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第二章 魔塔の魔法使い

友を訪ねて

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「……で、何をしているんだ、お前は」
 
「申し訳ございません……」
 
 今日は、週に一度の午後休の日。
 私は自分の感情を一人で抱えていることに耐えかねて、少し前まで勤めていた場所に足を運んだ。
 
 そう、目の前にいるこの男、王太子の離宮である。
 
 しかしここは、すでに専属を辞した私が正当な理由もなく足を踏み入れていい場所ではない。
 
 どうするべきかと周辺をうろついていたところ、運良くといえばいいのか訪ねた本人に見つかったようで、不審者よろしく彼に捕獲されたというわけである。
 
 手近な部屋へ通され、客のように対面に座らされてはいるが、王太子の表情は客を見るものではない。まるで彼に呼び出された以前の私のような、面倒そうな顔をしている。
 
「ノラードのことについていい報告でもあるのかと思ったが、どうやらそうではないようだな」
 
「その通りです……」
 
 自分の不甲斐なさに落ち込んでいる今は、素直に自分の非を認めることしかできない。
 
 私はノラード様と接する中で、王太子に関しての話を度々するようにしていた。それは、一応長い間彼にお世話になった身としては、当然のことだろうと思っている。
 
 それに、二人が仲直りできればいいなと私も思っているのだ。過去のことは変えられないけれど、当時王太子はまだ子供だったし、今は心を入れ替えている。一人だけでも血の繋がった家族が味方でいてくれるなら、ノラード様にとって悪いことではないはずだ。それが多少横柄な兄だとしても。
 
 しっかりと指示を受けたわけではないが、王太子もきっと私の橋渡しを期待していたのだろう。まるで連絡を待っていたかのような発言だ。
 
 でも、ノラード様は私が王太子の話をする度に、なぜかすこぶる不機嫌になるのだ。とても橋渡しなどできそうな雰囲気にはならなかった。
 
 王太子の態度が多少変わったとはいえ、まだ時間が必要なのかもしれない。私が少しずつでも話を続けていれば、いつかは兄に会う気が起きるかもしれないとは思っていたが、まだその時ではないと思う。
 
 それでも今日ここへ来たのは、私が王太子と話をしたかったからだ。
 
「全く、この忙しくて大変な時に……。かなり嫌な予感がするが、お前がそんな状態になるということは、それなりの理由があるのだろう。聞いてやるから、言ってみろ」
 
「はい……」
 
 どうやら彼は、最近多忙なようだ。
 
 いつもたくさんの仕事をこなしてはいたが、このような言い方をすることは珍しいので、今は何か特殊な案件を抱えているのかもしれない。
 
 よく見てみたら、彼は心なしか少しやつれているような気もする。よほど大変な案件なのだろうか。
 
 それでも、偉そうな態度は相変わらずとはいえ、素直に話を聞いてくれるのはありがたい。
 
 こんなこと、他の誰にも相談できないような内容だけれど、彼だけは違う。
 今まで散々、私は彼の相談に乗ってきたのだ。私だって、一度くらいは相談に乗ってもらっても罰は当たらないと思う。
 
 彼は権力者だが、だからこそ、彼の意見を聞くことで気持ちに整理がつけられる気がしたのだ。
 
 そう、私はいっそ「あり得ない」「諦めろ」と、キッパリ引導を渡してもらいたいのかもしれない。
 
「実はですね……」
 
 私は恥ずかしいのをグッと堪えながら、できるだけ淡々と、彼に現状を説明した。
 
 
 
「……本気で言っているのか?」
 
 王太子が、青ざめた表情でこちらを見ている。
 やはり、私の想いは信じられないほど図々しく、恐れ多いものらしい。
 
「そうですよね。私がノラード様に対してこんな感情を持ってしまうなんて、やっぱりどう考えても……」
 
「そうじゃない! お前、そんだけ色々されたり言われたりしてて何で……いや待て、それならこの状況はまずくないか!? なんでそんな中途半端な状況で俺のところに来るんだ! 俺と弟の仲をこれ以上破滅的なものにする気か!? 今すぐに帰れ!」
 
「……はい?」
 
 王太子がいきなり慌てたようにキョロキョロと周囲を確認し始めたと思えば、帰れと言われた。意味がわからない。それに、私は今、私とノラード様の話をしていたはずなのに、どうして王太子とノラード様の仲が破滅的なものになるのだろう。
 
 わけがわからなくて首を傾げると、王太子はさらに苛ついたように声を荒らげた。
 
「この馬鹿! いいから今すぐ……」
 
 ーーバン!!
 
 突然大きな音をたてて開いた扉の方へ目を向けると、そこには静かな笑みを浮かべたノラード様が立っていた。
 
 
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