半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第二章

サフィアナとの交流

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「お招きいただきありがとうございます。皇女殿下!」

 麗らかな春の日差しが降り注ぐ庭園で、南の国ファルナージャの王女、サフィアナがにこやかにそう挨拶した。

「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます。王女様」

 わたしはそう挨拶を返すと、彼女に着席を促した。

 建国祭を終えて二日目の昼、前夜祭で約束した彼女とのお茶会が行われることになった。
 サフィアナはしばらく帝国にいると言っていたが、あまり待たせるのも良くないし、わたしも早く彼女とお話したかったので、ちょっと急いだ結果である。

 お茶に口をつけると、サフィアナは顔をほころばせた。

「わたくし、あまり温かい紅茶には馴染みがなかったのですけれど、帝国でこうしていただくと美味しいものですね」
「気に入っていただけて良かったです。ですが、もし冷たいものがよろしければ、そちらも用意していますのでおっしゃってくださいね」
「まぁ! お気遣いありがとうございます」

 一年を通して温暖な国から来た彼女が楽しめるよう、メニューや装飾にさりげなくファルナージャのものを取り入れてみたのだが、喜んでもらえているようでホッとした。飾らない笑顔とはしゃいだような様子を見せる彼女に、わたしも嬉しくなる。

「建国祭ですが、とても盛大で素敵な催しがたくさんあり、大変素晴らしいものでした!」
「ありがとうございます。一国の王女にそう言っていただけたら、準備と運営に携わった者たちも喜ぶでしょう」
「ぜひ、そうお伝えください。皇女殿下も、連日の公務でお疲れだと存じますが、早々にこのような時間を取っていただいて良かったのですか? もちろん、わたくしは嬉しいのですが……」
「もちろんです。わたくし、早く王女とお話ししたいと思っていたのです。その、このような身分ですと、なかなか親しい友人を作るのも難しいですから」
「……! 実は、わたくしもそうなのです! 我が国は温暖で特産品も多く、わたくしにとって誇るべき祖国ではありますが、なかなか他国と交流を持ちにくい離島の小国でもあります。皇女殿下とは年齢が近いと聞いておりましたから、この機会に少しでも親しくなれたらと、前夜祭で不躾にもお声をかけてしまったのです。もちろんヴァルドゥーラ帝国が我が国とは比べるべくもない大国だと存じておりますが、その、わたくしたちは、一国を治める者の娘同士ですから。ですから、こうしてお茶会に誘っていただけて、本当に嬉しく思っております」

 はにかみながらそう話すサフィアナは、年上だけれど可愛らしい人だと思った。

「国の規模など関係ありません。そう言っていただけて、わたくしも嬉しいです。是非、仲良くしてくださいね。あと、よろしければ、わたくしのことは名前で呼んでいただけると嬉しいです。『皇女殿下』では、あまりにも堅苦しいですもの」
「まぁ、良いのですか? ありがとうございます、キアラ様。そう言っていただけて嬉しいです! わたくしのことも、どうぞ名前で呼んでくださいね」

 すっかり和やかな雰囲気になったので、お互いの好きなことについて話をすることになった。
 わたしは体を動かすのが好きなのでたまに騎士団の訓練に混ぜてもらったり、相棒のドラゴンであるシトリンに乗って散歩に行ったりするのが好きだと言った。すると、王女はかなり驚きながらも、皇女らしくないわたしの趣味を笑ったりせず、興味深そうに聞いていた。

「とても素敵ですね! わたくしも、一度でいいのでドラゴンに乗って散歩に行ってみたいですわ!」
「もしシトリンが良いと言えば、二人乗りでお連れすることもできるかもしれません。正直に申し上げますと、確率が高いとは言えませんが……」

 ドラゴンは気難しい子が多い。乗り手を選ぶ基準が厳しいのはもちろん、同乗者を拒否する場合は多々ある。シトリンも、その例に漏れない。
 緊急時となれば気が進まなくても渋々許可してくれる子もいるが、そのドラゴンの気質と乗り手との関係次第だとか。それを踏まえると、昔、イオがわたしたちを乗せてくれたのは、わりと奇跡に近いと思う。

「ああ、お気になさらず。わたくしも正直に申し上げますと、実は、わたくしは激しく揺れる乗り物が苦手なのです。ここに来るまでにも、海が荒れて船が揺れた時は、大変な思いをしましたもの。ドラゴンに乗ってみたいのは本当ですが、実際に乗ることができたところで、きっと気絶してご迷惑をかけることになってしまいますわ」

 サフィアナはそう言って、からからと笑う。

「ですが、キアラ様ならば、ドラゴンに乗って想い人とデートなんてこともできそうですよね。そんなことができたら、きっとロマンティックでしょうね!」
「ええっ!?」

 ……デ、デートって、いきなり何を言い出すの!?

「あら? キアラ様は、シェルディアの王子と恋仲ではないのですか?」
「こ……!?」

 シェルディアの王子とは、きっとノアのことだろう。どうしてそんな風に思ったのだろうか。
 ノアのことは大好きだし、わたしのたった一人の眷属ではあるけれど、恋人というわけではない。ノアをシェルディアの人質だと侮られないようにエスコートをお願いしたが、予想以上に周囲の誤解を招いているかもしれない。

「た、確かに彼とはとても親しくさせていただいていますが、わたくしたちはそのような関係ではありませんよ」
「まぁ、そうなのですか? わたくしはてっきり……」

 しっかりと否定すると、サフィアナは何か考えるようなそぶりを見せた。そして、にっこりと笑ってこう言った。

「では、わたくしが彼にアプローチをしても構わないということでしょうか?」
「え……」

 キラキラした目を向けながらそう言われ、わたしはしばらく、彼女の言葉の意味を理解できなかった。
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感想 19

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みんなの感想(19件)

みかんこ
2025.09.23 みかんこ

きゃ〜〜‼️第二章が始まってるじゃないですか‼️大好きな作品だったのですごく嬉しいです😊楽しみにしています💕💕

2025.09.23 侑子

みかんこ様、また頑張ります!
感想くださって嬉しいです✨️

解除
時運
2025.09.20 時運

復活おめでとうございます。
これからも楽しみです

2025.09.20 侑子

時運さま、ありがとうございます!
再開した途端にまた感想いただけて、とても嬉しいです!

解除
hiyo
2024.10.28 hiyo

とても面白かったです。
続きをいつの日か書いて頂ける事を祈っています♪
読ませて頂いて有難うございました。

2024.10.30 侑子

嬉しい感想をありがとうございます!!
すみません、色々あってなかなか筆が進まなくて…
もっと早く更新する予定だったのに…
気長に、気長にお待ちいただけると幸いです。

解除

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