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第一章 離宮の住人
お出迎え
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私が第二王子の離宮で働くようになってから、もうすぐ四ヶ月。
殿下は初めて会った時とは別人のように、明るく健康的な姿になっていった。背も少し伸びてきているので、服を新しくしなければならないほどだった。
殿下が「たくさんは必要ない」と言うので最低限だが、私がサイズを測って注文した質の良い服が、先日届いたばかりだ。
王族には、生きているだけで支給されるお金が存在する。第二王子の金額は第一王子とは比べ物にならないほど低く設定されているらしいが、支給しないのも問題らしい。殿下はずっとここにいて使うことがないので、金銭的には余裕があったそうだ。
伯母に相談すれば、服の注文は簡単にできた。
「リーシャ、おはよう!」
「まぁ、殿下。もう起きていらしたのですか!?」
早朝、いつものように出勤すると、離宮の主が玄関で待ち構えていた。
肩の辺りまで伸ばしっぱなしの淡い金髪が、扉から差し込んだ朝日に輝いている。自身の魔法で身綺麗にしてはいるようだが、彼が着ているのは、先日新しくしたばかりの夜着である。
「お部屋で待っていてくださいと、先日も申し上げましたのに! それに、いつからここにいらしたのですか? お風邪を召されてしまいますよ」
「だって、早くリーシャに会いたかったんだ。あ、それ、食材だね。僕が持つよ!」
私が持つ籠には、指定された食料庫から持ってきた食材がたくさん入っている。彼がそれに手を伸ばすのを、私は慌てて制止した。
「いけません、殿下。使用人であるわたくしの荷物を王子様に持っていただくだなんて、恐れ多いです! そんなことをしていただいては、わたくし、怒られてしまいますよ」
「ここには僕たちしかいないのに、誰が怒るって言うの? いいから、早く厨房へ行こう。僕、早くリーシャが作った朝食が食べたい!」
「もう、殿下ったら……」
奪うように籠を受け取った殿下がにこにこと笑うので、私はそれ以上何も言えなかった。
まさか彼がこんなふうになるとは、思ってもいなかった。
初めは声をかけても部屋から出てきてくれなかったというのに、ずいぶんと心を開いてくれたものだと思う。
聞きたいことも聞けずにただ飲み込んでいた頃の彼と比べると、とても明るくなったとも思う。
でも、きっとこれが本来の殿下の姿なのだろう。それをようやく見せてくれるようになったのだと思えば、彼の行動を強く止める気にもなれない。
明るく笑う殿下の姿に、私も思わず笑みを浮かべた。
厨房へ先にたどり着いた殿下が、食材の入った籠を調理台に置き、追いついた私を振り返る。
「今日は何を作るの?」
「今日は卵がたくさんあったので、オムレツを作ります! それと、ロールパンのベーコンサンドイッチを作ろうかと」
「うわぁ、美味しそう。楽しみ!」
笑顔で見上げてくる殿下は、とても嬉しそうだ。
初めて食事をお出しした時から、彼がとても美味しそうに食べてくれるのを喜んでいたけれど、よくよく話を聞いてみれば、それも当然のことかもしれなかった。
私が来るまで、側妃が亡くなってこの離宮で暮らすようになって以降、彼に出されていたのは王族にふさわしくない食事だったと伯母から聞いていた。
でも、それは料理とはとても言えないものばかりだったのだ。
作り置きのパンにハムやチーズ、フルーツなど、そのまま食べられるものが一日に一度玄関に置かれていただけで、調理された食事は本当に久しぶりだったらしい。
似たようなものばかりでは当然飽きてしまうため、それほど食が進まないし、そもそも用意される量も充分ではなかったそうだ。
だからだろう。少し大きくなってきたとはいえ、彼は同い年の弟ルディオと比べると、まだまだ体が小さい。そんな彼の姿を見ると、これからはたくさん食べてもらって、すくすくと成長してもらいたいと強く思う。
私は張り切って、朝食を作り始めた。
殿下は初めて会った時とは別人のように、明るく健康的な姿になっていった。背も少し伸びてきているので、服を新しくしなければならないほどだった。
殿下が「たくさんは必要ない」と言うので最低限だが、私がサイズを測って注文した質の良い服が、先日届いたばかりだ。
王族には、生きているだけで支給されるお金が存在する。第二王子の金額は第一王子とは比べ物にならないほど低く設定されているらしいが、支給しないのも問題らしい。殿下はずっとここにいて使うことがないので、金銭的には余裕があったそうだ。
伯母に相談すれば、服の注文は簡単にできた。
「リーシャ、おはよう!」
「まぁ、殿下。もう起きていらしたのですか!?」
早朝、いつものように出勤すると、離宮の主が玄関で待ち構えていた。
肩の辺りまで伸ばしっぱなしの淡い金髪が、扉から差し込んだ朝日に輝いている。自身の魔法で身綺麗にしてはいるようだが、彼が着ているのは、先日新しくしたばかりの夜着である。
「お部屋で待っていてくださいと、先日も申し上げましたのに! それに、いつからここにいらしたのですか? お風邪を召されてしまいますよ」
「だって、早くリーシャに会いたかったんだ。あ、それ、食材だね。僕が持つよ!」
私が持つ籠には、指定された食料庫から持ってきた食材がたくさん入っている。彼がそれに手を伸ばすのを、私は慌てて制止した。
「いけません、殿下。使用人であるわたくしの荷物を王子様に持っていただくだなんて、恐れ多いです! そんなことをしていただいては、わたくし、怒られてしまいますよ」
「ここには僕たちしかいないのに、誰が怒るって言うの? いいから、早く厨房へ行こう。僕、早くリーシャが作った朝食が食べたい!」
「もう、殿下ったら……」
奪うように籠を受け取った殿下がにこにこと笑うので、私はそれ以上何も言えなかった。
まさか彼がこんなふうになるとは、思ってもいなかった。
初めは声をかけても部屋から出てきてくれなかったというのに、ずいぶんと心を開いてくれたものだと思う。
聞きたいことも聞けずにただ飲み込んでいた頃の彼と比べると、とても明るくなったとも思う。
でも、きっとこれが本来の殿下の姿なのだろう。それをようやく見せてくれるようになったのだと思えば、彼の行動を強く止める気にもなれない。
明るく笑う殿下の姿に、私も思わず笑みを浮かべた。
厨房へ先にたどり着いた殿下が、食材の入った籠を調理台に置き、追いついた私を振り返る。
「今日は何を作るの?」
「今日は卵がたくさんあったので、オムレツを作ります! それと、ロールパンのベーコンサンドイッチを作ろうかと」
「うわぁ、美味しそう。楽しみ!」
笑顔で見上げてくる殿下は、とても嬉しそうだ。
初めて食事をお出しした時から、彼がとても美味しそうに食べてくれるのを喜んでいたけれど、よくよく話を聞いてみれば、それも当然のことかもしれなかった。
私が来るまで、側妃が亡くなってこの離宮で暮らすようになって以降、彼に出されていたのは王族にふさわしくない食事だったと伯母から聞いていた。
でも、それは料理とはとても言えないものばかりだったのだ。
作り置きのパンにハムやチーズ、フルーツなど、そのまま食べられるものが一日に一度玄関に置かれていただけで、調理された食事は本当に久しぶりだったらしい。
似たようなものばかりでは当然飽きてしまうため、それほど食が進まないし、そもそも用意される量も充分ではなかったそうだ。
だからだろう。少し大きくなってきたとはいえ、彼は同い年の弟ルディオと比べると、まだまだ体が小さい。そんな彼の姿を見ると、これからはたくさん食べてもらって、すくすくと成長してもらいたいと強く思う。
私は張り切って、朝食を作り始めた。
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