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第二章
トラブル
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それから、「建国祭、これから一緒に回ろうぜ!」というファルークのやや強引な誘いにより、なぜか妙な連れができてしまった。
初めはげんなりしてしまっていたが、ファルークは話せば話すほど面白い話しが出てくる男だった。
「へぇ。マギナリアでは、そんな風に魔法を習うのか」
「そうだよ~。幼い頃から魔力の扱いに慣らしておかないと、大人になってからじゃなかなか覚えられなくて、予想外に魔力が育っちゃった人とかは暴発事故が起こりやすいからさぁ」
今までにない視点で誰かと魔法について語り合うのは、思いがけなく楽しかった。ファルークは配慮に欠ける上に無鉄砲だが、魔法の知識はきっとこの国の誰にも負けていないだろう。
そして、話しているうちに、ふと違和感を覚えた。今までかなり会話をしてきたというのに、オレはファルークの顔を全く見ていない。
「なぁ。そういえばそのフード、ずっと外さないんだな」
そう尋ねると、ファルークは驚いたように一瞬動きを止めた。
「え、気づいちゃった!? さすがノアルード!」
ファルークが楽しそうに笑っているが、一体なにがさすがなのだろうか。
「このフード付きローブはさー、魔道具なんだよね。フードをかぶっていれば、その人の顔が印象に残らないし、隠していること自体も気にならないようになるんだよ。おれも一応、王子として気をつけていたわけ」
聞いたこともない魔道具だった。確かに、今まで結構話をしていたにも関わらず、顔が見えないということを気にしていなかった。トーアが見たら喜びそうだ。
「でも、精霊には効果がないからさ。精霊との親和性が高いやつには、たまに違和感を持たれちゃうんだよね。もしかして、髪の色も最初からわかってた?」
初めて会った時の、串焼き屋の店主に首根っこを掴まれているファルークのことを思い出す。
「そうだな、青い髪がちゃんと見えていた。もしかして、その魔道具は髪色までわからなくなるのか?」
「やっぱりかー! そうだよ。だって髪の色なんて、一番の特徴じゃん。おれ、結構目立つ青色だし」
……確かにそうだ。すごいな、その魔道具。
「フードを取ってやろうか? ノアルードなら、おれの顔を見せてやってもいいぜ」
「やめておく。厄介なことに巻き込まれそうだ」
「ははは、勘がいいな、ノアルード! たぶん間違ってないと思うぜ!」
「間違ってないのかよ」
見せようかと言っておいて、なんて奴だと思いつつ、笑ってしまった。
そんなオレたちの横を、小さな子供連れの家族が横切っていく。
「ねえママ! サーカスってどんなの?」
「どんなのかしらねぇ。でも、たくさんの魔獣が出てくるみたいよ」
「ええー! 魔獣が芸をやるの!? すごーい!」
「すごいわね。楽しみねぇ」
「……」
ファルークが、通り過ぎていく家族をじっと見つめたかと思うと、バッとこちらを振り向いた。
「聞いたか、ノアルード! おれたちも、サーカス見に行こうぜ!」
「なんでだよ……いや、まぁいいけど」
ファルークと一緒に歩くようになってから、ただ祭りを楽しんでいるだけのようになってしまっている。でも、ファルークの楽しそうな様子を見ていたら、まぁいいかと思い直した。一応休日なのだし、少しはこういうのもいいだろう。
……どうせなら、キアラと来たかったけどな。
あいつはこの四日間はずっと予定が詰まっているので、無理な話だろうけど。
「うぉー! すげえでかいんだな!」
特設のテントを見て、ファルークがはしゃいでいる。まるで子供みたいだ。
「四日間だけの講演だけど、すごく気合いが入ってるみたいだな」
普段はサーカスなんかの興行は、数ヶ月単位で滞在し、様々な土地を渡り歩く。でも、帝都で興行をするには土地代や税金など、経費がかかりすぎるので、こういう盛大な祭りでもないとやって来ない。期間も祭りの間だけという、かなり限定的な催しだ。それでも、この人の多さなら、十分に収益が見込めるだろう。
「こんなに盛況なら、今日のチケットはもう完売してるんじゃないか?」
「うわ、そうかも! ノアルードはここで待ってて。おれ、ちょっと聞いてくる!」
「わかった」
テント横に設置されているチケット売り場へ向かうファルークを見送ると、何気なく周囲に視線を巡らせた。
「ん?」
すると遠くの方で、大勢の人の流れからはみ出して、コソコソとテントの裏側へと回り込む二人の子供たちを見つけた。
……おいおい。そっちは関係者以外立入禁止って書いてあるし、ロープも張ってあるんだから、くぐり抜けるなよ!
すぐにサーカス関係者に見つかって追い出されるだろうが、何かイタズラでもしようとしているのではないかと、少し心配だ。かといって、ファルークを置いて追いかけるわけにもいかない。近くに関係者も見当たらないようだ。
一応気にかけつつ、ファルークを待つ。
「……遅いな」
ファルークはなかなか戻って来ないし、子供たちが追い出される様子もない。やはりサーカス関係者を探して、声をかけるべきだろうか。そう思った時、やっとファルークが帰ってきた。
「お待たせ~! いやぁ、すげえ混んでて、聞くだけでも思ったより時間がかかっ……」
ーードォン!!
サーカスのテント裏の方から、ものすごい音が響いた。オレはほとんど無意識に、子供たちが消えた方へと走り出していた。
初めはげんなりしてしまっていたが、ファルークは話せば話すほど面白い話しが出てくる男だった。
「へぇ。マギナリアでは、そんな風に魔法を習うのか」
「そうだよ~。幼い頃から魔力の扱いに慣らしておかないと、大人になってからじゃなかなか覚えられなくて、予想外に魔力が育っちゃった人とかは暴発事故が起こりやすいからさぁ」
今までにない視点で誰かと魔法について語り合うのは、思いがけなく楽しかった。ファルークは配慮に欠ける上に無鉄砲だが、魔法の知識はきっとこの国の誰にも負けていないだろう。
そして、話しているうちに、ふと違和感を覚えた。今までかなり会話をしてきたというのに、オレはファルークの顔を全く見ていない。
「なぁ。そういえばそのフード、ずっと外さないんだな」
そう尋ねると、ファルークは驚いたように一瞬動きを止めた。
「え、気づいちゃった!? さすがノアルード!」
ファルークが楽しそうに笑っているが、一体なにがさすがなのだろうか。
「このフード付きローブはさー、魔道具なんだよね。フードをかぶっていれば、その人の顔が印象に残らないし、隠していること自体も気にならないようになるんだよ。おれも一応、王子として気をつけていたわけ」
聞いたこともない魔道具だった。確かに、今まで結構話をしていたにも関わらず、顔が見えないということを気にしていなかった。トーアが見たら喜びそうだ。
「でも、精霊には効果がないからさ。精霊との親和性が高いやつには、たまに違和感を持たれちゃうんだよね。もしかして、髪の色も最初からわかってた?」
初めて会った時の、串焼き屋の店主に首根っこを掴まれているファルークのことを思い出す。
「そうだな、青い髪がちゃんと見えていた。もしかして、その魔道具は髪色までわからなくなるのか?」
「やっぱりかー! そうだよ。だって髪の色なんて、一番の特徴じゃん。おれ、結構目立つ青色だし」
……確かにそうだ。すごいな、その魔道具。
「フードを取ってやろうか? ノアルードなら、おれの顔を見せてやってもいいぜ」
「やめておく。厄介なことに巻き込まれそうだ」
「ははは、勘がいいな、ノアルード! たぶん間違ってないと思うぜ!」
「間違ってないのかよ」
見せようかと言っておいて、なんて奴だと思いつつ、笑ってしまった。
そんなオレたちの横を、小さな子供連れの家族が横切っていく。
「ねえママ! サーカスってどんなの?」
「どんなのかしらねぇ。でも、たくさんの魔獣が出てくるみたいよ」
「ええー! 魔獣が芸をやるの!? すごーい!」
「すごいわね。楽しみねぇ」
「……」
ファルークが、通り過ぎていく家族をじっと見つめたかと思うと、バッとこちらを振り向いた。
「聞いたか、ノアルード! おれたちも、サーカス見に行こうぜ!」
「なんでだよ……いや、まぁいいけど」
ファルークと一緒に歩くようになってから、ただ祭りを楽しんでいるだけのようになってしまっている。でも、ファルークの楽しそうな様子を見ていたら、まぁいいかと思い直した。一応休日なのだし、少しはこういうのもいいだろう。
……どうせなら、キアラと来たかったけどな。
あいつはこの四日間はずっと予定が詰まっているので、無理な話だろうけど。
「うぉー! すげえでかいんだな!」
特設のテントを見て、ファルークがはしゃいでいる。まるで子供みたいだ。
「四日間だけの講演だけど、すごく気合いが入ってるみたいだな」
普段はサーカスなんかの興行は、数ヶ月単位で滞在し、様々な土地を渡り歩く。でも、帝都で興行をするには土地代や税金など、経費がかかりすぎるので、こういう盛大な祭りでもないとやって来ない。期間も祭りの間だけという、かなり限定的な催しだ。それでも、この人の多さなら、十分に収益が見込めるだろう。
「こんなに盛況なら、今日のチケットはもう完売してるんじゃないか?」
「うわ、そうかも! ノアルードはここで待ってて。おれ、ちょっと聞いてくる!」
「わかった」
テント横に設置されているチケット売り場へ向かうファルークを見送ると、何気なく周囲に視線を巡らせた。
「ん?」
すると遠くの方で、大勢の人の流れからはみ出して、コソコソとテントの裏側へと回り込む二人の子供たちを見つけた。
……おいおい。そっちは関係者以外立入禁止って書いてあるし、ロープも張ってあるんだから、くぐり抜けるなよ!
すぐにサーカス関係者に見つかって追い出されるだろうが、何かイタズラでもしようとしているのではないかと、少し心配だ。かといって、ファルークを置いて追いかけるわけにもいかない。近くに関係者も見当たらないようだ。
一応気にかけつつ、ファルークを待つ。
「……遅いな」
ファルークはなかなか戻って来ないし、子供たちが追い出される様子もない。やはりサーカス関係者を探して、声をかけるべきだろうか。そう思った時、やっとファルークが帰ってきた。
「お待たせ~! いやぁ、すげえ混んでて、聞くだけでも思ったより時間がかかっ……」
ーードォン!!
サーカスのテント裏の方から、ものすごい音が響いた。オレはほとんど無意識に、子供たちが消えた方へと走り出していた。
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