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火の精霊の加護
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しばらくそうしていると、クイッと後ろからスカートを引かれたのを感じた。しかし、今は完全にベルダ様に拘束されているような状態なので、振り返ることもできない。
けれど少し身じろぎをしてみると、すぐさまパッとベルダ様の腕から解放されたので、私はスカートを引く女の子へ視線を移した。
「あ、あの、あの……。たすけてくれて、ありがとう」
ボロボロと涙をこぼしながらそう言う少女へ、私はハンカチを差し出した。
「怪我はない?」
「う、うん……」
「良かったわ。それと、助けてくれたのはこのお兄さんよ。私だけでは、あなたを助けられたかどうかわからなかったわ」
「お、お兄ちゃん、ありがとう」
「…………」
小さな子がお礼を伝えているというのに、ベルダ様は返事をしない。というよりも、私の体を離した時と同じ体勢のまま、固まっているかのように動いていない。
どうしたのだろうと首を傾げた時、パチパチと木片が焼けるような音が耳に届いた。
「あっ、そうだわ。火を消さないと……!」
彼の様子も気になるが、まずは消火だ。まだ燃えている資材に視線を移す。周囲の人々はあらかた逃げているようだが、早く火を消さなければ危険だ。
私は、今度は落ち着いて魔法を紡ぎ始めた。
すぐに意図した通りの魔法が、燃え続ける炎に降り注いだ。
「わぁ、すごい。キレイ……」
感嘆したような少女の声が耳に届く。
たくさんの細かな氷の粒が、キラキラと炎の光を反射しながら雪のように落ちていく様は、確かに美しい光景だった。熱で溶かされ、水に変化した氷によって、あっという間に炎は鎮火していった。
「うわっ!?」
けれど、火が完全に消える寸前、なぜか握りこぶしほどの火の玉が急に飛び出して、どこかへ飛んでいった。そしてその先にいたのは、ベルダ様だった。
「あっつ! うわ、何!?」
「ベルダ様!?」
ベルダ様の周囲を火の玉がヒュンヒュンと飛び回る。火の玉がひとりでに動き出すなんて、明らかに不自然な光景だった。一体、何が起こっているのだろう。
「ちょ、熱いって、熱……え?」
突然ピタッと動きを止めたベルダ様が、自分の目の前にある火の玉を不思議そうな目で見つめた。
……あら? これって、もしかして……。
そしてしばらくすると、火の玉から分かたれた小さな光が、彼の中へ吸い込まれるようにして消えていった。
私は、この現象が何を意味するのか、わかったような気がした。なぜなら、自分も幼少期に同じようなことを経験していたからだ。
「ベルダ様。もしかして……?」
光が消えていった自分の胸辺りをじっと見つめていた彼にそっと声をかけると、ベルダ様は少し興奮した様子で、目を輝かせながら私を振り返った。
「ルナリア! 俺、火の精霊に加護をもらえたみたい!」
「やっぱり、そうだったのですね」
嬉しそうに告げられた言葉に、私は頷きを返す。
私が子供の頃に氷の精霊に加護をもらった時も、先ほどと同じようなことが起こった。まるで、胸の中に精霊の魔力が溶け込むかのような感覚になったことを覚えている。
「おめでとうございます、ベルダ様。何かお話しされていたようでしたが、火の精霊は何と言って加護をくださったのか、お聞きしてもいいですか?」
少し興味があって尋ねてみたのだが、その途端ベルダ様はじわりと頬を赤らめ、「……いや、うん。それは、また機会があれば教えるね」と言って目を逸らした。
明らかに話したくなさそうである。
……精霊って、話すのを躊躇うような理由で加護を与えることが多いのかしら?
考えてみれば、私もそうだ。
風邪を引くまで一日中雪を見ているなんておかしな子ね、と言われただなんて、恥ずかしくてとても人には話せない。
精霊から加護を与えられる条件が未だに解明されず曖昧なままなのは、もしかしてその理由がその人にとって羞恥心を感じる場合が多いからなのではないだろうか。精霊たちは楽しいことや面白いことを好むので、あり得ない話ではないと思う。
「……わかりました。また機会があれば、ぜひ教えてくださいね」
そう思った私は、ニコリと笑みを浮かべ、深く追求することなく引き下がったのだった。
「……あれって、ベルダとその婚約者……? どうして……」
そんな私たちの様子を、訝しげに遠くから見ていた人物がいたことに、私は全く気づいていなかった。
けれど少し身じろぎをしてみると、すぐさまパッとベルダ様の腕から解放されたので、私はスカートを引く女の子へ視線を移した。
「あ、あの、あの……。たすけてくれて、ありがとう」
ボロボロと涙をこぼしながらそう言う少女へ、私はハンカチを差し出した。
「怪我はない?」
「う、うん……」
「良かったわ。それと、助けてくれたのはこのお兄さんよ。私だけでは、あなたを助けられたかどうかわからなかったわ」
「お、お兄ちゃん、ありがとう」
「…………」
小さな子がお礼を伝えているというのに、ベルダ様は返事をしない。というよりも、私の体を離した時と同じ体勢のまま、固まっているかのように動いていない。
どうしたのだろうと首を傾げた時、パチパチと木片が焼けるような音が耳に届いた。
「あっ、そうだわ。火を消さないと……!」
彼の様子も気になるが、まずは消火だ。まだ燃えている資材に視線を移す。周囲の人々はあらかた逃げているようだが、早く火を消さなければ危険だ。
私は、今度は落ち着いて魔法を紡ぎ始めた。
すぐに意図した通りの魔法が、燃え続ける炎に降り注いだ。
「わぁ、すごい。キレイ……」
感嘆したような少女の声が耳に届く。
たくさんの細かな氷の粒が、キラキラと炎の光を反射しながら雪のように落ちていく様は、確かに美しい光景だった。熱で溶かされ、水に変化した氷によって、あっという間に炎は鎮火していった。
「うわっ!?」
けれど、火が完全に消える寸前、なぜか握りこぶしほどの火の玉が急に飛び出して、どこかへ飛んでいった。そしてその先にいたのは、ベルダ様だった。
「あっつ! うわ、何!?」
「ベルダ様!?」
ベルダ様の周囲を火の玉がヒュンヒュンと飛び回る。火の玉がひとりでに動き出すなんて、明らかに不自然な光景だった。一体、何が起こっているのだろう。
「ちょ、熱いって、熱……え?」
突然ピタッと動きを止めたベルダ様が、自分の目の前にある火の玉を不思議そうな目で見つめた。
……あら? これって、もしかして……。
そしてしばらくすると、火の玉から分かたれた小さな光が、彼の中へ吸い込まれるようにして消えていった。
私は、この現象が何を意味するのか、わかったような気がした。なぜなら、自分も幼少期に同じようなことを経験していたからだ。
「ベルダ様。もしかして……?」
光が消えていった自分の胸辺りをじっと見つめていた彼にそっと声をかけると、ベルダ様は少し興奮した様子で、目を輝かせながら私を振り返った。
「ルナリア! 俺、火の精霊に加護をもらえたみたい!」
「やっぱり、そうだったのですね」
嬉しそうに告げられた言葉に、私は頷きを返す。
私が子供の頃に氷の精霊に加護をもらった時も、先ほどと同じようなことが起こった。まるで、胸の中に精霊の魔力が溶け込むかのような感覚になったことを覚えている。
「おめでとうございます、ベルダ様。何かお話しされていたようでしたが、火の精霊は何と言って加護をくださったのか、お聞きしてもいいですか?」
少し興味があって尋ねてみたのだが、その途端ベルダ様はじわりと頬を赤らめ、「……いや、うん。それは、また機会があれば教えるね」と言って目を逸らした。
明らかに話したくなさそうである。
……精霊って、話すのを躊躇うような理由で加護を与えることが多いのかしら?
考えてみれば、私もそうだ。
風邪を引くまで一日中雪を見ているなんておかしな子ね、と言われただなんて、恥ずかしくてとても人には話せない。
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「……わかりました。また機会があれば、ぜひ教えてくださいね」
そう思った私は、ニコリと笑みを浮かべ、深く追求することなく引き下がったのだった。
「……あれって、ベルダとその婚約者……? どうして……」
そんな私たちの様子を、訝しげに遠くから見ていた人物がいたことに、私は全く気づいていなかった。
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