18 / 33
危機
しおりを挟む
「何だ何だ!?」
「何があった!?」
周囲でザワザワと混乱の声が上がる中、私はすぐさま悲鳴が聞こえた方向へ視線を向けた。
するとそれほど離れていない場所で、灯りとして立てられていたトーチが倒れ、その先端に灯された火が何かに引火しているのが見えた。
雑多な物置き場のようなそこには、どうやら露店設備の木材や布の余りなどが置かれていたらしい。
「火事だ!」「みんな逃げろ!」とその周辺から叫び声が上がっている。
辺りは大騒ぎで、逃げる人の波がこちらへ向かって、どんどんと流れてきた。
「あ、あ……わたし、ごめんなさ……っ」
燃え上がる炎のそばには、顔を真っ青にして震えながら、地面に倒れたトーチに手をついている十歳前後の少女の姿があった。恐らく、あの美しい光景に見とれていたせいで、誤って倒してしまったのだろう。設営の甘さと不注意による事故のようだった。
周囲を軽く見回しても、彼女の保護者らしき人物はいない。そういえば、平民は幼い頃から一人で出歩くことも珍しくないと聞いたことがある。彼女も一人で来たのかもしれない。
「すぐに消火しないと……!」
私はすぐさま魔法を紡ぎ始めた。
魔法は便利だが、発動に時間がかかるのが難点である。その上、緊急事態からの焦りで、なかなかうまく紡げない。
そうこうしている内に、あっという間に火は大きくなっていく。
「きゃあ……っ!」
「危ない!!」
魔法が完成する前に、木材が崩れ、女の子へ迫った。
腰を抜かしたのか動けなくなっている彼女へ、私は気づけば、魔法を中断して駆け出していた。
「ルナリア!!」
バキィッ!!
「……っ?」
女の子を庇うように抱きしめた私の後ろから、ものすごい音が聞こえた。
上から崩れ落ちてくるはずの木材が落ちてこず、恐る恐る振り返ると、そこにはどこから拾ってきたのか、角材を手に持つベルダ様の背中があった。
「ルナリア、無事!?」
「……えっ、は、はい……」
持っていた角材をポイッと放り投げて私へ駆け寄り、額に汗を浮かべながら勢い良く地面に膝をついた彼を、呆然と見つめる。
……ベルダ様、今、燃えながら倒れてくる資材を……角材で弾いたの?
背を向けていたのでその場面を見ていたわけではないが、そうとしか考えられない状況だ。実際、こちらへ向かってきていた資材は、今はすぐ横の地面で、折れた状態で燃えているのだから。
最近訓練を頑張っていると聞いてはいたが、正直ずっと稽古をサボっていた彼にこんなことができるとは思っておらず、私は少しの間、呆然と彼を見つめた。
しかし、ハッと我に返ると、私は焦って彼の様子を確かめ始めた。
「ベルダ様こそ、大丈夫なのですか!? あんな頼りない角材で、なんて無茶を……!」
「無茶なのはルナリアじゃないか!!」
声を荒らげるベルダ様に、思わず動きを止めてしまう。
「信じられない。君って人は、どうしてあんな無茶をするんだ。身を挺して見知らぬ女の子を守るなんて……まず守られるべきは、伯爵令嬢であるルナリアだろう! そりゃあその孤高で高潔な精神も、ルナリアのたくさんありすぎる魅力のひとつではあるんだけども!!」
「…………」
だんだんと話がずれてきているような気がするが、私は今、ベルダ様に叱られているらしい。確かに、彼が庇ってくれなければ、私は火に包まれた資材の下敷きになってしまっていただろう。
「ごめんなさい……」
私は素直に謝罪した。なんとなく彼の顔を見られなくて、少しうつむきながらではあったが。
「えっ、あ……ううん。俺も、大きな声を出して、ごめん。……でも本当に、無事で良かった……」
ベルダ様の気配が近づいてきたと思うと、気がついた時には、私は彼の温かさに全身が包まれていた。
驚いて目を瞬かせていると、さらにギュッと彼の腕に力が込められた。
「ベルダ様……」
……とても、心配をかけてしまったみたい。
私は迷いながらも、心の赴くまま、そっと彼の背中に手を添えてみた。それは彼の腕の中が、意外なほど私の心に安心感をもたらしたからかもしれなかった。
「何があった!?」
周囲でザワザワと混乱の声が上がる中、私はすぐさま悲鳴が聞こえた方向へ視線を向けた。
するとそれほど離れていない場所で、灯りとして立てられていたトーチが倒れ、その先端に灯された火が何かに引火しているのが見えた。
雑多な物置き場のようなそこには、どうやら露店設備の木材や布の余りなどが置かれていたらしい。
「火事だ!」「みんな逃げろ!」とその周辺から叫び声が上がっている。
辺りは大騒ぎで、逃げる人の波がこちらへ向かって、どんどんと流れてきた。
「あ、あ……わたし、ごめんなさ……っ」
燃え上がる炎のそばには、顔を真っ青にして震えながら、地面に倒れたトーチに手をついている十歳前後の少女の姿があった。恐らく、あの美しい光景に見とれていたせいで、誤って倒してしまったのだろう。設営の甘さと不注意による事故のようだった。
周囲を軽く見回しても、彼女の保護者らしき人物はいない。そういえば、平民は幼い頃から一人で出歩くことも珍しくないと聞いたことがある。彼女も一人で来たのかもしれない。
「すぐに消火しないと……!」
私はすぐさま魔法を紡ぎ始めた。
魔法は便利だが、発動に時間がかかるのが難点である。その上、緊急事態からの焦りで、なかなかうまく紡げない。
そうこうしている内に、あっという間に火は大きくなっていく。
「きゃあ……っ!」
「危ない!!」
魔法が完成する前に、木材が崩れ、女の子へ迫った。
腰を抜かしたのか動けなくなっている彼女へ、私は気づけば、魔法を中断して駆け出していた。
「ルナリア!!」
バキィッ!!
「……っ?」
女の子を庇うように抱きしめた私の後ろから、ものすごい音が聞こえた。
上から崩れ落ちてくるはずの木材が落ちてこず、恐る恐る振り返ると、そこにはどこから拾ってきたのか、角材を手に持つベルダ様の背中があった。
「ルナリア、無事!?」
「……えっ、は、はい……」
持っていた角材をポイッと放り投げて私へ駆け寄り、額に汗を浮かべながら勢い良く地面に膝をついた彼を、呆然と見つめる。
……ベルダ様、今、燃えながら倒れてくる資材を……角材で弾いたの?
背を向けていたのでその場面を見ていたわけではないが、そうとしか考えられない状況だ。実際、こちらへ向かってきていた資材は、今はすぐ横の地面で、折れた状態で燃えているのだから。
最近訓練を頑張っていると聞いてはいたが、正直ずっと稽古をサボっていた彼にこんなことができるとは思っておらず、私は少しの間、呆然と彼を見つめた。
しかし、ハッと我に返ると、私は焦って彼の様子を確かめ始めた。
「ベルダ様こそ、大丈夫なのですか!? あんな頼りない角材で、なんて無茶を……!」
「無茶なのはルナリアじゃないか!!」
声を荒らげるベルダ様に、思わず動きを止めてしまう。
「信じられない。君って人は、どうしてあんな無茶をするんだ。身を挺して見知らぬ女の子を守るなんて……まず守られるべきは、伯爵令嬢であるルナリアだろう! そりゃあその孤高で高潔な精神も、ルナリアのたくさんありすぎる魅力のひとつではあるんだけども!!」
「…………」
だんだんと話がずれてきているような気がするが、私は今、ベルダ様に叱られているらしい。確かに、彼が庇ってくれなければ、私は火に包まれた資材の下敷きになってしまっていただろう。
「ごめんなさい……」
私は素直に謝罪した。なんとなく彼の顔を見られなくて、少しうつむきながらではあったが。
「えっ、あ……ううん。俺も、大きな声を出して、ごめん。……でも本当に、無事で良かった……」
ベルダ様の気配が近づいてきたと思うと、気がついた時には、私は彼の温かさに全身が包まれていた。
驚いて目を瞬かせていると、さらにギュッと彼の腕に力が込められた。
「ベルダ様……」
……とても、心配をかけてしまったみたい。
私は迷いながらも、心の赴くまま、そっと彼の背中に手を添えてみた。それは彼の腕の中が、意外なほど私の心に安心感をもたらしたからかもしれなかった。
35
あなたにおすすめの小説
救国の代償で白髪になった聖女、一度のミスを理由に「無能の戦犯」として追放される ~隣国の覇王に拾われ、愛され、奇跡の力を見せつける~
スカッと文庫
ファンタジー
聖女アリシアは、百年に一度の大氾濫から国を守るため、禁忌の魔力全解放を行い、単身で数万の魔物を殲滅した。その代償として、彼女の美しい金髪は真っ白な「白雪色」に染まり、魔力は一時的に枯渇してしまう。
しかし、その功績はすべて現場にいなかった「偽聖女セシリア」に奪われ、アリシアは「結界を一部損壊させた戦犯」「魔力を失った役立たず」として、婚約者の王太子ギルバートから国外追放を言い渡される。
「失敗したゴミに、この国の空気は吸わせない」
泥の中に捨てられたアリシア。しかし、彼女を拾ったのは、敵対国として恐れられていた帝国の「武徳皇帝」ラグナールだった。彼はアリシアの白髪が「高純度の神聖魔力による変質」であることを瞬時に見抜き、彼女を帝国の宝として迎える。
数ヶ月後。アリシアが帝国の守護聖女として輝きを取り戻した頃、王国では「一度きりの奇跡」だったセシリアの魔力が尽き、本当の滅亡が始まっていた。
「今さら結界が解けたと泣きつかれても、もう私の魔力は一滴も残っていません」
『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~
スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」
王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。
伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。
婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。
それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。
――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。
「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」
リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。
彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。
絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。
彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる
もちもちほっぺ
恋愛
亡き母の形見の庭を守ることだけが、フェリシアの居場所だった。
継母に食卓での給仕を命じられ、義妹に母の形見の花を踏みにじられても、父は「仲良くしなさい」と言うだけだった。
植物魔法は「雑草いじり」と蔑まれ、フェリシアはルミナリス家の娘ではなく、使用人以下として生きてきた。
転機は突然訪れる。
「氷の魔王」と恐れられるギルバート・ウィンストン公爵との縁談。嵐の中、馬車も出してもらえず送り出されたフェリシアが辿り着いたのは、十年間何も育たなくなった荒廃した庭だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる