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1章
8.握られた手
しおりを挟むアンビシャス様とフリージア様を連れて聖なる森へやって来た。いつものアスとの待ち合わせ場所へ向かう。
今思えばアスはいつでもそこにいた。必ずそこにいて俺が来るのを待っていた。俺を見て笑顔で出迎えてくれるんだ。まるでそこに住んでいるかのように。
もう少しアスと話をしておけば良かったな。そうしたらアスの口から真実が聞けたかもしれないのに。
アスに会いに行くのにこんな不安な気持ちなのは初めてだった。
「そろそろです。この茂みの奥が待ち合わせ場所です」
茂みの向こうの少し開けた場所。そこにアスはいる。お願いだアス。いつものように俺を迎えてくれ。
俺はずっとアスの味方だから。
茂みを抜けて開けた所に出て辺りを見渡す。
アスがいなかった。
いつもは必ずここに座ってジッとしてるのに、今はどうしてかいなかった。
「おかしいです。アスがいません」
「ここで待っていても来る事はないのか?」
「いつもアスが待っていたんです。俺が先に来て待っている事はありませんでした」
「そうか。でもこの近くにいるようだな。匂いで分かるぞ」
相変わらず俺には分からなかったけど、アンビシャス様にはアスが近くにいるって分かったみたいだ。
「アスー!俺だよ!大丈夫だから出て来てー!」
「アスとやら、少し話そうじゃないか。一度姿を現してはもらえないだろうか?」
「アンビシャス様、かなりの手練れです。気配はあるのに場所を特定出来ません」
「そのようだね。上手く隠れているな」
二人にはアスの気配が分かるみたい。その事が少しだけ羨ましかった。俺にはアスの気配が分からないからだ。
俺が俯いて両手を握りしめて何とも言えない感情に耐えていると、目の前にフワッと風が舞い、何かが現れた。
「!!」
「アンビシャス様!」
俺の後ろにいた二人の声の後に、ゆっくり顔を上げると、そこには俺の良く知るアスがいた。いつもの無表情で、右の赤い瞳で俺を真っ直ぐに見ていた。
「アス!良かった!会えた!」
アスがいてくれた事が何よりも嬉しくて、二人の事も忘れて抱き付いていた。
そんな俺にアスは優しく背中を撫でながら聞いて来た。
「エリム……悲しいの?」
「え?」
「すぐに出て行かなくてごめん。怖くて隠れてたんだ。でもエリムが落ち込んでたから……」
「アス……」
俺の心を読んだかのようなアスの言葉に、俺は泣きそうになりながら顔を見ると、アスは気まずそうな顔をして後ろの二人を見ていた。
そうだ、アスに二人の事を教えなきゃ!
「大丈夫だよ♪怖くないよ♪手前のお方はアンビシャス様で、大天使なんだ。そして後ろにいるのは上位天使のフリージア様。二人共優しいから」
「そう……」
「エリム、アスと話がしたい。フリージア、結界を張っておいてくれるかな?」
「あ、はい!アス、俺もいるからいいよね?」
アンビシャス様に言われて、アスの顔を覗き込み確認をする。すると、ニコッと笑って頷いてくれた。
フリージア様もアンビシャス様の指示通りに俺達の周りに見えない結界とやらを張っているようだった。
「アンビシャス様、結界の準備が出来ました」
「ご苦労。アスとやら、今なら他の誰も我々の中に入って来る事は出来ないから安心してくれ」
「……見方を変えれば僕を捕らえた。ですよね?」
「アス……」
アンビシャス様の言葉に、目線だけで周りを見てアスが言った。
俺はアンビシャス様の言葉を厚意と受け取ったけど、アスにはそう聞こえたみたいだ。
「はは、面白い子だ。そう捉えると言う事は君は私には言いにくいやましい事があると言う事かな?」
「…………」
「申し遅れたな。私はアンビシャス」
「アンビ……シャス……」
「此度この天界に悪魔が忍び込んでいる可能性が浮上していてね、その調査を私の指揮の元行っている最中なんだ。協力してもらえるかな?」
「…………」
「無反応は了承として捉えさせてもらうよ。率直に聞こう。君がその忍び込んだ悪魔なのか?」
「…………」
アスは無表情のままアンビシャス様を見ているだけだった。多分、アンビシャス様もフリージア様もアスが悪魔だと分かっていて聞いている。
俺はすぐにでもアスへの尋問を辞めさせたかったけど、今逆らったとしてもフリージア様の結界があって何も出来ずに終わるだろう。
せめて俺がアスに出来る事。それは傍にいて安心させてあげる事だ。
「アス、俺も知りたいんだ。君が悪魔なのかどうか。それを知ったとしても俺は君の味方だよ。これからも変わらず楽しく遊ぶんだ♪」
「……エリム」
アスの手を握りながらそう言うと、アスのボーッとしている目が俺を映した。アスは今どんな気持ちでどんな事を考えているのだろう。
俺でも何を考えてるのか読めないアスだけど、握り返してくれた手が暖かかった。
そしてアスはアンビシャス様の方に向き直って口を開いた。
「正直、自分でも自分が何なのか分かりません。僕は悪魔なのですか?天使なのですか?」
「ほう……」
アスらしい答えっちゃ答えだった。
いつもボーッとしているアスには自分の意思がないように感じる瞬間があるからだ。
逆に質問するとは思わなかったな。
アスの答えを聞いてアンビシャス様は顎に手を当てて考えるような素振りを見せた。
そして少し後ろにいるフリージア様の発言で俺はずっと不安だった気持ちが晴れた気がした。
「アンビシャス様、私も思っておりました。彼からは悪魔の反応も感じられますが、天使の反応も見られるのですが……間違えてますでしょうか?」
どちらの反応もあるだと!?
それって、アスは天使かもしれないって事だよな?それってそれって、まだ希望はあるって事だよな!
いや、アスが悪魔でも俺は構わないけど、天使だったならこんな尋問される必要はなくなる。
俺は藁にもすがる思いで、アンビシャス様に尋ねた。
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