半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第二章

フードの男

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「こらあ! お前、そんだけ食っといて金がねえたあ、どういう了見だあ!?」
「……ん?」

 すぐ近くの串焼きの露店から、大声が聞こえてきた。
 もしや、食い逃げか何かだろうか。大柄の店主と思われる男が、フードをかぶった細身の男の胸倉を掴んでいる。

「いや、違うんだって。おれはさっきまで、ちゃんと財布を持っていたんだって! さっきむこうの店で買った時は、ちゃんと払ったもん! きっと、スリかなんかに遭ったんだよ~!」
「言い訳すんな! 金を払えねえっていうんなら、警護所にぶちこんでやる! 来い!」
「ちょ、勘弁してくれよぉ~! そんなことになったら、おれすげぇ怒られるんだって~っ」

 フードの男は、ずいぶんと憐れっぽい声で店主に許しを乞うている。
 そんな彼らのやり取りを聞いて、オレはもしかしたらと思い、声をかけた。

「あの、すみません」
「ああん? なんだ、兄ちゃん。こいつの知り合いか?」

 店主の目がギロリとこちらを向いた。
 首根っこを掴まれ引きずられているという情けない格好でこちらを見た男は、フードをかぶっていてよく顔が見えないが、チラリと覗く青い髪を見ると、知り合いではないと思う。

「先程スリを捕まえて警護所へ引き渡したのですが、犯人は他にも持ち主のわからない財布をいくつか持っていたようなのです。もしかしたら、そこの彼の財布もその中にあるかもしれません。確認しに行ってはいかがでしょうか」
「えっ、本当!? 店主さん、行ってみようよ。おれの財布、そこにあるかも!」
「んん? そうなのか。もしかして兄ちゃん、非番の騎士様かい? ご苦労さんだな」

 騎士だと思われて、店主に労われてしまった。
 祭の期間中、非番の騎士が街歩きしながら様々な問題を解決しているというのは、国民たちにも有名な話のようだ。


 警護所へ確認しに行くと、運よくフードの彼の財布はそこにあった。財布の細かな特徴が本人の証言と一致したので、持ち主であると判断され、無事返却してもらえることになった。おかげで、串焼き屋の店主にきちんと支払いをすることができた。

 二人に感謝され、店主からは串焼きを一本もらってしまった。
 それならばと金を払おうとしたが、店主は「休みなのにこの後も仕事すんだろ? これ食って力つけろ!」と言って、串焼きを押し付けてきた。オレは苦笑しつつ、ありがたくいただくことにした。

「ありがとうよ、兄ちゃん。また来いよ!」
「助かったよ、騎士様。ありがとうな!」

 そうやって串焼き屋の店主と別れ、歩き出したものの、なぜかフードの男がオレについてきた。オレは串焼きをほおばりながら、彼に視線を向ける。

 ……ん。この串焼き、美味しいな。

「なあ、騎士様。その串焼き、美味いよな! おれ、十本も食べちゃったもん」
「オレは騎士じゃないから、そう呼ばないでもらえると助かるんだけど」

 この男は、どうしてついてくるのだろうか。

 ……というか、なかなかボリュームがあるのに、こいつこれを十本も食べたのか?

「へー、そうなのか? じゃあ、名前は何て言うんだ?」
「悪いけど、見ず知らずの人に教えるつもりはないんだ。まだオレに何か用?」

 オレはキアラの側近のようなものだから、誰彼構わず親しくなるわけにはいかない。こいつが悪人だとは思わないが、慎重に行動するに越したことはないのだ。

「そっか、自己紹介がまだだったよな。おれはファルーク・マギナリア。マギナリアの王子だ、よろしくな!」
「……は?」

 持っていた串焼きの串が、するりと手からこぼれて落ちていった。

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