32 / 72
3章 引退を考える今日この頃
31.お詫びします
しおりを挟む約束の時間に1時間遅れて、待ち合わせ場所のカフェに到着。今週の土曜も予約を入れてくれた尚輝くんが店の前に立ってるのが見えて、俺は早歩きで近付く。
俺に気付いた尚輝くんはニッコリ笑って迎えてくれた。
「ほんっとーにごめん!あ、いや、すみませんでした!」
「そんな気にしないで下さい。急いで来てくれたんですか?体調は大丈夫ですか?」
俺の様子を見て心配そうに聞いて来る尚輝くん。1時間も遅刻したのに何て優しい言葉をくれるんだ!
さっきまで一緒だったクソガキとは大違いだぁ!
でも尚輝くんは金払ってくれてる大事な客だからな。ここはちゃんと誠心誠意込めて謝らないと。
「尚輝くん、今日は遅れた分の1時間延長する?夜予定あった?」
「延長出来るんですか!?あでも、嬉しいですけど、それだと伊吹さんの負担になりませんか?」
「別に尚輝くんなら平気だけど、それか何かオプション付けよっか?俺って普段はオプションやってないんだけど、今日は特別好きなの選んでいいよ」
「オ、オプションですか!?」
うちの店には普通にデートする以外にも、追加料金を払ってデートをより楽しめるオプションが存在する。
オプションの種類はいろいろある。
軽いものは手を繋いで歩くとか、可愛い物だけど、マニアックな物だと髪型を変える(ウィッグを付ける)や性格を変更(演技する)とかキャストにとって面倒な物もあるんだ。
俺は全て面倒だからオプションはNGにしてる。
ただし、この前尚輝くんにしたように手を繋いだり、腕を組んだりぐらいならその場の雰囲気や状況でサービスでやっている。その方が客も喜ぶし、それぐらいなら俺も面倒じゃないからな。
キャストによってはそれらオプションで稼いでる子もいるみたいだけど、俺のように「特別だよ」と言って次に繋げる為に使う手でもある。
オプションの話を出すと、尚輝くんが食い付いた。気になるオプションでもあったのかな?
「俺にやって欲しいオプションがあるの?なになにー?」
「あ、でも延長も捨てがたい……でもオプションNGの伊吹さんにアレもしてもらいたいっ」
「あはは、悩んでる悩んでる~♪まぁ時間はたっぷりあるし、今日は尚輝くんが独占デーだからゆっくり決めなよ」
「はい!慎重に決めます!」
顔をキリッとさせて目をキラキラさせてる尚輝くんは本当に若いなぁと思う。
あれも欲しいこれも欲しいって悩める事が羨ましかった。
今の俺にはそんなに欲しい物もなく、ただバイトで金を稼ぐ。生活費は勿論、貯金もしながら。そんな日々を送る俺には欲しい物どころか夢も無かった。
大学を辞めてこのバイトを始めた。そしてそのまま目標も決めずダラダラと今に至る。
もし大学を辞めずにキチンと卒業していたら、もっと他の職に付いていたんじゃないか?恋人とか作って友達とも程良く付き合い、楽しい毎日を送れていたんじゃないか?
別に今がつまらない訳じゃないよ。
でもさ、こうして20歳の尚輝くんといると、なんかいいなぁって思うんだわ。
って、暗い事考えてどーすんの!
今接客中!はー、歳取ると物事を難しく考えちゃって良くないね~。
これじゃ若者の相手なんか務まらないってもんよ。
「伊吹さん、お腹空いてませんか?お昼食べました?」
「いや、起きてから何も食べてない」
「それじゃあ何か食べましょう♪」
「……うん♪」
笑顔の尚輝くんに言われて俺は何故かホッとしていた。
5歳も離れている客なのに、尚輝くんとはこのままずっと仲良くしていられたらいいのにと思った。
20
あなたにおすすめの小説
ブラック企業の寮で、同期とだけは恋に落ちないと決めていた~同室生活・過労案件・限界メンタル―それでも、唯一の味方が、隣にいる。
中岡 始
BL
「限界社畜、恋に落ちたら終わりだと思ってた――でも、一緒に辞めて起業しました。」
ブラック企業で出会った新卒ふたり。
職場は地獄、寮は同室、心は限界寸前。
“ちゃんとした社会人”を目指す白井と、マイペースに生き延びる藤宮。
恋なんてしない、期待なんてしない――そう思ってたはずなのに、
「お前がいたから、ここまで来られた」
気づけば手を取り、会社を辞め、仲間たちと“理不尽の外側”へと走り出す。
すれ違い、涙、ほうじ茶プリンとキスの夜。
これは、仕事と恋に潰れかけたふたりが、
一緒に人生を立て直していく、再起系BLラブコメディ!
【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜
星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; )
――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ――
“隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け”
音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。
イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――
恭介&圭吾シリーズ
芹澤柚衣
BL
高校二年の土屋恭介は、お祓い屋を生業として生活をたてていた。相棒の物の怪犬神と、二歳年下で有能アルバイトの圭吾にフォローしてもらい、どうにか依頼をこなす毎日を送っている。こっそり圭吾に片想いしながら平穏な毎日を過ごしていた恭介だったが、彼には誰にも話せない秘密があった。
過去のやらかしと野営飯
琉斗六
BL
◎あらすじ
かつて「指導官ランスロット」は、冒険者見習いだった少年に言った。
「一級になったら、また一緒に冒険しような」
──その約束を、九年後に本当に果たしに来るやつがいるとは思わなかった。
美形・高スペック・最強格の一級冒険者ユーリイは、かつて教えを受けたランスに執着し、今や完全に「推しのために人生を捧げるモード」突入済み。
それなのに、肝心のランスは四十目前のとほほおっさん。
昔より体力も腰もガタガタで、今は新人指導や野営飯を作る生活に満足していたのに──。
「討伐依頼? サポート指名? 俺、三級なんだが??」
寝床、飯、パンツ、ついでに心まで脱がされる、
執着わんこ攻め × おっさん受けの野営BLファンタジー!
◎その他
この物語は、複数のサイトに投稿されています。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる