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「おい。いつまでそうしてるんだ、ラングストン」
勝敗が決まっても、なかなか私を解放しようとしないベルダ様に、先生からの注意が飛んだ。よく考えてみると、公衆の面前で抱きしめられている格好だ。さすがに、これ以上は恥ずかしい。
「あの、ベルダ様。そろそろ放してほしいのですが……」
「……わかった」
渋々といった様子ながらも、やっと解放される。
「おお……もしかして、あの戦法なら、堂々と女子に抱きつけるってことなんじゃ……」
「俺もやってみようかな……」
私たちの対戦を見学していた人たちの不穏な会話があちらこちらで聞こえてきて、背筋がゾワリとする。確かに有効な戦法だったと思うけれど、ベルダ様以外の人にこんなことをされるなんて、考えるのも嫌だ。
「言っておくが、二人は婚約者だから問題ないんだぞ。親しくもない女子にこんなことしたら、普通に嫌われるし、下手したら家にまで抗議されるだろうから気を付けろよー」
「「…………」」
先生の的確な指摘のおかげで、この戦法が流行ることはなさそうだ。本当によかった。
その日の放課後は、久しぶりに一緒に下校することになった。馬車の中で話したいとのことだったので、少し緊張しながら乗り込む。
「あの、本当にごめん」
扉が閉まるなり、ベルダ様が謝罪してきた。一体、何に対しての謝罪だろう。
……もしかして、やっぱり彼女とは浮気していたとか……?
「ルナリアを斬るとか無理すぎてあんな戦法を取ったけど、婚約者とはいえ、俺に抱きつかれて嫌だったよね。先生は問題ないって言ったけど、よく考えたらちゃんと信頼関係も築けてないくせに調子に乗りすぎだし普通にセクハラだし」
「あ、あの、ベルダ様?」
「ごめんなさい。謝るから、嫌わないでほしい……」
さっきから視線が合わない彼の様子は、まるで何かに怯えているようだった。もしかして、私に嫌われているかもしれないのが怖くて、目を合わせられないのだろうか。先生が指摘した言葉は、自分にも当てはまるのではないかと思って。
「嫌っていませんよ」
「……本当に?」
「はい」
ベルダ様が、ホッと息を吐いた。
「……私も、あの時はすみませんでした。ひどい態度を取ってしまって」
「ルナリア……」
「約束ですから、ちゃんとお聞きします。あの方のこと」
私は賭けに敗けてしまったのだ。聞きたくなくても、ちゃんと聞かなければ。
「……ルナリア。最初に言っておくけど、あいつとはそういう仲じゃないからね?」
「……」
「あいつ」だなんて、かなり親しくなければ、親戚でもない令嬢には使わない呼称だと思うけれど。
あぁ、やっぱり駄目。時間を置いて少しは落ち着いたと思っていたのに、ベルダ様が彼女のことを話すだけで、嫌な気持ちになってしまう。
「そうですか。それで?」
「……うん。実はね、あいつは俺の……あ、違った。結論から言わずに順序よく話さないと駄目だって言われてたのに。ちょっと待ってね、俺、焦ってるみたいだ……」
一度深呼吸をしたベルダ様が、再び話し始めた。
「あのね。俺が父上に殴られてから初めてルナリアに会った時に話したこと、覚えてる? 俺は前世の記憶を思い出して、ここは前世で見た乙女ゲームの世界で、俺たちはその中の登場人物だってこと」
「……はい、もちろんです。それで、あの方がその物語のヒロインなのですよね?」
だから、仲良くなるのが自然だとでも言うのだろうか。けれど、ベルダ様が続けた言葉は、私の予想とは全く違った。
「じゃあ、俺がその乙女ゲーム……物語を読むことになったきっかけが、前世の俺の妹だったって話は?」
「え、……そう、ですね。そういえば、そうおっしゃっていたような気も……」
確かになんとなくそんな覚えがあるけれど、どうして、突然そんなお話をなさるのかしら?
「あいつが、そうだったんだ」
「はい?」
「だからね。物語のヒロインである男爵令嬢こと、フローリアは、俺の前世の妹だったんだよ」
勝敗が決まっても、なかなか私を解放しようとしないベルダ様に、先生からの注意が飛んだ。よく考えてみると、公衆の面前で抱きしめられている格好だ。さすがに、これ以上は恥ずかしい。
「あの、ベルダ様。そろそろ放してほしいのですが……」
「……わかった」
渋々といった様子ながらも、やっと解放される。
「おお……もしかして、あの戦法なら、堂々と女子に抱きつけるってことなんじゃ……」
「俺もやってみようかな……」
私たちの対戦を見学していた人たちの不穏な会話があちらこちらで聞こえてきて、背筋がゾワリとする。確かに有効な戦法だったと思うけれど、ベルダ様以外の人にこんなことをされるなんて、考えるのも嫌だ。
「言っておくが、二人は婚約者だから問題ないんだぞ。親しくもない女子にこんなことしたら、普通に嫌われるし、下手したら家にまで抗議されるだろうから気を付けろよー」
「「…………」」
先生の的確な指摘のおかげで、この戦法が流行ることはなさそうだ。本当によかった。
その日の放課後は、久しぶりに一緒に下校することになった。馬車の中で話したいとのことだったので、少し緊張しながら乗り込む。
「あの、本当にごめん」
扉が閉まるなり、ベルダ様が謝罪してきた。一体、何に対しての謝罪だろう。
……もしかして、やっぱり彼女とは浮気していたとか……?
「ルナリアを斬るとか無理すぎてあんな戦法を取ったけど、婚約者とはいえ、俺に抱きつかれて嫌だったよね。先生は問題ないって言ったけど、よく考えたらちゃんと信頼関係も築けてないくせに調子に乗りすぎだし普通にセクハラだし」
「あ、あの、ベルダ様?」
「ごめんなさい。謝るから、嫌わないでほしい……」
さっきから視線が合わない彼の様子は、まるで何かに怯えているようだった。もしかして、私に嫌われているかもしれないのが怖くて、目を合わせられないのだろうか。先生が指摘した言葉は、自分にも当てはまるのではないかと思って。
「嫌っていませんよ」
「……本当に?」
「はい」
ベルダ様が、ホッと息を吐いた。
「……私も、あの時はすみませんでした。ひどい態度を取ってしまって」
「ルナリア……」
「約束ですから、ちゃんとお聞きします。あの方のこと」
私は賭けに敗けてしまったのだ。聞きたくなくても、ちゃんと聞かなければ。
「……ルナリア。最初に言っておくけど、あいつとはそういう仲じゃないからね?」
「……」
「あいつ」だなんて、かなり親しくなければ、親戚でもない令嬢には使わない呼称だと思うけれど。
あぁ、やっぱり駄目。時間を置いて少しは落ち着いたと思っていたのに、ベルダ様が彼女のことを話すだけで、嫌な気持ちになってしまう。
「そうですか。それで?」
「……うん。実はね、あいつは俺の……あ、違った。結論から言わずに順序よく話さないと駄目だって言われてたのに。ちょっと待ってね、俺、焦ってるみたいだ……」
一度深呼吸をしたベルダ様が、再び話し始めた。
「あのね。俺が父上に殴られてから初めてルナリアに会った時に話したこと、覚えてる? 俺は前世の記憶を思い出して、ここは前世で見た乙女ゲームの世界で、俺たちはその中の登場人物だってこと」
「……はい、もちろんです。それで、あの方がその物語のヒロインなのですよね?」
だから、仲良くなるのが自然だとでも言うのだろうか。けれど、ベルダ様が続けた言葉は、私の予想とは全く違った。
「じゃあ、俺がその乙女ゲーム……物語を読むことになったきっかけが、前世の俺の妹だったって話は?」
「え、……そう、ですね。そういえば、そうおっしゃっていたような気も……」
確かになんとなくそんな覚えがあるけれど、どうして、突然そんなお話をなさるのかしら?
「あいつが、そうだったんだ」
「はい?」
「だからね。物語のヒロインである男爵令嬢こと、フローリアは、俺の前世の妹だったんだよ」
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