【完結】君が教えてくれたモノ

pino

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5章 突然の別れ

29.行方不明

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 飯野さんと甘いひと時を過ごした後、俺は気分良く帰って来た。
 時間にして1時間ぐらい?まだ日付けも変わる前だ。
 ハラリに言ったら喜んでくれそうだなぁ。
 そう言えばハラリには恋人がいるって言ってたよな?男だって言ってたけど、相手の人って俺と似てたりしてー?
 それってなんか面白くね?あ、でも全く別人とかだったら怖いかも。そう思ったら聞くの辞めといた方がいいか~。


「ただいま~♪ハラリ~?起きてる~?」


 玄関から声を掛けるけど、部屋の中はシンとしていて物音すらしなかった。
 結構自由人だから先に寝ててもおかしくはないけど、電気とか点けっぱなしだし何となく気になった。

 リビングに入ってカーテンが揺れている事に気付く。近付いて分かったけど窓が開いていた。網戸も閉めずにどうして……


「ハラリ!?まさか!?」


 俺は慌ててベランダに出てハラリの姿を探す。見当たらないから手摺に身を乗り出して下を覗き込む。
 いない。てか結構な高さだからここから落ちたら助からないだろう。

 きっと追っ手に見つかったんだ!
 俺は一度部屋に戻って寝室やバスルームなど全てを見てからハラリが居ないのを確認してマンションを飛び出した。

 どこにいるのかなんて分からない。
 だけど、早く見つけなきゃ。一度傷だらけで帰って来たのを思い出して当てもなくただ町中を走り回った。
 
 前にハラリが言っていた「違う次元の人間に認識されたらアウト」ってのをヒントに、人気の無い場所を見つけては隈なく捜した。
 ビルとビルの間の狭い路地裏、古びた公園のトイレの中、小川が流れる小さな橋の下、街の外れにある廃工場跡地。

 だけどどこにもいない。
 もしかしたら元の次元に連れ戻されたのか。
 
 もう何時間走り続けただろう。時間も分からなくなるぐらい疲労困憊してもう歩くのもやっとになっていた。
 
 ハラリ、どこにいるんだよ……
 俺が少し離れたからって勝手に連れ去られるなんて……

 いや、俺が悪いんだ。
 ハラリを一人にしたから、飯野さんとの事で浮かれて気を緩めちまったから悪かったんだ。
 俺がもっとしっかりしてれば!
 そしたらハラリはいなくならなかったんじゃないか。

 ハラリはいつかはいなくなる。そんなの分かってたよ。ずっと一緒にいられない事ぐらい、分かってたっての!
 でもさ、でも……

 こんな別れ方はあんまりだろ……

 俺、まだハラリに言いたい事あるよ?
 飯野さんとの事だって報告出来てねぇし、ハラリの恋人の話だって聞きたい。

 ハラリがいたから飯野さんともこんなに仲良くなれたんだし、最後までちゃんと伝えたかったよ。

 ハラリに「ありがとう」って言いたかったよ……

 もう会えないかも知れない不安から、涙が溢れ出た。
 泣いたのなんて何年振りだってぐらい、止まらなくて訳が分からなかった。

 悲しいと涙って勝手に出るもんなんだな。
 これもハラリが教えてくれたんだ。
 いつも笑っていたいって俺の気持ちを無視しやがって。


「ハラリ……くそっ……」


 俺は歩き疲れて立ち止まり、その場に膝を付いて地面に両手を付いた。
 
 悲しさと悔しさで涙が止まらない。おまけに走り回ったせいで汗も尋常じゃない。
 この後どうしよう。結局ハラリは見つからないし、マンションに帰って来てるとも思えない。

 多分もうハラリには会えないんだ。
 その事を受け入れなきゃいけない。
 じゃないと俺はここから動けないだろう。

 元々違う次元から来た宇宙人だったんだ。
 住む世界が違うんだから、こうなっても仕方ないじゃないか。たとえ大怪我をしていても、エリート宇宙人に捕まり連れ去られていたとしても、もう俺には何も出来ないんだ。
 ハラリのように次元を行き来出来る訳でもないんだから仕方ない。

 仕方ないんだって。頭ではそう思いたいのに、この数日間ハラリと過ごした日々が次々と浮かんでそれを涙に変えた。
 いつも笑いながら面白い話やとんでもない話をしてくれたんだ。口が悪くて俺様な所もあるけど、見た目が良いから嫌な気にはならなかったな。
 高身長であの細さはズルいって。顔も小さいし、切れ長の目とか俺の憧れなんだってば。
 ああ、俺の頭を撫でてくれたあの手も好きだったな。大きくて暖かくて優しいやつ。
 黙って一緒に寝てくれたのも、一人が苦手な俺には今となってはありがたかったなぁ。

 俺は一度目を閉じてから、次に開くまでにハラリとの思い出を心の奥にしまい込んだ。
 そして立ち上がり手と膝についた砂を落として歩き出す。

 とりあえず歩こう。
 正直言ってハラリがいなくなった現状を受け入れるのはかなりキツい。だけど、こんな姿をハラリが見たら怒ると思うんだ。
 それか「馬鹿じゃね?」って笑われるかもな。

 いっその事笑われたいよ。
 それでもいいからもう一度会いたい。
 そしていえなかった「ありがとう」を伝えたい。

 俺は再び込み上げてくる涙を溢すまいと、薄っすら明るくなり始めていた空を見上げてしっかりと歩みを進めた。

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