黄金の鍵と曖昧な君

pino

文字の大きさ
9 / 48
1章

8.握られた手

しおりを挟む

 アンビシャス様とフリージア様を連れて聖なる森へやって来た。いつものアスとの待ち合わせ場所へ向かう。
 今思えばアスはいつでもそこにいた。必ずそこにいて俺が来るのを待っていた。俺を見て笑顔で出迎えてくれるんだ。まるでそこに住んでいるかのように。
 もう少しアスと話をしておけば良かったな。そうしたらアスの口から真実が聞けたかもしれないのに。

 アスに会いに行くのにこんな不安な気持ちなのは初めてだった。


「そろそろです。この茂みの奥が待ち合わせ場所です」


 茂みの向こうの少し開けた場所。そこにアスはいる。お願いだアス。いつものように俺を迎えてくれ。
 俺はずっとアスの味方だから。

 茂みを抜けて開けた所に出て辺りを見渡す。
 アスがいなかった。
 いつもは必ずここに座ってジッとしてるのに、今はどうしてかいなかった。
 

「おかしいです。アスがいません」

「ここで待っていても来る事はないのか?」

「いつもアスが待っていたんです。俺が先に来て待っている事はありませんでした」

「そうか。でもこの近くにいるようだな。匂いで分かるぞ」


 相変わらず俺には分からなかったけど、アンビシャス様にはアスが近くにいるって分かったみたいだ。
 

「アスー!俺だよ!大丈夫だから出て来てー!」

「アスとやら、少し話そうじゃないか。一度姿を現してはもらえないだろうか?」

「アンビシャス様、かなりの手練れです。気配はあるのに場所を特定出来ません」

「そのようだね。上手く隠れているな」


 二人にはアスの気配が分かるみたい。その事が少しだけ羨ましかった。俺にはアスの気配が分からないからだ。
 俺が俯いて両手を握りしめて何とも言えない感情に耐えていると、目の前にフワッと風が舞い、何かが現れた。


「!!」

「アンビシャス様!」


 俺の後ろにいた二人の声の後に、ゆっくり顔を上げると、そこには俺の良く知るアスがいた。いつもの無表情で、右の赤い瞳で俺を真っ直ぐに見ていた。


「アス!良かった!会えた!」


 アスがいてくれた事が何よりも嬉しくて、二人の事も忘れて抱き付いていた。
 そんな俺にアスは優しく背中を撫でながら聞いて来た。


「エリム……悲しいの?」

「え?」

「すぐに出て行かなくてごめん。怖くて隠れてたんだ。でもエリムが落ち込んでたから……」

「アス……」


 俺の心を読んだかのようなアスの言葉に、俺は泣きそうになりながら顔を見ると、アスは気まずそうな顔をして後ろの二人を見ていた。
 そうだ、アスに二人の事を教えなきゃ!


「大丈夫だよ♪怖くないよ♪手前のお方はアンビシャス様で、大天使なんだ。そして後ろにいるのは上位天使のフリージア様。二人共優しいから」

「そう……」

「エリム、アスと話がしたい。フリージア、結界を張っておいてくれるかな?」

「あ、はい!アス、俺もいるからいいよね?」


 アンビシャス様に言われて、アスの顔を覗き込み確認をする。すると、ニコッと笑って頷いてくれた。
 フリージア様もアンビシャス様の指示通りに俺達の周りに見えない結界とやらを張っているようだった。


「アンビシャス様、結界の準備が出来ました」

「ご苦労。アスとやら、今なら他の誰も我々の中に入って来る事は出来ないから安心してくれ」

「……見方を変えれば僕を捕らえた。ですよね?」

「アス……」


 アンビシャス様の言葉に、目線だけで周りを見てアスが言った。
 俺はアンビシャス様の言葉を厚意と受け取ったけど、アスにはそう聞こえたみたいだ。


「はは、面白い子だ。そう捉えると言う事は君は私には言いにくいやましい事があると言う事かな?」

「…………」

「申し遅れたな。私はアンビシャス」

「アンビ……シャス……」

「此度この天界に悪魔が忍び込んでいる可能性が浮上していてね、その調査を私の指揮の元行っている最中なんだ。協力してもらえるかな?」

「…………」

「無反応は了承として捉えさせてもらうよ。率直に聞こう。君がその忍び込んだ悪魔なのか?」

「…………」

 
 アスは無表情のままアンビシャス様を見ているだけだった。多分、アンビシャス様もフリージア様もアスが悪魔だと分かっていて聞いている。
 俺はすぐにでもアスへの尋問を辞めさせたかったけど、今逆らったとしてもフリージア様の結界があって何も出来ずに終わるだろう。
 せめて俺がアスに出来る事。それは傍にいて安心させてあげる事だ。


「アス、俺も知りたいんだ。君が悪魔なのかどうか。それを知ったとしても俺は君の味方だよ。これからも変わらず楽しく遊ぶんだ♪」

「……エリム」


 アスの手を握りながらそう言うと、アスのボーッとしている目が俺を映した。アスは今どんな気持ちでどんな事を考えているのだろう。
 俺でも何を考えてるのか読めないアスだけど、握り返してくれた手が暖かかった。

 そしてアスはアンビシャス様の方に向き直って口を開いた。


「正直、自分でも自分が何なのか分かりません。僕は悪魔なのですか?天使なのですか?」

「ほう……」


 アスらしい答えっちゃ答えだった。
 いつもボーッとしているアスには自分の意思がないように感じる瞬間があるからだ。
 逆に質問するとは思わなかったな。

 アスの答えを聞いてアンビシャス様は顎に手を当てて考えるような素振りを見せた。
 そして少し後ろにいるフリージア様の発言で俺はずっと不安だった気持ちが晴れた気がした。


「アンビシャス様、私も思っておりました。彼からは悪魔の反応も感じられますが、天使の反応も見られるのですが……間違えてますでしょうか?」


 どちらの反応もあるだと!?
 それって、アスは天使かもしれないって事だよな?それってそれって、まだ希望はあるって事だよな!
 いや、アスが悪魔でも俺は構わないけど、天使だったならこんな尋問される必要はなくなる。

 俺は藁にもすがる思いで、アンビシャス様に尋ねた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

うちの魔王様が過保護すぎる

秋山龍央
BL
主人公・折本修司(オリモトシュウジ)は転生恩恵女神様ガチャにはずれて異世界に転生して早々、つんでいた。 「異世界で言葉が分かるようにしてくれ」と頼んだところ、相手の言葉は分かるが自分は異世界の言葉は喋れない状態となり、 「平和な国に転生したい」と頼んだところ、平和で治安のいい国に転生をすることはできたものの、そこは人間のいない魔族だけの国だったのである。 困っていた主人公の元に、異世界の"魔王"である紅の髪と角を持つ男があらわれて―― 「まさか――そっくりだとは思ってたけれど、お前、本当にシュウなのか?」 異世界転生魔王様×異世界転生主人公 幼馴染年下攻めだけど年上攻めです

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

処理中です...