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第二章 魔塔の魔法使い
困惑
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「あああ~、もう、本当にどうしよう……」
もうすぐ出勤時間だというのに、私は離宮の前でうだうだとしていた。
それというのも、全てノラード様のせいなのである。
彼がここ最近、というよりも帰ってきてからずっとなのだが、私への態度が甘すぎるのだ。
いつもとろけるような眼差しでこちらを見てくるし、以前よりスキンシップも増えた。
最近は毎日、朝来た時と帰る時には必ずハグをしてくるし、頭を撫でられたり、たまに頬を触られたりもする。初めは断りを入れてからだったのに、私が特に断らないと知ると、もはや遠慮がなくなってきた。
今は料理人が作った料理やお菓子を好きなだけ食べられるのに、私の手作りを一番喜んでくださることもそう。
他の人にはいつも無表情なのに、私を視界に捉えた途端にとびきりの笑顔を向けてくるなんて反則だ。駄目だとわかっているのに、胸がときめいてしまう。
元々、昔から彼の人懐っこくて優しい人柄にはとても好感を持っていた。だから決して嫌ではないのだが、成長した姿でそんなことをされたら、どうしても意識してしまうのだ。
……しっかりするのよ、私。ノラード様は昔から、私にお世話係として懐いてくれていたじゃない。彼はまた会えたのが嬉しくて、表現がちょっぴり大げさになってしまっているだけよ。それなのに、分不相応な気持ちを抱くなんて許されないわ。
押さえつければ押さえつけるほど、胸が苦しくなっていく。
私の我慢は、徐々に限界に近づきつつあった。
「リーシャ、おはよう!」
普段より少し遅れてノラード様の部屋へ向かうと、彼はいつものように明るい笑顔で出迎えてくれた。そして、私が持っている朝食のトレイを鮮やかに奪うと、片手で軽く私を抱き寄せてハグをした。
……あああああ。やっぱり、これってもう、なんていうか、恋人にする仕草なんじゃないかしら? 少なくとも、ただのお世話係にする行動じゃないと思うの!
顔に熱が集まるのを止められない。
彼にそれを知られたくなくて、思わずうつむく。どうか気づかれませんように、と願いながら。
「お、おはようございます。遅くなってしまい申し訳ございません」
「ううん、体調でも悪いのかなって少し心配したけど、平気ならいいんだ。リーシャに会えるだけで、僕は嬉しいから」
……ですから、そういうことを思わず見惚れてしまうような笑顔で言わないでください!
グッとお腹に力を入れて、表情を取り繕う。
……これって、もう手遅れなんじゃないかしら? この胸の高鳴りに気づかない振りをするなんて、もう無理なんじゃないかしら?
「ノラード様……」
「リーシャ?」
彼を見上げて名前を呼べば、彼は首を傾げて私を見つめた。様子がおかしい私を心配するような、そんな声音だ。
「いえ、なんでもありません。遅くなってしまいましたから、早く食べましょう」
なんとか表情を切り替えて、朝食を勧める。
「……? うん」
平静を装ってテーブルに向かう私を、ノラード様の不思議そうな声が追いかけてきた。
このままではまずい。
でも、どうしたらいいのだろう。
誰かに相談でもできたらいいのに……。
そう考えた私の頭に、ふと一人の人物が浮かんだのだった。
もうすぐ出勤時間だというのに、私は離宮の前でうだうだとしていた。
それというのも、全てノラード様のせいなのである。
彼がここ最近、というよりも帰ってきてからずっとなのだが、私への態度が甘すぎるのだ。
いつもとろけるような眼差しでこちらを見てくるし、以前よりスキンシップも増えた。
最近は毎日、朝来た時と帰る時には必ずハグをしてくるし、頭を撫でられたり、たまに頬を触られたりもする。初めは断りを入れてからだったのに、私が特に断らないと知ると、もはや遠慮がなくなってきた。
今は料理人が作った料理やお菓子を好きなだけ食べられるのに、私の手作りを一番喜んでくださることもそう。
他の人にはいつも無表情なのに、私を視界に捉えた途端にとびきりの笑顔を向けてくるなんて反則だ。駄目だとわかっているのに、胸がときめいてしまう。
元々、昔から彼の人懐っこくて優しい人柄にはとても好感を持っていた。だから決して嫌ではないのだが、成長した姿でそんなことをされたら、どうしても意識してしまうのだ。
……しっかりするのよ、私。ノラード様は昔から、私にお世話係として懐いてくれていたじゃない。彼はまた会えたのが嬉しくて、表現がちょっぴり大げさになってしまっているだけよ。それなのに、分不相応な気持ちを抱くなんて許されないわ。
押さえつければ押さえつけるほど、胸が苦しくなっていく。
私の我慢は、徐々に限界に近づきつつあった。
「リーシャ、おはよう!」
普段より少し遅れてノラード様の部屋へ向かうと、彼はいつものように明るい笑顔で出迎えてくれた。そして、私が持っている朝食のトレイを鮮やかに奪うと、片手で軽く私を抱き寄せてハグをした。
……あああああ。やっぱり、これってもう、なんていうか、恋人にする仕草なんじゃないかしら? 少なくとも、ただのお世話係にする行動じゃないと思うの!
顔に熱が集まるのを止められない。
彼にそれを知られたくなくて、思わずうつむく。どうか気づかれませんように、と願いながら。
「お、おはようございます。遅くなってしまい申し訳ございません」
「ううん、体調でも悪いのかなって少し心配したけど、平気ならいいんだ。リーシャに会えるだけで、僕は嬉しいから」
……ですから、そういうことを思わず見惚れてしまうような笑顔で言わないでください!
グッとお腹に力を入れて、表情を取り繕う。
……これって、もう手遅れなんじゃないかしら? この胸の高鳴りに気づかない振りをするなんて、もう無理なんじゃないかしら?
「ノラード様……」
「リーシャ?」
彼を見上げて名前を呼べば、彼は首を傾げて私を見つめた。様子がおかしい私を心配するような、そんな声音だ。
「いえ、なんでもありません。遅くなってしまいましたから、早く食べましょう」
なんとか表情を切り替えて、朝食を勧める。
「……? うん」
平静を装ってテーブルに向かう私を、ノラード様の不思議そうな声が追いかけてきた。
このままではまずい。
でも、どうしたらいいのだろう。
誰かに相談でもできたらいいのに……。
そう考えた私の頭に、ふと一人の人物が浮かんだのだった。
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