【完結】君が教えてくれたモノ

pino

文字の大きさ
30 / 43
5章 突然の別れ

29.行方不明

しおりを挟む

 飯野さんと甘いひと時を過ごした後、俺は気分良く帰って来た。
 時間にして1時間ぐらい?まだ日付けも変わる前だ。
 ハラリに言ったら喜んでくれそうだなぁ。
 そう言えばハラリには恋人がいるって言ってたよな?男だって言ってたけど、相手の人って俺と似てたりしてー?
 それってなんか面白くね?あ、でも全く別人とかだったら怖いかも。そう思ったら聞くの辞めといた方がいいか~。


「ただいま~♪ハラリ~?起きてる~?」


 玄関から声を掛けるけど、部屋の中はシンとしていて物音すらしなかった。
 結構自由人だから先に寝ててもおかしくはないけど、電気とか点けっぱなしだし何となく気になった。

 リビングに入ってカーテンが揺れている事に気付く。近付いて分かったけど窓が開いていた。網戸も閉めずにどうして……


「ハラリ!?まさか!?」


 俺は慌ててベランダに出てハラリの姿を探す。見当たらないから手摺に身を乗り出して下を覗き込む。
 いない。てか結構な高さだからここから落ちたら助からないだろう。

 きっと追っ手に見つかったんだ!
 俺は一度部屋に戻って寝室やバスルームなど全てを見てからハラリが居ないのを確認してマンションを飛び出した。

 どこにいるのかなんて分からない。
 だけど、早く見つけなきゃ。一度傷だらけで帰って来たのを思い出して当てもなくただ町中を走り回った。
 
 前にハラリが言っていた「違う次元の人間に認識されたらアウト」ってのをヒントに、人気の無い場所を見つけては隈なく捜した。
 ビルとビルの間の狭い路地裏、古びた公園のトイレの中、小川が流れる小さな橋の下、街の外れにある廃工場跡地。

 だけどどこにもいない。
 もしかしたら元の次元に連れ戻されたのか。
 
 もう何時間走り続けただろう。時間も分からなくなるぐらい疲労困憊してもう歩くのもやっとになっていた。
 
 ハラリ、どこにいるんだよ……
 俺が少し離れたからって勝手に連れ去られるなんて……

 いや、俺が悪いんだ。
 ハラリを一人にしたから、飯野さんとの事で浮かれて気を緩めちまったから悪かったんだ。
 俺がもっとしっかりしてれば!
 そしたらハラリはいなくならなかったんじゃないか。

 ハラリはいつかはいなくなる。そんなの分かってたよ。ずっと一緒にいられない事ぐらい、分かってたっての!
 でもさ、でも……

 こんな別れ方はあんまりだろ……

 俺、まだハラリに言いたい事あるよ?
 飯野さんとの事だって報告出来てねぇし、ハラリの恋人の話だって聞きたい。

 ハラリがいたから飯野さんともこんなに仲良くなれたんだし、最後までちゃんと伝えたかったよ。

 ハラリに「ありがとう」って言いたかったよ……

 もう会えないかも知れない不安から、涙が溢れ出た。
 泣いたのなんて何年振りだってぐらい、止まらなくて訳が分からなかった。

 悲しいと涙って勝手に出るもんなんだな。
 これもハラリが教えてくれたんだ。
 いつも笑っていたいって俺の気持ちを無視しやがって。


「ハラリ……くそっ……」


 俺は歩き疲れて立ち止まり、その場に膝を付いて地面に両手を付いた。
 
 悲しさと悔しさで涙が止まらない。おまけに走り回ったせいで汗も尋常じゃない。
 この後どうしよう。結局ハラリは見つからないし、マンションに帰って来てるとも思えない。

 多分もうハラリには会えないんだ。
 その事を受け入れなきゃいけない。
 じゃないと俺はここから動けないだろう。

 元々違う次元から来た宇宙人だったんだ。
 住む世界が違うんだから、こうなっても仕方ないじゃないか。たとえ大怪我をしていても、エリート宇宙人に捕まり連れ去られていたとしても、もう俺には何も出来ないんだ。
 ハラリのように次元を行き来出来る訳でもないんだから仕方ない。

 仕方ないんだって。頭ではそう思いたいのに、この数日間ハラリと過ごした日々が次々と浮かんでそれを涙に変えた。
 いつも笑いながら面白い話やとんでもない話をしてくれたんだ。口が悪くて俺様な所もあるけど、見た目が良いから嫌な気にはならなかったな。
 高身長であの細さはズルいって。顔も小さいし、切れ長の目とか俺の憧れなんだってば。
 ああ、俺の頭を撫でてくれたあの手も好きだったな。大きくて暖かくて優しいやつ。
 黙って一緒に寝てくれたのも、一人が苦手な俺には今となってはありがたかったなぁ。

 俺は一度目を閉じてから、次に開くまでにハラリとの思い出を心の奥にしまい込んだ。
 そして立ち上がり手と膝についた砂を落として歩き出す。

 とりあえず歩こう。
 正直言ってハラリがいなくなった現状を受け入れるのはかなりキツい。だけど、こんな姿をハラリが見たら怒ると思うんだ。
 それか「馬鹿じゃね?」って笑われるかもな。

 いっその事笑われたいよ。
 それでもいいからもう一度会いたい。
 そしていえなかった「ありがとう」を伝えたい。

 俺は再び込み上げてくる涙を溢すまいと、薄っすら明るくなり始めていた空を見上げてしっかりと歩みを進めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

握るのはおにぎりだけじゃない

箱月 透
BL
完結済みです。 芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。 彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。 少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。 もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

処理中です...