食べてくれる殿下を見ているだけで嬉しい。
それだけで、もっと色々なものを作って差し上げたくなるのだ。
野菜はあまり好きではないようだが、顔を強張らせながらもきちんと食べてくれている。殿下のそんな微妙な表情の変化を見分けられるのも、こうして目の前で座って観察できるようになったからである。
微笑ましい気持ちで殿下の様子を見ながら食事をしていると、殿下が何か思い出したようにパッと私に顔を向けた。
「そうだ。ねぇ、リーシャ。僕、魔法で掃除を手伝うよ」
突然、殿下が掃除をすると言い出した。私は目を剝いて、すぐさま遠慮する。
「ええっ!? そんな、大丈夫ですよ。掃除はわたくしの仕事ですから」
魔法を使うとはいえ、王子に掃除をさせるなんてとんでもない。その場面を想像してみれば、とても異常な絵面であることは明らかだ。
「でも、あの時みたいに脚立から落ちたら困るでしょう? なら、高いところだけ手伝うのはどう?」
「そ、そうですね。それなら、いい……のでしょうか……?」
脚立から落ちかけた前例があるため、危険性を問われれば否定はできない。実際、あれからあの脚立を使うのが怖くて、高いところがなかなか掃除できないでいたのだ。
何だか流されてしまったような気がするけれど、殿下が満足そうな笑みを浮かべているし、本音を言えばとても助かるので、まあいいかと思うことにする。
……それにしても、殿下はいい主人よね。
普通、使用人が脚立から落ちかけたとはいえ、自分がやると言い出す王族はいないと思う。こんなに優しい主人を持てて幸運だと思うと同時に、早く彼の冷遇が終わればいいのにと願ってしまう。
そんなことを考えていると、ふと殿下のフォークが動きを止めた。
私の様子を窺うようにこちらを見ては、ふと目を逸らす。
そして、おもむろに口を開いた。
「……リーシャは、婚約者とか、恋人はいるの?」
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