婚約破棄寸前だった婚約者が、前世の記憶を思い出したと言って溺愛してくるのですが

侑子

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心の変化と小さな不安

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 街へ到着すると、賑やかな喧騒が気持ちよく私たちを包んだ。誰も彼もが、この精霊祭を楽しんでいるようだ。

 精霊祭は、火、水、風、地といった、精霊たちの四大属性に合わせた催しが、それぞれ行われている。かなり広範囲で開催される、大規模なお祭りなのだ。
 
「さぁルナリア、どこに行きたい?」
 
 ベルダ様がウキウキとした表情で私を見る。けれど、私は彼の質問に首を傾げた。
 
「え? ベルダ様が火の精霊の加護をもらえるという場所へ行くのではないのですか?」
 
 精霊祭でそういうイベントとやらがあるから、私たちはここへ来たはずだ。だからまっすぐにそこへ行くのだと思っていたのだが、私の答えにベルダ様はショックを受けたような顔をした。
 
「ルナリア……せっかく精霊祭デートに来たのに、もしかして目的だけこなしてさっさと帰ろうとしてる……?」
「そ、そういうわけではございません! とりあえず、その場所へ行くものだと思っていただけで……!」
 
 あまりにも悲しそうに言われて、焦りながらも否定すると、ベルダ様はホッとしたような顔をした。
 
「あぁ、良かった。イベントは夕方に起こるはずだから、まだたっぷり時間はあるよ! ルナリアとたくさん楽しみたくてせっかく早めの待ち合わせにしたんだから、色々なところに行ってみようよ」
「は、はい」
 
 ……そうだったのね。でも、夕方だとわかっているなら、そうと教えておいてくれても良かったんじゃないかしら。
 
 そう思ったが、彼のはしゃぐ様子に水を差すのも気が引けて、私は彼の言う通りせっかくの精霊祭を楽しむことにした。

 周囲を見回せば、色とりどりに飾り付けられた街中はいつもの雰囲気とはまるで異なっていて、人々はみんな楽しそうだ。
 
「私、精霊祭に来るのは四年ぶりです。あまり雰囲気は変わっていませんね」
「伝統を大切にしている行事だからね。それでも、飽きないよう所々に変化は加えているみたいだけど」
「……ベルダ様は、もしかして毎年来ているのですか?」
「あはは」
 
 ……これは、きっと肯定よね。
 
「ルナリアは、四年前に俺と行ったのが最後ってことだよね。あの時のことは覚えてる?」
「もちろん覚えていますわ。どうしても行きたいと言って私を連れ出したというのに、ベルダ様はとてもはしゃいでしまって、人ごみに私を置き去りにしかけたのですよね」
「うぐっ、そんなことまで覚えていなくていいのに……」
 
 気まずそうにするベルダ様に、私はクスクスと笑う。
 
「ふふ。でも、その後にお詫びとして綺麗な髪飾りを買ってくださいましたよね。そのことも、ちゃんと覚えていますよ」
「あぁ! あの半透明の花の髪飾りは、ルナリアのために作られたかのようなデザインだったよね。露店で売られていたにしては、質も良かったし」
  
 さすがにもう市井の露店にある髪飾りをつけられるような年齢ではなくなってしまったが、楽しかった思い出として、あれは今でも大切にしまってある。
 
 ……こういう思い出があるから、関係がこじれても、彼のことを嫌いになれなかったのよね。
 
 一時は婚約破棄も覚悟したというのに、今こうして、ベルダ様と笑い合いながら歩いていることが信じられない。それもこれも、ベルダ様が前世を思い出したと言って、私への態度をまるっと変えてしまったからだ。
 
 別人のように態度を変えたベルダ様だけれど、こうして昔の話を覚えていることからしても、彼は確かに四年間婚約していたベルダ様本人なのだろうと思う。
 
 もう諦めかけていた関係だったのに、あれ以来、彼と話すのが楽しい。
 それはきっと、以前にはなかった、確かな好意を彼から感じるからだろう。
 
 ……私、嬉しいんだわ。彼が今のように変わってくれて。
 
 少し前までは婚約破棄を受け入れるつもりでいたはずなのに、今はそうしたくないと思っていることに気づいてハッとする。
 
 彼が変わったことで、いつの間にか私の気持ちにも変化が生まれていたのだ。
 
「ルナリア? どうかした?」
「……いいえ、なんでもありません」
 
 そんな自分の変化が少し怖くなって、表情が強張ってしまったようだ。すぐに笑顔を作って、彼に返事をする。
 
 ……もしまたベルダ様が以前のように戻ってしまったら、私はどうしたらいいのかしら?
 
 そんな少しの不安が、私の心に、小さな染みのようにいつまでも残った。
 
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