半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

文字の大きさ
156 / 172
第二章

点灯式

しおりを挟む
 わたしたちが舞台に姿を見せると、集まった大勢の民衆は、大きな歓声を上げた。
 夕闇の空気の中、落ちかけた陽の光が、彼らを穏やかに照らしている。

「よかった。何かあったのかと思ったが、ようやく始まったな」
「待ちくたびれたわ!」
「ママ、聖火って、どんなの?」
「ふふ、見てのお楽しみよ」

 そんな会話が聞こえてくる。

 ……セラの聖火、みんなに見てほしかったな。

 建国祭は、十年に一度しかない。次に式典が行われる時にはセラもわたしもすっかり大人になっているし、またセラが選ばれるかどうかもわからない。もしかしたら、今日が最後の機会だったかもしれないのに。

 そんなことを思っていても、顔に出すわけにはいかない。わたしは笑顔を崩さないように注意しながら、式典の進行を見守った。

 父が、スッと前に出る。それだけで、ざわざわと騒がしかった民衆の声が、静かになっていく。
 こういうところを見ると、父はすごいなと、素直に思う。皇帝としての威厳というか、存在感というか、それだけで、大勢の人たちが父の言葉に耳を傾けるし、自然と従わせてしまうのだ。わたしは皇帝になりたいわけではないけれど、皇帝としての父を尊敬しているし、憧れてもいる。こういうことを言葉にして伝えると、途端にデレっとしてダメな父になってしまうので、あまり言わないけれど。

 静かになると、父がようやく口を開いた。

「皆、よく集まってくれた。私はここに、十年に一度の建国祭を無事に開催できることを、開催に向けて尽力してくれた全ての者たちと、こうして祝福のために集まってくれた全ての者たちに感謝しよう。その昔、小さな集落にしか過ぎなかった竜人族の国が、竜神様による祝福でこのように大きな帝国となった。未来を信じ、希望を忘れずに行動すれば、困難な道もきっと拓けると、我々の歩んできた歴史が物語っている。また十年後もきっと同じように、もしくはこれ以上に盛大な建国祭が行えるよう、これからも皆に協力を頼みたい。……皆の未来を明るく照らしてほしいという願いを込めて、聖女殿に、聖火を灯して頂こうと思う」

 父が合図を出す。
 わたしはテレサさんが現れるはずの、左手側に視線を向けた。けれど、そこから現れたのは、想像していた人物ではなかった。

 ……セラ!?

 少し髪が乱れているけれど、きちんと正装に身を包んだ、帝国認定聖女の顔をした、わたしの親友だった。
 わたしは動揺やら喜びやらで表情が崩れそうになるのを必死に堪えつつ、セラがゆっくりと舞台の中央まで歩いて行くのを見ていた。ちらりと確認すると、母はとても驚いている様子なのに、父はニコニコとして平然としている。

 ……これは、どっちかしら。セラが来ていることがわかっていたのか、ポーカーフェイスなのか。どちらにしても、やっぱり、お父様はすごいわ。

 中央まで来ると、セラは両手を胸に当て、教会式の挨拶をした。

「この度、聖火を灯す大役を仰せつかりました、セラと申します。皆さまのこれからのご多幸を心から祈りながら、ここにわたくしの聖火を奉じさせていただきます」

 そう言って、舞台から続いている、点灯台までの階段を上っていく。
 間もなく、日が落ちるという時。わずかに差す夕焼けの光が、セラを照らす。
 大きな点灯台の側に立ったセラは、なんだか小さく見える。けれど、堂々と佇むその姿は、いつもの控えめな彼女と違っていて、とても輝いて見えた。

「皆様に、希望と幸福の未来が訪れますように」

 セラがそう告げると、彼女の身長の倍以上もある巨大な聖火が、点灯台へ灯された。その光は、先程見た、イレーヌの光とは比べるべくもない。大きさも、見る者に与える印象も。
 少しの乱れもない見事な橙色の球体が、温かく周囲を照らしている。見ているだけで、穏やかな気持ちになれるような、心がポカポカしてくるような。そんな、大きくて温かな光だった。

 ワアッと、歓声が起きる。

「ありがとうございます、聖女様ー!」
「すごく綺麗ですー!!」
「素敵な聖火を、ありがとうー!」
「聖女様~!!」
 
 たくさんの拍手と、囃し立てるような指笛の音と、感謝の言葉がセラへと向けられる。

 セラは驚いたのか、少し戸惑った様子だったが、すぐに嬉しそうな笑顔で手を振って、歓声に応えていた。

 そんな親友が誇らしくて、わたしも笑顔で、彼女へ大きく拍手を送ったのだった。


しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと
恋愛
愛娘にしか興味ない冷血の皇帝のお話。 小説家になろう様でも掲載しております。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ
恋愛
「出来損ない」――それが伯爵令嬢リナリアに与えられた名前だった。壊れたものしか直せない【修復】スキルを蔑まれ、家族に虐げられる日々。ある日、姉の策略で濡れ衣を着せられた彼女は、ついに家を追放されてしまう。 雨の中、絶望に暮れるリナリアの前に現れたのは、戦場の英雄にして『氷の公爵』と恐れられるアシュレイ。冷たいと噂の彼は、なぜかリナリアを「ようやく見つけた、私の運命だ」と抱きしめ、過保護なまでに甘やかし始める。 実は彼女の力は、彼の心を蝕む呪いさえ癒やせる唯一の希望で……? これは、自己肯定感ゼロの少女が、一途な愛に包まれて幸せを掴む、甘くてときめくシンデレラストーリー。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

氷の騎士と陽だまりの薬師令嬢 ~呪われた最強騎士様を、没落貴族の私がこっそり全力で癒します!~

放浪人
恋愛
薬師として細々と暮らす没落貴族の令嬢リリア。ある夜、彼女は森で深手を負い倒れていた騎士団副団長アレクシスを偶然助ける。彼は「氷の騎士」と噂されるほど冷徹で近寄りがたい男だったが、リリアの作る薬とささやかな治癒魔法だけが、彼を蝕む古傷の痛みを和らげることができた。 「……お前の薬だけが、頼りだ」 秘密の治療を続けるうち、リリアはアレクシスの不器用な優しさや孤独に触れ、次第に惹かれていく。しかし、彼の立場を狙う政敵や、リリアの才能を妬む者の妨害が二人を襲う。身分違いの恋、迫りくる危機。リリアは愛する人を守るため、薬師としての知識と勇気を武器に立ち向かうことを決意する。

処理中です...