半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第二章

マギナリアの王子

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「うおっ、あっぶねー!」

 ファルークと名乗ったフードの男は、オレが落とした串焼きを、魔法で難なく掬い上げた。串焼きがふわりと宙を舞い、オレの手の中に戻ってくる。

「あぶねーなぁ。ちゃんと持ってろよ、食いもんは大事だぞ」
「あ、ああ、ありがとう……って、いや待て。王子? 今、王子って言ったのか?」

 しかも、あのマギナリアの、だ。
 国民は国からほとんど出ることがない上に、どの国ともまともに国交していないため、色々と謎に包まれている魔法国家。

 その、マギナリアの王子?

 この建国祭には、他国の王族も何人か来ている。当然丁重な扱いが必要になるため、事前に連絡された人物が、連絡された日時にやって来るのだが、マギナリアの王子が来ているなんて全く聞いていない。

 それに、王族ならば普通は付き人や護衛がついているはずだ。他国の街中ともなれば、当然。でも、簡単にスリに遭い、先ほど串焼き屋の店主に首根っこをつかまれていたことからしても、今この男にそんなものがいないことは明白だろう。

「あっ、おれはお忍びで来てるから、これは内緒な!」
「……」

 バカなのか、詐欺師なのか、どっちだろうか。オレは、たぶん前者だろう、と何となく思う。

「あの、もしかして明日武闘大会に出るマギナリアの選手って……」

 マギナリアから来た者がそんなに何人もいるとは思えない。もしかしてと思い尋ねてみる。

「ああ、おれおれ! 大陸一のヴァルドゥーラ帝国の有名な建国祭なら、大会にはきっとすごいやつが出るだろうと思って出たいってごねたんだけど、許可が下りなくてさ~。勝手に来ちゃったってわけ」
「……」

 頭が痛くなってきた。つまりこいつ、いやファルーク王子は、父親である祖国の王の許可も得ず、勝手に他国へやってきて、しかも大会に参加しようとしているわけだ。
 今まで魔法技術の公開に消極的だったマギナリアが、なぜ武闘大会という大舞台に突如出場することにしたのか謎だったが、この王子の独断だったらしい。

 しかし、本当にそうだとしたら一つ疑問が残る。

「……なぜ、そんな話を会ったばかりのオレにするんですか? お忍びなら、誰にも言わない方がいいでしょう」
「え、だってお前、すごい魔法使いなんだろ? 仲良くなりてぇなって思って!」
「……は? なんでそんなことがわかるんです?」

 思わずファルークに警戒するような目を向ける。オレはこの男に会ってから、まだ一度も魔法を使っていないのに。

「だってお前、精霊をいっぱい連れてるじゃん! そんだけ精霊に好かれてたら、すごい魔法使いだってことはすぐにわかるよ」
「……見えるんですか?」

 確かに、オレの周囲にはいつも複数の精霊たちが存在している。でも彼らは、力を分け合ったキアラでさえ、常に見えるわけではないらしい。魔法を使う際に魔力が増幅した時、少しだけぼんやり見えるようになったと言っていた。

 それなのに、何もしていない状態で、彼には見えていると言うのだろうか。

「そりゃあ見えるよ。これでも一応、マギナリアの王子だからさ。精霊との親和性が高い方が、優秀な魔法使いだって言うだろ? まぁ、おれは王位継承権もあってないような第七王子だけどさ。でも、だからこそ結構放置されてて、わりと自由にできるんだよね。それにおれは、精霊たちが見えるだけで、別に好かれてるわけじゃないしな」

 聞けば、精霊に力を借りることができる者は、マギナリアでもごく少数らしい。彼らは精霊魔法使いと呼ばれ、貴ばれているのだとか。それなら、オレはマギナリアの人からすれば、精霊魔法使いということになるのだろう。

「そうだとしても、十分に素晴らしい腕前の魔法使いだと聞いていますよ。予選では、相当暴れまわったのでしょう?」

 バトルロワイヤル形式の予選会では、あっという間に他の候補たちを伸して、最速で勝ち上がったとか。見たこともない魔法を使っていたとか、話だけは色々と聞いている。

「え、予選でのこと知ってるの? いや~、まぁそれほどでもあるかな~! おれは魔法バトルが好きで、祖国でも手がつけられないってわりと有名だったし」

 その「手がつけられない」とは、たぶん、色々な意味を含んでいるのではないだろうか。

「で、名前は? 教えてくんねーの?」

 おそらく、この人は嘘を言っていないだろう。オレに精霊がついていることを見抜いたし、先ほどからポロポロと、マギナリアの人しか知らないだろう情報をこぼしている。となれば、できる限り丁重に扱うべきだ。

「……私は、ノアルードと申します」

 だが一応、家名だけは言わないでおいた。

「ノアルードね! ていうか、堅苦しい話し方はやめてくれよ。お忍びだって言っただろ? それに、おれは王子って言っても、ただの第七王子だし! な!」

 ……本当に、王子らしくない王子だな。


 
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