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6章 忘れていた記憶
38.最後の晩餐
しおりを挟む俺と飯野さんでハラリを応援しようと決めてからは、より楽しく過ごせるようになった。
何だか後ろめたい気持ちがなくなったようで、清々しい気持ちでいられたんだ。
俺は学校とバイト、伊織さんは深夜のバイトをやりながらハラリを一人にしないようにやり繰りをしながら、ハラリを元の次元へ帰す為の準備を着々と進めていた。
ハラリもそれを察したのか、目を閉じてしばらく黙り込む事が増えた。瞑想?でもしているかのような姿に初めは面白かったけど、その姿を見てると本当に恋人に会いたいんだなって気持ちが伝わって来て俺まで嬉しくなった。
そして俺は飯野さんに料理を教わっている。次元越えをするのには大量のカロリーが必要だと言うから、最後にとびきりのご馳走を作って送り出そうと思っているんだ。俺が出来る事はそれぐらいしかなかったから、人生で初めて作る料理に苦戦しながらも飯野さんと一緒に頑張っていた。
ハラリが元気でちゃんと恋人のいる次元に帰れるように、忘れている何かを思い出せるように、出来る事はなんでもやろうと思った。
そして訪れるハラリ出立の日。
俺と飯野さんは予定を合わせて二人ともバイトを休みにして、その日はずっと三人で過ごしていた。
ハラリの体の傷や痣も消えて、前のような笑顔を見せるようになった事に俺は本当良かったと思った。メンタルの方も安定させる為に俺と飯野さんは極力いつもと変わらないように過ごす事を心掛けた。
それでも近付く別れの時を思うと寂しくなって、俺は良くトイレに篭っていた。
今もそう。
だってさ、だってさ!
この数ヶ月ずっと一緒にいたんだぜ?それがなくなるなんて悲し過ぎるじゃん。
ただでさえ俺は一人が嫌いな寂しがりなのにさぁ!
しかもハラリはちょっと行ってくるなんてレベルの旅行とかじゃないんだぞ?もう二度と会えない確率のが高いんだぞ?
そんなの辛過ぎるだろ……
「奏多ー?いつまで篭ってんだ。そろそろ始めるぞー」
「飯野さん……」
トイレのドアを叩かれて俺は渋々出て行くと、飯野さんに呆れた顔をされた。
「おい、いつも通りに過ごそうって言ったのはお前だろ。得意の笑顔はどうした」
「だって、やっぱり辛いんですもん!」
「気持ちは分かるけど、あいつはやる気満々だぞ。お前抜きでも予定通りに送り出すけど?」
「それはダメ!絶対俺も立ち会います!」
またハラリが黙っていなくなるなんて嫌だ!
俺は飯野さんにしがみ付きながらハラリがいるリビングへ行く。
飯野さんにはやれやれと言った顔をされたけど、こうしてなきゃいられなかった。
リビングに入ってハラリを見ると、既にテーブルに着いて、並べられたご馳走を嬉しそうに眺めていた。
俺と飯野さんで用意したこれでもかってぐらいにテーブルいっぱいに広がる料理達。勿論どれも高カロリーな物を用意した。
「奏多~!早く席に着け!せっかくのご馳走が冷めちまうだろ~」
「……うん」
「取り皿を用意する。ハラリ、がっつくのはいいけどしっかり噛んで食えよ」
飯野さんは取り皿を取りにキッチンへ向かった。俺はそろりそろりとハラリの横の椅子に座る。
いつもと変わらないハラリの笑顔に寂しさがまた込み上げて来た。
ハラリは俺の手を取って絆創膏だらけの俺の手を見てニシシと意地悪そうに笑った。
「奏多、ありがとな♪こんな手になってまで頑張って作ってくれたなんて嬉しいや♪」
切り傷や火傷だらけの自分の手を見て首を横に振る。
こんなのハラリが今まで追っ手からされた事に比べたら全然大した事ない。
俺は一度深呼吸をしてから無理矢理笑顔を作ってハラリに向けた。
「俺が誰かに料理作るなんてないんだからちゃんと味わって食べろよな!残したら許さないからな~」
「何だと!?この量を食い切れだと!?はは、そんじゃ死ぬ気で食わねぇとな♪」
「食い過ぎんなアホ。健康じゃなきゃ意味ないだろ。よし始めるか」
俺とハラリの前に取り皿を出して飯野さんが言った。
そして俺達三人の最後の晩餐が始まる。
テーブルいっぱいの料理を食べ切るなんて出来ないけど、ハラリは頑張って食べていた。
時折「美味い!」と言って、雑談なんかも話しながら、ひたすら食べ続けた。
本当にカロリーを蓄えるのは大事な事なんだと分かるぐらいに、体調管理をしなきゃいけないモデルであるハラリは、そんな事を気にしないように一生懸命に食べていた。
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