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誘ってみる
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ガタゴトと、馬車が進む音だけが一瞬場を支配した。
つい、私がいつもより低い不機嫌な声で尋ねてしまったせいだろう。
ヒロインとは、私やベルダ様が登場する物語の主人公であり、そして最近までベルダ様が親しくしていた女性である。本人は元々それほど親しくはなかったと言っていたけれど、噂がたつ程度には親しくしていた相手なのだ。
前世の記憶を思い出してからはもう関わることはないと言っていたのに、まさか精霊の加護がもらえるからと、再び彼女に接触するつもりだろうか。
「いや、違うよ? ゲームでは確かにヒロインと精霊祭でデートしてた時に起こったイベントだったけど、そのために彼女をデートに誘うなんてことしないから。誤解しないでね!?」
「……そうなのですか?」
「本当だって! 絶対にありえないから!」
「……」
私がつい疑いの眼差しで彼を見つめると、彼は顔を青くしてブンブンと首を横に振った。
「……わかりました。では、精霊祭には行かないのですね?」
「えっ、いやそれは……」
「行くんですか?」
「う……だって、精霊の加護をもらえる機会なんてそうそうないし、一人でも行ってみる価値はあるというか……」
「……」
確かに、精霊の加護をもらえるとわかっている機会があるのなら、それを逃す人はいないだろう。
でも、ヒロインと一緒に行くはずだった精霊祭へ、彼女と行けないなら一人で行くと言うベルダ様に、なぜか少し苛立ちを覚える。
「私と行こうとは思ってくださらないのですか?」
「……え?」
言ってから、自分は何を言っているのだろう、と恥ずかしくなってきた。私は膝の上でギュッと手のひらを握りしめる。
「そ、その物語の中では、二人で精霊祭に行った時に、加護を得られるような事件が起こったのですよね? それなら、あまり筋書きを変えない方がいいのではないかと思ったのです」
「え、待ってルナリア、ルナリアが一緒に来てくれるってこと? え? やばい、怪我の功名とはこのことか!」
私の言い訳じみた言葉はほとんど聞こえていない様子で、ベルダ様がはしゃぎ始めた。
「でも、ルナリアはいつも忙しいからこういう遊びのような行事に参加することなんてなかったのに、本当にいいの?」
精霊祭は、自然の恵みを豊かにしてくれている精霊たちへ感謝を捧げるという名目で、平民たちが企画・運営している民間行事だ。
普段はないような出店がたくさん並び、有志による演劇まで行われる、とても活気溢れるお祭りである。
貴族も参加しないわけではないが、その日はみんなお忍びの平民服で出向き、権力を振りかざすことはしない、というのが暗黙のルールとなっている。
そのため貴族の社交とは無縁の、完全なる娯楽行事なのだ。
「……私も、少し反省したのです。婚約者という立場に甘えて、ベルダ様を追い詰めてしまうほど共にいる時間をほとんど持てなかったのは、私の落ち度でした。ごめんなさい……。でも、あなたと一緒にいたくないわけではないのです。それに、今まで真面目に勉強に取り組んできたのですから、一日くらい休んでもきっと大丈夫ですわ」
「えっ、いや、ルナリアが謝ることなんてないけど……っていうか、本当に一緒に行ってくれるんだ? うわー! やった! やっぱりルナリアは最高だよ! ありがとう、楽しみすぎる!!」
ベルダ様が大きな声を出して喜ぶので、私は一瞬ビクッとしてしまったが、彼があまりに嬉しそうなので、怒るのは止めにしておいた。
全然可愛くなんてない誘い方だったのに、ベルダ様はこんなにも喜んでくれるのだと思うと、少しくらい騒がしくてもいいとさえ思った。
しかし、思わずクスリと笑みがこぼれたのをベルダ様に見られてしまい、彼がまた興奮して騒ぎ出したので、やっぱりあまり騒がしすぎるのも困ってしまうかもしれない、と思い直したのだった。
つい、私がいつもより低い不機嫌な声で尋ねてしまったせいだろう。
ヒロインとは、私やベルダ様が登場する物語の主人公であり、そして最近までベルダ様が親しくしていた女性である。本人は元々それほど親しくはなかったと言っていたけれど、噂がたつ程度には親しくしていた相手なのだ。
前世の記憶を思い出してからはもう関わることはないと言っていたのに、まさか精霊の加護がもらえるからと、再び彼女に接触するつもりだろうか。
「いや、違うよ? ゲームでは確かにヒロインと精霊祭でデートしてた時に起こったイベントだったけど、そのために彼女をデートに誘うなんてことしないから。誤解しないでね!?」
「……そうなのですか?」
「本当だって! 絶対にありえないから!」
「……」
私がつい疑いの眼差しで彼を見つめると、彼は顔を青くしてブンブンと首を横に振った。
「……わかりました。では、精霊祭には行かないのですね?」
「えっ、いやそれは……」
「行くんですか?」
「う……だって、精霊の加護をもらえる機会なんてそうそうないし、一人でも行ってみる価値はあるというか……」
「……」
確かに、精霊の加護をもらえるとわかっている機会があるのなら、それを逃す人はいないだろう。
でも、ヒロインと一緒に行くはずだった精霊祭へ、彼女と行けないなら一人で行くと言うベルダ様に、なぜか少し苛立ちを覚える。
「私と行こうとは思ってくださらないのですか?」
「……え?」
言ってから、自分は何を言っているのだろう、と恥ずかしくなってきた。私は膝の上でギュッと手のひらを握りしめる。
「そ、その物語の中では、二人で精霊祭に行った時に、加護を得られるような事件が起こったのですよね? それなら、あまり筋書きを変えない方がいいのではないかと思ったのです」
「え、待ってルナリア、ルナリアが一緒に来てくれるってこと? え? やばい、怪我の功名とはこのことか!」
私の言い訳じみた言葉はほとんど聞こえていない様子で、ベルダ様がはしゃぎ始めた。
「でも、ルナリアはいつも忙しいからこういう遊びのような行事に参加することなんてなかったのに、本当にいいの?」
精霊祭は、自然の恵みを豊かにしてくれている精霊たちへ感謝を捧げるという名目で、平民たちが企画・運営している民間行事だ。
普段はないような出店がたくさん並び、有志による演劇まで行われる、とても活気溢れるお祭りである。
貴族も参加しないわけではないが、その日はみんなお忍びの平民服で出向き、権力を振りかざすことはしない、というのが暗黙のルールとなっている。
そのため貴族の社交とは無縁の、完全なる娯楽行事なのだ。
「……私も、少し反省したのです。婚約者という立場に甘えて、ベルダ様を追い詰めてしまうほど共にいる時間をほとんど持てなかったのは、私の落ち度でした。ごめんなさい……。でも、あなたと一緒にいたくないわけではないのです。それに、今まで真面目に勉強に取り組んできたのですから、一日くらい休んでもきっと大丈夫ですわ」
「えっ、いや、ルナリアが謝ることなんてないけど……っていうか、本当に一緒に行ってくれるんだ? うわー! やった! やっぱりルナリアは最高だよ! ありがとう、楽しみすぎる!!」
ベルダ様が大きな声を出して喜ぶので、私は一瞬ビクッとしてしまったが、彼があまりに嬉しそうなので、怒るのは止めにしておいた。
全然可愛くなんてない誘い方だったのに、ベルダ様はこんなにも喜んでくれるのだと思うと、少しくらい騒がしくてもいいとさえ思った。
しかし、思わずクスリと笑みがこぼれたのをベルダ様に見られてしまい、彼がまた興奮して騒ぎ出したので、やっぱりあまり騒がしすぎるのも困ってしまうかもしれない、と思い直したのだった。
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