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3章 引退を考える今日この頃
31.お詫びします
しおりを挟む約束の時間に1時間遅れて、待ち合わせ場所のカフェに到着。今週の土曜も予約を入れてくれた尚輝くんが店の前に立ってるのが見えて、俺は早歩きで近付く。
俺に気付いた尚輝くんはニッコリ笑って迎えてくれた。
「ほんっとーにごめん!あ、いや、すみませんでした!」
「そんな気にしないで下さい。急いで来てくれたんですか?体調は大丈夫ですか?」
俺の様子を見て心配そうに聞いて来る尚輝くん。1時間も遅刻したのに何て優しい言葉をくれるんだ!
さっきまで一緒だったクソガキとは大違いだぁ!
でも尚輝くんは金払ってくれてる大事な客だからな。ここはちゃんと誠心誠意込めて謝らないと。
「尚輝くん、今日は遅れた分の1時間延長する?夜予定あった?」
「延長出来るんですか!?あでも、嬉しいですけど、それだと伊吹さんの負担になりませんか?」
「別に尚輝くんなら平気だけど、それか何かオプション付けよっか?俺って普段はオプションやってないんだけど、今日は特別好きなの選んでいいよ」
「オ、オプションですか!?」
うちの店には普通にデートする以外にも、追加料金を払ってデートをより楽しめるオプションが存在する。
オプションの種類はいろいろある。
軽いものは手を繋いで歩くとか、可愛い物だけど、マニアックな物だと髪型を変える(ウィッグを付ける)や性格を変更(演技する)とかキャストにとって面倒な物もあるんだ。
俺は全て面倒だからオプションはNGにしてる。
ただし、この前尚輝くんにしたように手を繋いだり、腕を組んだりぐらいならその場の雰囲気や状況でサービスでやっている。その方が客も喜ぶし、それぐらいなら俺も面倒じゃないからな。
キャストによってはそれらオプションで稼いでる子もいるみたいだけど、俺のように「特別だよ」と言って次に繋げる為に使う手でもある。
オプションの話を出すと、尚輝くんが食い付いた。気になるオプションでもあったのかな?
「俺にやって欲しいオプションがあるの?なになにー?」
「あ、でも延長も捨てがたい……でもオプションNGの伊吹さんにアレもしてもらいたいっ」
「あはは、悩んでる悩んでる~♪まぁ時間はたっぷりあるし、今日は尚輝くんが独占デーだからゆっくり決めなよ」
「はい!慎重に決めます!」
顔をキリッとさせて目をキラキラさせてる尚輝くんは本当に若いなぁと思う。
あれも欲しいこれも欲しいって悩める事が羨ましかった。
今の俺にはそんなに欲しい物もなく、ただバイトで金を稼ぐ。生活費は勿論、貯金もしながら。そんな日々を送る俺には欲しい物どころか夢も無かった。
大学を辞めてこのバイトを始めた。そしてそのまま目標も決めずダラダラと今に至る。
もし大学を辞めずにキチンと卒業していたら、もっと他の職に付いていたんじゃないか?恋人とか作って友達とも程良く付き合い、楽しい毎日を送れていたんじゃないか?
別に今がつまらない訳じゃないよ。
でもさ、こうして20歳の尚輝くんといると、なんかいいなぁって思うんだわ。
って、暗い事考えてどーすんの!
今接客中!はー、歳取ると物事を難しく考えちゃって良くないね~。
これじゃ若者の相手なんか務まらないってもんよ。
「伊吹さん、お腹空いてませんか?お昼食べました?」
「いや、起きてから何も食べてない」
「それじゃあ何か食べましょう♪」
「……うん♪」
笑顔の尚輝くんに言われて俺は何故かホッとしていた。
5歳も離れている客なのに、尚輝くんとはこのままずっと仲良くしていられたらいいのにと思った。
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