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第二章
招かれざる客
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空が、だいぶ夕焼け色に染まってきた。
パレードが終わっても、まだ街中の賑わいは終息を見せない。
あと一時間もせずに聖火の点灯式典が始まるのだから、それも当然だった。
パレードが終わった直後、報告を受けた父から教えてもらったのだが、セラは無事見つかったらしい。ただ、意識はなく、なぜか緊急用結界の中に閉じ込められている状態で発見されたとのことだった。
ひとまず、セラが無事で、本当に良かった。
セラがこんな状況に陥っている理由は、まだ不明だそうだ。けれど、わたしの名前を使ってセラを呼び出した人がいるのだから、その人の仕業だと考えるのが普通だろう。
ノアが動いてくれているし、帝国の騎士たちは優秀だから、きっとすぐに犯人は捕まるはずだ。そうしたら、どうにかしてこっそりと一発殴ってやれないかと、わたしは結構真剣に考えていた。
皇女教育を受けてから、こういう考え方は良くないと理解してはいるけれど、それはそれだ。生来の考え方って、そう簡単には変えられないものよね。
今は、魔道具師たちが結界解除に奮闘してくれているけれど、間に合うかどうかはわからないそうだ。セラがあれだけ努力して掴んだ晴れ舞台なのだから、できれば式典に出られるといいのだけれど……。
そんなことを考えながら、わたしは式典を行う舞台裏にある天幕で、父や母と早めの夕食を摂っていた。
本当は夕食を摂るよりもセラの無事を確認しに行きたいのだが、わたしが動くと他の人たちに迷惑がかかってしまうし、魔道具のことは、わたしにはよくわからない。結界解除を頑張ってくれている人たちを信じて待つのが、わたしがやるべきこと、だよね。
ーーそう思って待っていたのだが、ついに式典が始まる時間がやってきてしまった。もうそろそろ、わたしたちも出なければならない。
……セラは、間に合わなかったのかな。命があるだけでも良かったとは思うけれど、やっぱり、少し残念よね……。
時間を確認して落ち込むわたしを、母が慰めてくれる。
「残念だけれど、仕方ないわ。元気を出して。あなたが落ち込んでいたら、誰が後でセラを元気づけてあげるの?」
「……うん、そうよね。ありがとう、お母様」
すでに、別の天幕には、代役を務めてくれる帝国認定聖女が来ているらしい。聖火を灯すのは、彼女にお願いすることになりそうだ。
「ーー!」
「ーーー!」
天幕を出ようとした時、何やら、外から騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたのかしら?」
「私が見てきます! 皆様は、こちらから動かれませんようお願い致します」
母の言葉に、護衛騎士の一人がすぐさま動き出した。父の側近であるロドルバンさんが、警戒するようにわたしたちの前に出た。
聴覚を強化して声を拾ってみると、どうやら、若い女性が何かを訴えているようだった。もしかしたらセラが来たのかと思ったけれど、違ったようだ。がっかり。
……それにしても、この声、なんだか聞き覚えがある気がするんだけど、気のせいかな?
しばらくして帰ってきたその騎士は、とても困った様子で、父に報告を始めた。
「困った来客の対応に、少々てこずっているようです。どうも式典に招かれた聖女らしいのですが、参加証も持っておらず、帰るよう説得してもきかないようで。それに、セラ様の友人を自称しており、聖女であることは確かなので、手荒に扱うわけにもいかず……」
「……ん? それって……」
聖女と聞いて、わたしは先ほどの声が誰のものだったかを思い出した。
「お父様。恐らくそれは、昨日騒ぎを起こした、イレーヌという方よ。その処罰として、今日の式典への参加は禁止されたはずですけれど」
その彼女が、なぜここへ来ているのだろうか。それに、昨日あんな態度を取っておいて、セラの友人を自称するなんて、どういうつもり?
「……仕方ない。私たちも出る時間だし、どういうつもりなのか、一応聞いておこうか」
そうしてわたしたちは、天幕の外へ出たのだった。
「陛下。申し訳ございません、お手を煩わせることになってしまい……」
「いや、構わない」
「えっ、皇帝陛下ですか!?」
父の姿を見て、イレーヌがパアッと顔を輝かせた。
それになんだか、やけに豪華というか、立派な正装をしている。明らかに式典に出席する時のような……というか、むしろ主役であるかのような格好なんだけど、どうしてだろう。
「お初にお目にかかります。私は、聖女のイレーヌと申します」
イレーヌは礼をしてみせたが、父は挨拶を返すことはなかった。ロドルバンさんに軽く目配せをすると、父に忠実な彼は素早く前に出て、イレーヌを冷たく見据える。
「一体何の用だ? 警備の騎士たちを困らせるのは、止めてもらいたい。あんたにはこの式典への参加は許さないと、昨日の内に通達したと思うが」
皇帝と話すこともさせてもらえず、返ってきたのは護衛からのにべもない言動だが、イレーヌはめげなかった。
「それが……セラ様が式典に出られなくなったと聞いて……私、昔セラ様と切磋琢磨した友人として、じっとしていられなくて……!」
「……?」
この人、誰からその話を聞いたんだろう?
騒ぎになると困るから、話を広げないようにしているはずなのに。
それに、昨日セラにあんなことを宣っておいて、よくそんなことが言えるものだ。思わずムッと顔をしかめるが、彼女は全く気に留める様子もなく、話を続けた。
「だから私、セラ様の代わりに、務めを果たして差し上げたいんです! 私なら、彼女の友人として、聖火を点灯させる役にふさわしいですから……!」
パレードが終わっても、まだ街中の賑わいは終息を見せない。
あと一時間もせずに聖火の点灯式典が始まるのだから、それも当然だった。
パレードが終わった直後、報告を受けた父から教えてもらったのだが、セラは無事見つかったらしい。ただ、意識はなく、なぜか緊急用結界の中に閉じ込められている状態で発見されたとのことだった。
ひとまず、セラが無事で、本当に良かった。
セラがこんな状況に陥っている理由は、まだ不明だそうだ。けれど、わたしの名前を使ってセラを呼び出した人がいるのだから、その人の仕業だと考えるのが普通だろう。
ノアが動いてくれているし、帝国の騎士たちは優秀だから、きっとすぐに犯人は捕まるはずだ。そうしたら、どうにかしてこっそりと一発殴ってやれないかと、わたしは結構真剣に考えていた。
皇女教育を受けてから、こういう考え方は良くないと理解してはいるけれど、それはそれだ。生来の考え方って、そう簡単には変えられないものよね。
今は、魔道具師たちが結界解除に奮闘してくれているけれど、間に合うかどうかはわからないそうだ。セラがあれだけ努力して掴んだ晴れ舞台なのだから、できれば式典に出られるといいのだけれど……。
そんなことを考えながら、わたしは式典を行う舞台裏にある天幕で、父や母と早めの夕食を摂っていた。
本当は夕食を摂るよりもセラの無事を確認しに行きたいのだが、わたしが動くと他の人たちに迷惑がかかってしまうし、魔道具のことは、わたしにはよくわからない。結界解除を頑張ってくれている人たちを信じて待つのが、わたしがやるべきこと、だよね。
ーーそう思って待っていたのだが、ついに式典が始まる時間がやってきてしまった。もうそろそろ、わたしたちも出なければならない。
……セラは、間に合わなかったのかな。命があるだけでも良かったとは思うけれど、やっぱり、少し残念よね……。
時間を確認して落ち込むわたしを、母が慰めてくれる。
「残念だけれど、仕方ないわ。元気を出して。あなたが落ち込んでいたら、誰が後でセラを元気づけてあげるの?」
「……うん、そうよね。ありがとう、お母様」
すでに、別の天幕には、代役を務めてくれる帝国認定聖女が来ているらしい。聖火を灯すのは、彼女にお願いすることになりそうだ。
「ーー!」
「ーーー!」
天幕を出ようとした時、何やら、外から騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたのかしら?」
「私が見てきます! 皆様は、こちらから動かれませんようお願い致します」
母の言葉に、護衛騎士の一人がすぐさま動き出した。父の側近であるロドルバンさんが、警戒するようにわたしたちの前に出た。
聴覚を強化して声を拾ってみると、どうやら、若い女性が何かを訴えているようだった。もしかしたらセラが来たのかと思ったけれど、違ったようだ。がっかり。
……それにしても、この声、なんだか聞き覚えがある気がするんだけど、気のせいかな?
しばらくして帰ってきたその騎士は、とても困った様子で、父に報告を始めた。
「困った来客の対応に、少々てこずっているようです。どうも式典に招かれた聖女らしいのですが、参加証も持っておらず、帰るよう説得してもきかないようで。それに、セラ様の友人を自称しており、聖女であることは確かなので、手荒に扱うわけにもいかず……」
「……ん? それって……」
聖女と聞いて、わたしは先ほどの声が誰のものだったかを思い出した。
「お父様。恐らくそれは、昨日騒ぎを起こした、イレーヌという方よ。その処罰として、今日の式典への参加は禁止されたはずですけれど」
その彼女が、なぜここへ来ているのだろうか。それに、昨日あんな態度を取っておいて、セラの友人を自称するなんて、どういうつもり?
「……仕方ない。私たちも出る時間だし、どういうつもりなのか、一応聞いておこうか」
そうしてわたしたちは、天幕の外へ出たのだった。
「陛下。申し訳ございません、お手を煩わせることになってしまい……」
「いや、構わない」
「えっ、皇帝陛下ですか!?」
父の姿を見て、イレーヌがパアッと顔を輝かせた。
それになんだか、やけに豪華というか、立派な正装をしている。明らかに式典に出席する時のような……というか、むしろ主役であるかのような格好なんだけど、どうしてだろう。
「お初にお目にかかります。私は、聖女のイレーヌと申します」
イレーヌは礼をしてみせたが、父は挨拶を返すことはなかった。ロドルバンさんに軽く目配せをすると、父に忠実な彼は素早く前に出て、イレーヌを冷たく見据える。
「一体何の用だ? 警備の騎士たちを困らせるのは、止めてもらいたい。あんたにはこの式典への参加は許さないと、昨日の内に通達したと思うが」
皇帝と話すこともさせてもらえず、返ってきたのは護衛からのにべもない言動だが、イレーヌはめげなかった。
「それが……セラ様が式典に出られなくなったと聞いて……私、昔セラ様と切磋琢磨した友人として、じっとしていられなくて……!」
「……?」
この人、誰からその話を聞いたんだろう?
騒ぎになると困るから、話を広げないようにしているはずなのに。
それに、昨日セラにあんなことを宣っておいて、よくそんなことが言えるものだ。思わずムッと顔をしかめるが、彼女は全く気に留める様子もなく、話を続けた。
「だから私、セラ様の代わりに、務めを果たして差し上げたいんです! 私なら、彼女の友人として、聖火を点灯させる役にふさわしいですから……!」
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