半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第一章

幕間 トーアの幸運

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 僕はトーア。片田舎の辺境の、とある村に住んでいる。

 僕は物心ついた時から本が好きで、一人で本を読んでばかりいた。冒険物語が特に好きで、冒険者に憧れたけど、僕は戦うのは好きじゃなかったので、なりたいとは思わなかった。僕がなりたいと思ったのは、冒険に不可欠な様々なアイテムを作る、魔道具師だ。

 でも、魔道具師になれるのは、ほんの一部のお金持ちだけらしい。魔道具は高級品だから、領主様だって、少ししか持っていないそうだ。
それなら、僕は薬師になろうと思った。薬師なら、人の役に立つものを作る人というところは同じだから。

 でも、薬師になるにも、色々と問題があった。
 まず、先生になってくれる人がいない。僕のいる村には、薬師は領主のお抱え一人しかいないのだが、彼に教わるのは、絶対に嫌だ。
 お金にがめつくて、貧乏人には薬なんてもったいないって、平気で言うような人なんだ。

 お金がないのも、問題だ。僕はまだ子供だから、ここを出ていくのは絶対に無理だけど、大人になっても、きっと無理だと思う。僕は運動が苦手だから、魔獣を自分でやっつけるなんて想像もできないし、出ていくための護衛を雇うお金を、両親が出してくれるはずがないからだ。

 そう。一番の問題は、僕の両親だ。両親は二人とも権力欲が強い人で、いつも領主に媚を売り、取り巻きのようなことをしている。領主の威を借りて、いつも偉そうにしている両親が、僕は好きじゃなかった。それに、たまに兄たちと僕を領主の屋敷へ連れ出して、領主の息子に取り入ってこいと、命令してくるのだ。

 でも僕は、それがすごく嫌で、積極的な兄たちに任せ、言うことをきく振りをして、いつもそれとなく逃げていた。だって、領主の息子は、すごく嫌なやつなんだ。偉そうだし、気に入らないことがあると、すぐに殴ってくる、利かん坊の乱暴者だ。あんなやつと、仲良くなんてなれるわけがない。

 兄たちは体が大きいから、殴られるよりも、殴らされる方をしている。それに、たまに僕のことまで殴ってくる。兄たちは、弟の僕よりも、領主の息子の方が好きらしい。本ばかり読んでる変な奴だって、いつも笑われていたから。

 将来の領主様とは仲良くするべきだろとか、ちゃんと友達を作れとか、両親や兄たちに言われても、僕はかたくなに拒否していた。僕は領主の取り巻きの息子だから、普通の友達はできない。僕の周りの人たちはみんな乱暴者だから、怖がられているんだ。友達ができなくたって、一人で本を読んでいる方がずっといい。僕は、ますます本にのめり込んだ。

 ずっと家で本を読んでいるのも好きだけれど、僕は、実際に薬を作ってみようと思った。一番効果の弱い傷薬なら、近くで採れる薬草で作れそうだったから。

 僕は一人で森の浅い場所へ採集へ行き、本に書いてある通りに調合して、ポーションを作るようになった。初めは上手くできなかったけど、だんだん、本に書いてある通りのものが作れるようになった。怪我をした動物や、自分の体で試してみたが、結構ちゃんとできていたと思う。まだ効果が弱いものしか作れないけど、これで兄たちに殴られても自分で治せると思うと、すごく嬉しかった。
 僕は空いている時間のほとんどを、本を読むか、ポーションを作って過ごした。

 ある日、薬草を採るのに夢中になりすぎて、森の奥へと入ってしまった。そこで、クレーターベアに襲われて、キアラに助けられたんだ。本人は無自覚だったけど。

 キアラは、僕とは友達になれそうだって言ってくれた。僕も、キアラみたいな子なら、友達になりたい。

 ……でも、本当は僕なんか、キアラの友達になっちゃダメなんだ。だって、僕の両親は、キアラとキアラのお母さんをいじめる、領主の取り巻きなんだから。



 キアラのお母さんが、ついに領主様に拐われてしまったらしい。キアラは、お母さんを取り戻すと言って、僕とセラが止めるのを振り切って行ってしまった。

 不安がって泣いているセラを放っておけなくて、ずっとそばで慰め続けた。

 夕方近くになっても、キアラは帰ってこなかった。そろそろ門限だけど、心細さに震えているセラを、一人にはしておけない。両親に怒られるのを覚悟しながら、もうしばらく待っていると、ようやくキアラがお母さんを連れて帰ってきた。

 竜人族のお兄さんまで連れてきたのでびっくりしていたら、さらに驚くべきことがわかった。なんと、キアラは竜人族のお貴族様の娘だったのだ。

 竜人族のお兄さんが、キアラのお母さんをもっとちゃんとしたところで休ませるべきだと言った。僕の家はどうかと訊かれたけど、絶対に無理だ。あの両親と兄たちがいる家でなんて、キアラのお母さんが休めるわけがない。
 
 キアラたちは、別の街へ行くことになった。
 寂しいけど、きっともう会うことはないんだろうと思った。ルーシャスさんは、竜人族の子供であるキアラを大切に思っているらしい。今までキアラをひどい目に遭わせていた領主様を、決して許さないと言った。それなら、きっと僕の両親も同罪だ。嫌われるのが怖くて、最後までキアラに両親のことを言えなかった僕も、罰を受けることになるのかもしれない。
 そう思っていたのに、キアラは、そんな僕にお手紙をくれると言ってくれた。泣きそうなくらい嬉しかったけど、僕はちゃんと、笑顔で手を振って別れたのだった。


 家に帰ると、とんでもない騒ぎになっていた。どうやら、キアラはお母さんを取り戻すために、かなり暴れ回ったらしい。両親も怪我をしていたため、僕がいなかったことを誰も気にしていなかったのは、幸いだった。その日は、夕食も食べずに休むことにした。


 そして予想通り、今までの僕の生活は、あっけなく終わりを迎えた。
 キアラがルーシャスさんに伝えたことによって、領主様は様々な罪を暴かれ、捕らえられることになった。そして、領主様と共謀していた、僕の両親も。
 今まで育ててくれた両親が捕まっているのに、僕は当然のことだなとしか思えなかった。薄情かもしれないけれど、僕はきっと、もうずっと前からあの両親に見切りをつけていたのだろう。兄たちも捕まっていくのをぼうっと眺めながら、このまま僕も捕まるのだと思っていたら、ルーシャスさんが僕に声をかけてくれた。キアラの友達として、僕を覚えていてくれたらしい。

 これまでの事情を説明すると、彼は困ったように唸り声をあげた。

「うーん。このまま君を捕らえると、後でキアラ様から泣かれそうだ」

 どうしてキアラを様付けで呼ぶのかと思ったら、なんとキアラのお父さんは、竜人族の皇帝だったらしい。
 僕の処遇は皇帝に直接決めてもらうことにすると、ルーシャスさんは言った。僕は思いがけず、キアラと同じように、帝都へ行くことになったのだ。

 僕はこれからどうなってしまうのだろうという不安もあったけれど、それよりも、今までの窮屈で不自由な環境から抜け出せることに、胸がわくわくしていた。
 
 キアラが与えてくれたこの幸運に感謝しつつ、僕はこれまで家族だった人たちと、生まれ育った村に、そっと別れを告げたのだった。



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