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第二章
激励
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「おはようございます、キアラ様!」
「おはよう~。朝から元気ね、ルーシャス」
翌朝。
今日は、ルーシャスが一日わたしの護衛につく予定なので、部屋まで迎えに来てくれたのだ。
今日は、建国祭の二日目なので、武闘大会の剣の部が開催される。わたしは皇族席で観覧予定なので、今日も朝から準備で忙しい。皇女として人前に出るには、いつも以上にきちんとした身だしなみが必要なのである。
「そういうキアラ様は、お疲れが残っているようですね。昨日は、あまり眠れませんでしたか?」
わたしは、ぎくりと肩を強張らせた。
そう、わたしは昨日の夜、なんだか寝付けなくて、ちょっとだけ睡眠不足気味なのである。
「昨日はセラ殿の件があったので、大変でしたもんね。でも、無事でよかったですね。式典にもギリギリ間に合いましたし」
「あ、うん。そうね!」
「……あれ? その件じゃないんですか?」
「も、もう行こう。ミリーシャに、試合前に声をかけたいし!」
武闘大会の一日目は、剣の部だ。
ミリーシャは、今回で二回目の出場らしい。前回は惜しくも準決勝で敗れてしまったそうだから、今日の試合にはとても気合が入っていると言っていた。
ちなみに、この大会には皇族の側近も出場できるけれど、ロドルバンさんは五回連続優勝して殿堂入りしたため、もう出場権はないらしい。建国祭は十年に一度だから、五十年間、最強の座を守り続けたわけである。さすが、皇帝の側近だ。
「ミリーシャ、おはよう!」
「あっ、来てくださったんですね、キアラ様! ルーシャスも!」
選手の控室へ行くと、ミリーシャが笑顔で出迎えてくれた。
いつもシャンとして格好いいミリーシャだけれど、今日は一段と気合が入っている感じがする。
「調子はどう?」
「絶好調です! 今回こそは優勝して、我が主君に勝利を捧げたいと思います!」
「ふふっ、楽しみにしてるわね」
剣の部で重要になるのは、主に剣術の技量、筋力、素早さである。当然、身体能力が高い竜人族が有利なため、本戦に出るのは竜人族ばかりだ。
男女混合の大会だけれど、ミリーシャは得意の素早さを有効活用した戦い方で、見事に予選を勝ち抜いている。さすがに筋力では男性の竜人族に劣るけれど、ミリーシャは前回の敗戦を糧に、自身に合う戦闘方法を模索して、技量の向上に励んできたそうだ。もしかしたら、本当に優勝してしまうかもしれない。
「いいえ、皇女殿下。申し訳ございませんが、優勝はこのロドルフォが頂きますよ!」
「むっ」
ミリーシャの後ろから、ロドルバンの息子、ロドルフォが意気揚々と顔を出した。
ロドルフォは自分の父と同じように皇帝の側近を目指しているらしく、何度か顔を合わせたこともあるのだが、なかなか強いのですよ、とロドルバンさんが自慢していた。
「何せ前回も、優勝したのは俺ですからね。親父と同じように五回連続で優勝して、殿堂入りしたら、陛下の護衛騎士にしてもらうんです!」
「あら。残念ですけど、その野望は叶わないと思うわ。前回のようにはいかないと、思い知らせてあげる」
試合前からバチバチとした睨み合いが繰り広げられているが、実はこの選手控室にいるのは帝国騎士ばかりなので、みんなが顔見知りなのだ。こういう気安いやりとりも、緊張がほぐれていいのかもしれない。
「あの、皇女殿下! 俺も、俺も頑張るので、応援してもらってもいいですか?」
出場選手の一人が、わたしにそう声をかけてきた。彼もまた、帝国騎士の一人である。
「おい、お前ずるいぞ! あの、俺も頑張ります、皇女殿下!」
「わ、私も、できれば応援してもらいたいです!」
いつの間にか、たくさんの選手たちに詰め寄られてしまっていた。みんな知っている人ばかりなので危険はないとわかってはいるけれど、何人もの強者たちに囲まれるのは、すごい迫力である。
「はいはい、みんな散れ! キアラ様を困らせないように」
「ああ、そんなぁ!」
「殿下~……」
ルーシャスが、見かねて間に入ってくれた。さすが、わたしの護衛騎士。でも、いつもお世話になっている騎士のみんなに激励の言葉をかけるくらいなら、別になんでもないことだ。ルーシャスを軽く手で制し、前に出る。
「わたしがあくまで個人として応援するのは護衛騎士であるミリーシャだけれど、皇女としては、もちろん帝国に誠心誠意仕えてくれている騎士である、みんなの活躍も期待しているわ。みんな、頑張ってね。訓練の成果をしっかり出せるよう、応援しているわ」
笑顔でそう言うと、みんなの顔がパッと明るくなった。
「はい! ありがとうございます!」
「頑張ります!」
「俺、優勝したら、皇女殿下に勝利を捧げます!」
みんなから口々にお礼を言われ、とても喜んでもらえたようで、私も嬉しい。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「はい、キアラ様。……ミリーシャ、頑張れよ!」
「ええ。期待していてちょうだい」
ルーシャスとミリーシャは、少しのやりとりでも、仲の良さが伝わってくる。二人はつがいなのだから、当然かもしれないけれど。
……つがい、かぁ。
わたしには、まだいまいちよくわからない。でも、もう少しで、何かわかりそうな気もしている。こういうことを考える時、頭に浮かぶのは、いつも同じ人の顔だから。
「キアラ様、どうかしたんですか? 何か、ぼーっとしてません?」
「え、ううん。大丈夫よ。行きましょう」
訝しむルーシャスを笑ってごまかして、わたしたちは武闘大会の会場へと向かったのだった。
「おはよう~。朝から元気ね、ルーシャス」
翌朝。
今日は、ルーシャスが一日わたしの護衛につく予定なので、部屋まで迎えに来てくれたのだ。
今日は、建国祭の二日目なので、武闘大会の剣の部が開催される。わたしは皇族席で観覧予定なので、今日も朝から準備で忙しい。皇女として人前に出るには、いつも以上にきちんとした身だしなみが必要なのである。
「そういうキアラ様は、お疲れが残っているようですね。昨日は、あまり眠れませんでしたか?」
わたしは、ぎくりと肩を強張らせた。
そう、わたしは昨日の夜、なんだか寝付けなくて、ちょっとだけ睡眠不足気味なのである。
「昨日はセラ殿の件があったので、大変でしたもんね。でも、無事でよかったですね。式典にもギリギリ間に合いましたし」
「あ、うん。そうね!」
「……あれ? その件じゃないんですか?」
「も、もう行こう。ミリーシャに、試合前に声をかけたいし!」
武闘大会の一日目は、剣の部だ。
ミリーシャは、今回で二回目の出場らしい。前回は惜しくも準決勝で敗れてしまったそうだから、今日の試合にはとても気合が入っていると言っていた。
ちなみに、この大会には皇族の側近も出場できるけれど、ロドルバンさんは五回連続優勝して殿堂入りしたため、もう出場権はないらしい。建国祭は十年に一度だから、五十年間、最強の座を守り続けたわけである。さすが、皇帝の側近だ。
「ミリーシャ、おはよう!」
「あっ、来てくださったんですね、キアラ様! ルーシャスも!」
選手の控室へ行くと、ミリーシャが笑顔で出迎えてくれた。
いつもシャンとして格好いいミリーシャだけれど、今日は一段と気合が入っている感じがする。
「調子はどう?」
「絶好調です! 今回こそは優勝して、我が主君に勝利を捧げたいと思います!」
「ふふっ、楽しみにしてるわね」
剣の部で重要になるのは、主に剣術の技量、筋力、素早さである。当然、身体能力が高い竜人族が有利なため、本戦に出るのは竜人族ばかりだ。
男女混合の大会だけれど、ミリーシャは得意の素早さを有効活用した戦い方で、見事に予選を勝ち抜いている。さすがに筋力では男性の竜人族に劣るけれど、ミリーシャは前回の敗戦を糧に、自身に合う戦闘方法を模索して、技量の向上に励んできたそうだ。もしかしたら、本当に優勝してしまうかもしれない。
「いいえ、皇女殿下。申し訳ございませんが、優勝はこのロドルフォが頂きますよ!」
「むっ」
ミリーシャの後ろから、ロドルバンの息子、ロドルフォが意気揚々と顔を出した。
ロドルフォは自分の父と同じように皇帝の側近を目指しているらしく、何度か顔を合わせたこともあるのだが、なかなか強いのですよ、とロドルバンさんが自慢していた。
「何せ前回も、優勝したのは俺ですからね。親父と同じように五回連続で優勝して、殿堂入りしたら、陛下の護衛騎士にしてもらうんです!」
「あら。残念ですけど、その野望は叶わないと思うわ。前回のようにはいかないと、思い知らせてあげる」
試合前からバチバチとした睨み合いが繰り広げられているが、実はこの選手控室にいるのは帝国騎士ばかりなので、みんなが顔見知りなのだ。こういう気安いやりとりも、緊張がほぐれていいのかもしれない。
「あの、皇女殿下! 俺も、俺も頑張るので、応援してもらってもいいですか?」
出場選手の一人が、わたしにそう声をかけてきた。彼もまた、帝国騎士の一人である。
「おい、お前ずるいぞ! あの、俺も頑張ります、皇女殿下!」
「わ、私も、できれば応援してもらいたいです!」
いつの間にか、たくさんの選手たちに詰め寄られてしまっていた。みんな知っている人ばかりなので危険はないとわかってはいるけれど、何人もの強者たちに囲まれるのは、すごい迫力である。
「はいはい、みんな散れ! キアラ様を困らせないように」
「ああ、そんなぁ!」
「殿下~……」
ルーシャスが、見かねて間に入ってくれた。さすが、わたしの護衛騎士。でも、いつもお世話になっている騎士のみんなに激励の言葉をかけるくらいなら、別になんでもないことだ。ルーシャスを軽く手で制し、前に出る。
「わたしがあくまで個人として応援するのは護衛騎士であるミリーシャだけれど、皇女としては、もちろん帝国に誠心誠意仕えてくれている騎士である、みんなの活躍も期待しているわ。みんな、頑張ってね。訓練の成果をしっかり出せるよう、応援しているわ」
笑顔でそう言うと、みんなの顔がパッと明るくなった。
「はい! ありがとうございます!」
「頑張ります!」
「俺、優勝したら、皇女殿下に勝利を捧げます!」
みんなから口々にお礼を言われ、とても喜んでもらえたようで、私も嬉しい。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「はい、キアラ様。……ミリーシャ、頑張れよ!」
「ええ。期待していてちょうだい」
ルーシャスとミリーシャは、少しのやりとりでも、仲の良さが伝わってくる。二人はつがいなのだから、当然かもしれないけれど。
……つがい、かぁ。
わたしには、まだいまいちよくわからない。でも、もう少しで、何かわかりそうな気もしている。こういうことを考える時、頭に浮かぶのは、いつも同じ人の顔だから。
「キアラ様、どうかしたんですか? 何か、ぼーっとしてません?」
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