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第一章
悲しい再会
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母と手を繋いだまま、私はとても広いお城の中を進んでいった。
ここに来るまでは、城で働いているのだろうたくさんの人たちがあちこちにいたのに、奥へ進んでいくにつれ人の姿がどんどんと少なくなっていって、私は不思議に思った。
……わたしたち、皇帝がいるところに行くのよね? どうしてこんなに静かなのかしら?
「……あの、この辺りは、ひと気が全くないのですね?」
母も気になったようで、ロドルバンさんにそう尋ねた。
「はい。ここは陛下がおられる区域ですので、ここ十年は常に我々側近以外の者は近づけないようにしております。陛下の容態を、誰にも知られるわけには参りませんから」
城に勤める人たちにさえ知られないようにしないといけないなんて、一体皇帝はどんな状態なのだろう。
母が、ロドルバンさんの言葉を聞いて怖じ気づいたようにわたしの手を一度ギュッと握った。それでも、彼女はしっかり前を見ていて、歩くのを止めはしなかった。
「……こちらです」
ロドルバンさんに案内されて到着した部屋は、薄暗く、重苦しい空気が漂っていた。広くて立派な寝室で、一番存在を主張するのは、大きなベッドだ。そしてそこには、誰かが眠っているのがわかった。
「……ディオ?」
母が、震えるような小さな声でそう言った。そして、わたしと一緒にゆっくりとその人に近づいていく。
……この人が、わたしのお父さん?
ベッドには、わたしと同じ赤い髪の男の人が眠っていた。でも、一見ただ眠っているようにも見えた彼の顔色は、よく見てみると、まるで死人のように青ざめていることに気がついた。その上、まるで呼吸をしていないかのように、ピクリとも動かない。
「ディオ……!?」
母は思わずといったようにベッドの上の男の人に駆け寄って、恐る恐るその頬に触れた。そして、驚いたようにサッと手を引っ込める。
「こ、これは……ディオは本当に生きているのですか……!?」
母が目に涙を浮かべてそう言うので、わたしも、そっと男の人の頬に触ってみた。彼の頬は柔らかくはあったが、とても冷たくて、まるで生気が感じられない。
「……とっても冷たいけど、かすかに息はしてるみたい」
わたしがそう言うと、ロドルバンさんは力強く頷いた。
「はい。陛下は十年前から徐々に生気を失われ、急にお倒れになることや、眠る期間が増えるようになりました。数日間眠ったまま目を覚まさなくなったと思えば、目を覚ましても次は数週間、数ヶ月眠ったままになり……今はもう、一年半ほど目を覚ましておりません」
「そんな……!」
皇帝は、もう一年半も眠ったままらしい。
国の一番偉い人がそんなに長く意識不明だなんて、確かに隠さなきゃいけないことだと思う。
「ねぇ、どうしたら目を覚ますの?」
「……それはわかりません、皇女殿下。つがい様が戻られたと知れば、生気を取り戻されるとは思うのですが、正直、もうこのままお目覚めにならぬのではと懸念していた次第で……」
「そんな!」
母が、ずっと握っていたわたしの手を離して、皇帝へすがりついた。
「嫌! お願い、ディオ。目を覚まして! こんなの嫌よ。どうしてこんなことに……!」
母がついに涙を流してそう叫んだ。
初めて見る母の取り乱した姿に、わたしはオロオロすることしかできない。
「クロ……」
思わず肩の上にいるクロに呼びかけるが、クロは何も言わずに眉を寄せて、難しい顔をしている。いくらクロが賢いといっても、竜人族のことだし、精霊族とのハーフであるクロにはわからないことなのだろう。
「……皇女殿下。しばし、陛下をつがい様と二人きりにして差し上げたいと思いますが、お許し頂けますか?」
「ロドルバンさん……」
泣きながら皇帝へすがりつく母の様子を見ていたら、母のためにもそうしてあげた方がいいと思えた。
「うん。わかったわ」
私はクロと一緒に、後ろ髪を引かれながらも、皇帝の部屋をあとにした。
後ろから聞こえる、すすり泣くような母の声が、いつまでも耳に残るようだった。
ここに来るまでは、城で働いているのだろうたくさんの人たちがあちこちにいたのに、奥へ進んでいくにつれ人の姿がどんどんと少なくなっていって、私は不思議に思った。
……わたしたち、皇帝がいるところに行くのよね? どうしてこんなに静かなのかしら?
「……あの、この辺りは、ひと気が全くないのですね?」
母も気になったようで、ロドルバンさんにそう尋ねた。
「はい。ここは陛下がおられる区域ですので、ここ十年は常に我々側近以外の者は近づけないようにしております。陛下の容態を、誰にも知られるわけには参りませんから」
城に勤める人たちにさえ知られないようにしないといけないなんて、一体皇帝はどんな状態なのだろう。
母が、ロドルバンさんの言葉を聞いて怖じ気づいたようにわたしの手を一度ギュッと握った。それでも、彼女はしっかり前を見ていて、歩くのを止めはしなかった。
「……こちらです」
ロドルバンさんに案内されて到着した部屋は、薄暗く、重苦しい空気が漂っていた。広くて立派な寝室で、一番存在を主張するのは、大きなベッドだ。そしてそこには、誰かが眠っているのがわかった。
「……ディオ?」
母が、震えるような小さな声でそう言った。そして、わたしと一緒にゆっくりとその人に近づいていく。
……この人が、わたしのお父さん?
ベッドには、わたしと同じ赤い髪の男の人が眠っていた。でも、一見ただ眠っているようにも見えた彼の顔色は、よく見てみると、まるで死人のように青ざめていることに気がついた。その上、まるで呼吸をしていないかのように、ピクリとも動かない。
「ディオ……!?」
母は思わずといったようにベッドの上の男の人に駆け寄って、恐る恐るその頬に触れた。そして、驚いたようにサッと手を引っ込める。
「こ、これは……ディオは本当に生きているのですか……!?」
母が目に涙を浮かべてそう言うので、わたしも、そっと男の人の頬に触ってみた。彼の頬は柔らかくはあったが、とても冷たくて、まるで生気が感じられない。
「……とっても冷たいけど、かすかに息はしてるみたい」
わたしがそう言うと、ロドルバンさんは力強く頷いた。
「はい。陛下は十年前から徐々に生気を失われ、急にお倒れになることや、眠る期間が増えるようになりました。数日間眠ったまま目を覚まさなくなったと思えば、目を覚ましても次は数週間、数ヶ月眠ったままになり……今はもう、一年半ほど目を覚ましておりません」
「そんな……!」
皇帝は、もう一年半も眠ったままらしい。
国の一番偉い人がそんなに長く意識不明だなんて、確かに隠さなきゃいけないことだと思う。
「ねぇ、どうしたら目を覚ますの?」
「……それはわかりません、皇女殿下。つがい様が戻られたと知れば、生気を取り戻されるとは思うのですが、正直、もうこのままお目覚めにならぬのではと懸念していた次第で……」
「そんな!」
母が、ずっと握っていたわたしの手を離して、皇帝へすがりついた。
「嫌! お願い、ディオ。目を覚まして! こんなの嫌よ。どうしてこんなことに……!」
母がついに涙を流してそう叫んだ。
初めて見る母の取り乱した姿に、わたしはオロオロすることしかできない。
「クロ……」
思わず肩の上にいるクロに呼びかけるが、クロは何も言わずに眉を寄せて、難しい顔をしている。いくらクロが賢いといっても、竜人族のことだし、精霊族とのハーフであるクロにはわからないことなのだろう。
「……皇女殿下。しばし、陛下をつがい様と二人きりにして差し上げたいと思いますが、お許し頂けますか?」
「ロドルバンさん……」
泣きながら皇帝へすがりつく母の様子を見ていたら、母のためにもそうしてあげた方がいいと思えた。
「うん。わかったわ」
私はクロと一緒に、後ろ髪を引かれながらも、皇帝の部屋をあとにした。
後ろから聞こえる、すすり泣くような母の声が、いつまでも耳に残るようだった。
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