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6章 忘れていた記憶
33.君がいたから
しおりを挟む俺の部屋の寝室で、ベッドに横になり眠るハラリ。俺はそんなハラリをベッドの横の床に座って、腕と顔をベッドに乗り込む形で、両腕を組んでそこに顔を乗せてずっと見ていた。
あれから見つけたハラリをなんとか二人で部屋まで連れ帰る事に成功して、着ていたボロボロの服を部屋着に着替えさせて、その他の出来る限りの手当てなども施した。見た感じは深い傷は無いようだけど、ハラリはかなり衰弱してるように見える。
熱は無かったけど、怪我をしてるから家にあった痛み止めを飲ませて休ませてるとこだ。
本当は病院で診てもらうべきなんだろうけど、もうハラリがいなくなったり危ない目に遭うのは嫌だ。それならずっと俺が側にいて見ていてやりたいと思った。
飯野さんは使えそうな薬や消毒液などを買いに行ってくれている。
一人で眠るハラリを見てボーッと考えていた。
飯野さんにもハラリの事を話さなきゃだな。
俺は話してもいいけど、ハラリがどう思うかは分からない。
ハラリ自身は教える気は無かったみたいだけど、こうなったら話は別だろ。
やたらな事をすれば俺らの次元を捻じ曲げるとか言ってたけど、そんなの今更な気もするしな。
でも、実際ハラリと初めて会った時から随分日常が変わったな。大きく変わったのは常に家に誰かがいるって事と、飯野さんとの関係だ。
どちらも俺にとって大きな影響を与えてくれたよ。
一人が嫌いな俺はハラリのお陰で毎日が楽しく過ごせたし、苦手な先輩だと思っていた飯野さんともお互い好きになるまでの関係になれた。
他にもハラリが教えてくれた事はたくさんある。
俺はそのひとつひとつを思い出して、もうハラリからは離れるもんかと思った。
ここで部屋のインターフォンのベルが鳴った。飯野さんが帰って来たのかも。対応をするのにハラリから離れるのさえ戸惑うぐらいだ。
少しの間でも離れたくなかったけど、飯野さんを放っておく訳にもいかず、寝室のドアを開けたままリビングへ向かう。
モニターに映る飯野さんを見て俺は鍵を開けてあげた。しばらくしてリビングに入って来た飯野さんはいつもの無表情で俺を見て来た。
「おかえりなさい。買い物ありがとうございます」
「とりあえず役に立ちそうな物を買って来た。スポーツドリンクと栄養ドリンクも。ハラリはどうだ?」
「落ち着いて寝てます」
開いたままの寝室のドアを見て、また視線を俺に戻した。買って来たビニール袋からペットボトルの紅茶を俺に渡しながらこう言った。
「詳しい話を聞かせろ」
「はい」
俺が頷くと、飯野さんはテーブルの椅子に座った。俺もリビングのソファに座っていよいよ話そうと決意する。
まず何から話したらいいのか、いつもならスラスラ出て来る言葉も今では詰まってしまう。
そんな俺を気にしてか、飯野さんは立ち上がり俺の隣に座った。そして軽く肩を抱かれて、引き寄せられた。
優しい飯野さんに、俺の心は落ち着く事が出来た。
「ゆっくりでいいから。ちゃんと全部聞いてやるから」
そう言って俺のこめかみら辺にキスをして来た。
くすぐったくてちょっと恥ずかしかった。だけどそれが嬉しくて俺は飯野さんにギューって抱き付いて甘えた。
飯野さんがこんなに優しい事も、ハラリがいてくれたから分かった事なんだ。
ただ不器用なだけで、口は悪いけどちゃんと暖かい人なんだ。
それから俺は少しずつ飯野さんにハラリの本当の事を教えてあげた。
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