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第二章 魔塔の魔法使い
意趣返し
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第一王子の拳がギュッときつく握られるのを見て、私は彼を少しだけ信じてみようと思った。
「……第二王子殿下は、誰も恨んではおられないご様子でしたよ」
私がそう言うと、第一王子はバッと顔を上げた。
「長い間このような場所に閉じ込められていても、満足に世話をしてもらえていなくても、まだ幼いのにお一人でご立派に過ごされていました。誰に教えられずとも、お一人で本を読み、魔法を覚えておられました。とても賢く、優しい方です。第一王子殿下も、実際にお話をされてみればわかると思います」
「……ノラードは、俺と話をしてくれると思うか?」
私に向けられたのは睨むような眼差しだったが、その瞳は不安げに揺れていた。
そんな彼に私は、にっこりとした笑顔でこう言った。
「それは、わたくしにはわかりかねますね」
あの時の第一王子の唖然とした顔は、かなり見物だった。
どうやら私は、ノラード様を冷遇してきた王族たちに、かなり思うところがあったらしい。少しは信じてみてもいいかもしれないとは思っても、今のところ彼に対して必要以上に優しくしようとか、積極的に仲を取り持ってあげようという気にはなれなかった。
けれど、そんなふうに返されても結局めげなかった第一王子は、その後、度々私を呼び出してノラード様の話をせがんできた。
何が好きで、何が嫌いか、どうすれば喜ばせることができるかとしつこく聞かれて、正直うんざりしてしまった。
メイドの仕事があるから話をしている時間などないと言えば、なんと自分の専属になればいいとまで言い出した。
「俺の専属になれば、給料は今の二倍出す」
第一王子がいきなり王手を打ってきた。
お前ならこれを断るはずがないよなと言う、彼の勝利を確信した笑みが憎らしい。
私の家庭の事情を知ることなど、第一王子には朝飯前らしい。交渉相手の情報をきちんと調べる手腕を讃える気には到底なれなかったが、相手は第一王子であるし、条件を考えれば断るのは得策ではない。
だが、素直に頷くのも癪だった。
私はにこりと笑みを浮かべてこう言った。
「三倍にしてくださるのなら、お受けいたします」
私の返事に第一王子は目を見開いて愕然としていたが、これくらいの意趣返しは許して欲しい。
私はまだ、ノラード様の兄として彼を認めたわけではないのだ。
こうして私は第一王子の専属メイドになったわけだが、彼にはすでに専属メイドが充分にいたため、私の仕事はほとんどなく、通常の業務との兼任となった。
私の専属としての仕事は、たまに彼にお茶を淹れ、ノラード様の話をすることだけと言えた。
そのおかげで借金は順調すぎるほど順調に返済が進んでいるので、彼には感謝しないこともないのだが。
専属となったことで通常の仕事よりも彼を優先させなければならなくなったので、第一王子から堂々と頻繁に呼び出されるようになってしまい、私は少し後悔することになっていたのだった。
「……第二王子殿下は、誰も恨んではおられないご様子でしたよ」
私がそう言うと、第一王子はバッと顔を上げた。
「長い間このような場所に閉じ込められていても、満足に世話をしてもらえていなくても、まだ幼いのにお一人でご立派に過ごされていました。誰に教えられずとも、お一人で本を読み、魔法を覚えておられました。とても賢く、優しい方です。第一王子殿下も、実際にお話をされてみればわかると思います」
「……ノラードは、俺と話をしてくれると思うか?」
私に向けられたのは睨むような眼差しだったが、その瞳は不安げに揺れていた。
そんな彼に私は、にっこりとした笑顔でこう言った。
「それは、わたくしにはわかりかねますね」
あの時の第一王子の唖然とした顔は、かなり見物だった。
どうやら私は、ノラード様を冷遇してきた王族たちに、かなり思うところがあったらしい。少しは信じてみてもいいかもしれないとは思っても、今のところ彼に対して必要以上に優しくしようとか、積極的に仲を取り持ってあげようという気にはなれなかった。
けれど、そんなふうに返されても結局めげなかった第一王子は、その後、度々私を呼び出してノラード様の話をせがんできた。
何が好きで、何が嫌いか、どうすれば喜ばせることができるかとしつこく聞かれて、正直うんざりしてしまった。
メイドの仕事があるから話をしている時間などないと言えば、なんと自分の専属になればいいとまで言い出した。
「俺の専属になれば、給料は今の二倍出す」
第一王子がいきなり王手を打ってきた。
お前ならこれを断るはずがないよなと言う、彼の勝利を確信した笑みが憎らしい。
私の家庭の事情を知ることなど、第一王子には朝飯前らしい。交渉相手の情報をきちんと調べる手腕を讃える気には到底なれなかったが、相手は第一王子であるし、条件を考えれば断るのは得策ではない。
だが、素直に頷くのも癪だった。
私はにこりと笑みを浮かべてこう言った。
「三倍にしてくださるのなら、お受けいたします」
私の返事に第一王子は目を見開いて愕然としていたが、これくらいの意趣返しは許して欲しい。
私はまだ、ノラード様の兄として彼を認めたわけではないのだ。
こうして私は第一王子の専属メイドになったわけだが、彼にはすでに専属メイドが充分にいたため、私の仕事はほとんどなく、通常の業務との兼任となった。
私の専属としての仕事は、たまに彼にお茶を淹れ、ノラード様の話をすることだけと言えた。
そのおかげで借金は順調すぎるほど順調に返済が進んでいるので、彼には感謝しないこともないのだが。
専属となったことで通常の仕事よりも彼を優先させなければならなくなったので、第一王子から堂々と頻繁に呼び出されるようになってしまい、私は少し後悔することになっていたのだった。
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