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8章
※ 貴哉、俺の欲しいもの分かるか?
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俺は懐かしい家に泊まっていた。
幼い頃お母さんと良く遊びに来た秋山家だ。
秋山家には俺の一個上の子供がいて、その子と良く遊んでいた記憶がある。その子が今目の前で寝てるんだけど、俺はその寝顔を見て考えていた。
秋山貴哉か……
正直言って貴哉の事は本当に遊び相手としてしか見ていなかった。再会した時に懐かしいなとは思ったけど、何がなんでもまた会いたいとは思ってなかった。本当に小さい頃に遊んだだけで、顔もろくに覚えていないレベルだった。それよりも興味があったのは一緒にいた伊織さんだったし。伊織さんに近付く為に貴哉を利用しようとしていたぐらいだ。
だけど状況が変わったんだ。一番大きかったのは俺の相棒である双葉が抜けた事。あいつの協力無しではもう人相手に奪う事は出来ない。出来たとしても運が大きく必要になってくる。さすがにそんなリスクは犯せない。
そしてその大切な立ち位置にいた双葉が俺以外に心を開いた相手が貴哉だって事。確かにガキの頃は楽しくてかっこよくていつも優しくしてくれた貴哉に懐いてたし、頼りにしてたよ?でも再会してみた感じ普通じゃん?あの誰からの好意も受け付けない鋼のような心を持つ双葉を心変わりさせるとか興味湧くじゃん。
実際話した感じ、ガキの頃とあまり変わってないように見えた。年上振ろうとする所とか、口が悪いところ。大きくなって再会して分かったけど、おまけに頭も悪そうだ。
こいつのどこにそんな魅力があるんだと疑問に思ったけど、食事へ行く前のあの顔を見て少しだけ分かった気がした。
とにかく顔は良い。俺のタイプでは無いけど、昔から綺麗な顔をしていた気がする。だから綺麗なものが好きな俺は懐いてたんだと思うし、人を惹き付ける何かがあるんだろう。
本当に嬉しそうな心を開いた相手に見せる笑顔。どこか照れも入っているようなそんな笑顔で、それを見たら俺は貴哉ともう少しまともに向き合おうと思った。
無防備に眠る貴哉のほっぺをちょんとつついて見る。
「ん……ざけんな」
「ぷ♪」
何の夢見てんだよ?気になるじゃん。
謎の寝言を言う貴哉に笑うのを堪えるのが大変だった。
ほんと、貴哉は面白いよ。そこは変わらない。
昔から貴哉はこんな感じだった気もするし、変わったなとも思う。
優しくて俺の欲しがる物は何でもくれる優しいお兄ちゃん。
とりあえずこれから俺は貴哉ともっと仲良くなりたいと思う。今の貴哉を知る為に。
「貴哉、俺の欲しいもの分かるか?」
「…………」
寝ている貴哉に聞いても勿論答えなんか返って来ない。
今俺が欲しいと思うものはお前だよ、貴哉。
もっといろんなお前が見てみたいと思うんだ。
まずはお兄ちゃんとしてでも良いからさ、離れてた分は甘えさせてくれよ?
今日秋山家と焼肉に行ってそこで昔話に花が咲き、俺と貴哉の小さい頃の話もたくさんした。貴哉も俺の事を可愛い弟だと思っていてくれてたのは本当らしいんだ。
そのまま俺はあの頃の弟になりきって甘えた結果こうして同じベッドで寝てくれるまでになったけど、貴哉に効果のある魔法の言葉は言ってない。
けど、そんな魔法の言葉はもう通じるかは分からないな。
これからはそんな力を使わずにいろんな貴哉を知っていけたらと思う。
だから心の中で言わせてよ。
『貴哉を俺にちょーだい♡』
貴哉の頬にキスをしながら思い切り甘えて言ってみた♡
くすぐったそうに嫌な顔をして俺とは反対の方へ寝返りを打つ貴哉を、後ろから優しく抱き締めて俺も目を閉じる。
「大好きだよ貴哉お兄ちゃん♡」
「……るせぇ。さっきからごちゃごちゃ言ってねぇで黙って寝ろ」
「あはは~♪やっぱり起きてた~?」
その後貴哉から返事は無くなった。
言葉は冷たかったけど、でも俺がキスをしたり抱き締めたりするのを怒らないでいてくれるって事はとても嬉しかった。
それって可愛い弟として受け入れてくれてるって事だろ?
つい数時間前まで毛嫌いされてたのに、あー、貴哉って本当面白ぇわ♪
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