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第二章
帝国の至宝
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「もう、キアラ様ったら! これから衣装の最終調整をする予定なの、ご存知でしょう?」
「そうですよ。さあ、早く行きましょう!」
「うう、だって~……」
メリアンとリリアンから口々に詰め寄られ、わたしはちょっとげんなりしてしまった。
「ご、ごめんなさい。キアラ様」
自分のせいで見つかってしまったとセラが落ち込むけれど、別にセラが悪いことをしたわけではない。
「いいのよ、セラ。避けられないことだとはわかっているから、ちょっと癒しを求めて飛び出しただけなのに、まったく、二人とも厳しいんだから」
「何をおっしゃっているのですか! あれらのドレスは、もうすぐ行われる建国祭で使う大切な衣装だと知っているでしょう?」
「あとは最終調整だけとはいえ、手を抜くことは許されません! 我が『帝国の至宝』を、世界各国から集まる重鎮の方々に、完璧な姿でお見せしなくてはいけないのですから!」
「わかってるってば~」
最近、わたしのことを「帝国の至宝」なんて呼ぶ人が増えているらしい。確かにわたしは帝国で唯一の皇位継承者だけど、大げさすぎるのよね。
お父様いわく、この呼び名が広まれば広まるほど、わたしが帝国をあげて大切にされていると周知されることになるので、むしろ広げていきたいらしい。軽率にわたしを狙う輩を、牽制できるとかなんとか。
お父様がいつもわたしを大切にしてくれているのはわかっているし、嬉しいんだけど、正直、わたしは皇帝なんて向いていないし、できればやりたくないと思っているのよね……。
だから、いつかわたしに弟か妹ができて、わたしの他にも皇位継承者が増えたらいいな、と密かに思っている。そうしたら、わたしもみんなも嬉しいしね!
お父様が皇帝を引退するまで時間はたっぷりあるだろうし、お父様とお母様はいつも呆れるくらい仲良しだから、無理な話ではないと思うのだ。
「建国祭は一週間後ですものね。針子たちも、少しの狂いもない完璧なドレスを、キアラ様に着て頂きたいのでしょう」
クスクスと笑うセラに、わたしは苦笑いしかできない。
そう。もうすぐ、バルドゥーラ帝国の建国を祝う、建国祭が行われる。
帝国貴族や他国の重鎮を招いて、十年に一度、盛大に行われている由緒ある催しなのだそうだ。当然、わたしは皇族として行事に参加し、参加客たちをおもてなししなければならない。わたしが皇女として行う、初めての国家行事でもあるのだ。
「わかってるってば。でも、あれは着るだけでも大変な、立派すぎるほど立派なドレスなんだもの。しかも、式典ごとに変える必要があるから、一着じゃないのよ? 何回も調整させてほしいと呼び出されていたら、いい加減にうんざりしちゃうのも、仕方ないと思うの。だからちょっとだけ、癒しを求めて、愛する相棒に会いに行きたいと思ったのよ」
「えっ!?」
「あ、愛する相棒って、まさか……!?」
「……? どうしたの、二人とも」
二人とも、頬を赤く染めて、なんだかそわそわし始めた。どうしたんだろうと思っていると、セラがクスッと笑った。
「お二人とも、残念ながら違うと思いますよ。キアラ様は、竜舎へ行こうとされていたんですよね?」
「そうよ。わたしの相棒は竜舎にいるんだから、当然でしょ?」
首を傾げると、同時に二つのため息が聞こえた。
「なんだ、やっぱりそうでしたか……」
「キアラ様の鈍さは、筋金入りです。今に始まったことではありません。気長に待ちましょう」
「ちょっと、何の話?」
「いいんです、こちらの話ですから」
処置なし、と首を横に振ったリリアンが、「それはさておき」とわたしの腕を取った。
「針子たちが首を長~くしてお待ちですよ。さぁ、参りましょう」
「……はぁーい……」
セラに別れを告げ、リリアンとメリアンと共に自室までの道を歩いていると、途中で書類を抱えて歩くお友達の姿を見かけた。
「トーア!」
「そうですよ。さあ、早く行きましょう!」
「うう、だって~……」
メリアンとリリアンから口々に詰め寄られ、わたしはちょっとげんなりしてしまった。
「ご、ごめんなさい。キアラ様」
自分のせいで見つかってしまったとセラが落ち込むけれど、別にセラが悪いことをしたわけではない。
「いいのよ、セラ。避けられないことだとはわかっているから、ちょっと癒しを求めて飛び出しただけなのに、まったく、二人とも厳しいんだから」
「何をおっしゃっているのですか! あれらのドレスは、もうすぐ行われる建国祭で使う大切な衣装だと知っているでしょう?」
「あとは最終調整だけとはいえ、手を抜くことは許されません! 我が『帝国の至宝』を、世界各国から集まる重鎮の方々に、完璧な姿でお見せしなくてはいけないのですから!」
「わかってるってば~」
最近、わたしのことを「帝国の至宝」なんて呼ぶ人が増えているらしい。確かにわたしは帝国で唯一の皇位継承者だけど、大げさすぎるのよね。
お父様いわく、この呼び名が広まれば広まるほど、わたしが帝国をあげて大切にされていると周知されることになるので、むしろ広げていきたいらしい。軽率にわたしを狙う輩を、牽制できるとかなんとか。
お父様がいつもわたしを大切にしてくれているのはわかっているし、嬉しいんだけど、正直、わたしは皇帝なんて向いていないし、できればやりたくないと思っているのよね……。
だから、いつかわたしに弟か妹ができて、わたしの他にも皇位継承者が増えたらいいな、と密かに思っている。そうしたら、わたしもみんなも嬉しいしね!
お父様が皇帝を引退するまで時間はたっぷりあるだろうし、お父様とお母様はいつも呆れるくらい仲良しだから、無理な話ではないと思うのだ。
「建国祭は一週間後ですものね。針子たちも、少しの狂いもない完璧なドレスを、キアラ様に着て頂きたいのでしょう」
クスクスと笑うセラに、わたしは苦笑いしかできない。
そう。もうすぐ、バルドゥーラ帝国の建国を祝う、建国祭が行われる。
帝国貴族や他国の重鎮を招いて、十年に一度、盛大に行われている由緒ある催しなのだそうだ。当然、わたしは皇族として行事に参加し、参加客たちをおもてなししなければならない。わたしが皇女として行う、初めての国家行事でもあるのだ。
「わかってるってば。でも、あれは着るだけでも大変な、立派すぎるほど立派なドレスなんだもの。しかも、式典ごとに変える必要があるから、一着じゃないのよ? 何回も調整させてほしいと呼び出されていたら、いい加減にうんざりしちゃうのも、仕方ないと思うの。だからちょっとだけ、癒しを求めて、愛する相棒に会いに行きたいと思ったのよ」
「えっ!?」
「あ、愛する相棒って、まさか……!?」
「……? どうしたの、二人とも」
二人とも、頬を赤く染めて、なんだかそわそわし始めた。どうしたんだろうと思っていると、セラがクスッと笑った。
「お二人とも、残念ながら違うと思いますよ。キアラ様は、竜舎へ行こうとされていたんですよね?」
「そうよ。わたしの相棒は竜舎にいるんだから、当然でしょ?」
首を傾げると、同時に二つのため息が聞こえた。
「なんだ、やっぱりそうでしたか……」
「キアラ様の鈍さは、筋金入りです。今に始まったことではありません。気長に待ちましょう」
「ちょっと、何の話?」
「いいんです、こちらの話ですから」
処置なし、と首を横に振ったリリアンが、「それはさておき」とわたしの腕を取った。
「針子たちが首を長~くしてお待ちですよ。さぁ、参りましょう」
「……はぁーい……」
セラに別れを告げ、リリアンとメリアンと共に自室までの道を歩いていると、途中で書類を抱えて歩くお友達の姿を見かけた。
「トーア!」
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