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6章 忘れていた記憶
37.前向きな考え
しおりを挟む飯野さんが来てから三人で夕飯を食べて、ハラリが風呂を使ってる間、俺は飯野さんとソファに座ってハラリの事について話していた。
ハラリが恋人に会いたがっている事や、元の次元へ帰りたがっている事を教えてあげた。
「あいつに恋人がいたなんてな」
「ハラリの気持ちは分かるけど、元の次元へ帰れるとは限らないし、何より体に掛かる負担がでかいんです。だから俺はハラリにはこのままこの次元にいてもらおうと思ってるんです」
「どうしてだ?確かに脳に障害が出るのはハイリスクだけど、ハラリがしたいってんならやらせてやればいいだろ」
「最悪死んじゃうかもしれないんですよ!?ハラリが死んじゃうなんて俺、嫌です!」
「……別に否定する訳じゃねぇけど、何で応援してやらないんだ?ハラリの事を本当に考えてるなら、やりたい事をやれるように応援するべきだ」
「応援って、そんな危険な行為を応援なんて出来ますか!」
「つってもな~、俺はその次元越え?の危険性を身をもって知ってる訳じゃないし……こればかりはハラリにしか分からない事だろ?それを知ってる本人がやりてぇって言ってんだから平気だろ」
飯野さんは何故かハラリを応援しようとしていた。応援と言うより軽く考えてるような、そんな発言に聞こえた。
それに対して俺は少しムッとしたからクッションをギュッと抱きしめながら不貞腐れてみた。
「奏多がハラリを守りたいのは分かるけど、俺はハラリの気持ちが何となく分かるんだ。俺もハラリと同じような事を考えてただろうなって」
「何となくでしょ?」
「実際には分からないから何となくって言ってんだよ。俺はハラリじゃねぇ。俺は俺で、ハラリはハラリだからな。俺だったらハラリ同様恋人に会いたいと思うぞ。そして一緒に会える方法を考えてくんねぇかなって思う」
俺はハラリじゃない。その言葉が胸に刺さった。
ハラリが言うには二人は別の次元に生きる同じ人間だって言うけど、そっか、飯野さんは信じ切ってはいないんだな。それでもハラリに対しては何かを感じるみたいだから、何となくって言ったのか。
飯野さんが言った事、ハラリも同じく思ってるのかな。恋人に会う為に帰れるように協力して欲しいって。
だとしたら俺はハラリを応援するべきなのか……
俺が考えるようにクッションに顔を埋めていると、飯野さんは腕を伸ばして俺の髪に指を絡めて来た。
くすぐったく触られた方の片目を閉じると、飯野さんの顔が近付いて来て優しくその部分にキスをされた。
そして俺が顔を上げると今度は唇にしてくれた。
俺は目を閉じて飯野さんのキスに応える。
もうキスぐらいならこうして自然とする仲になったけど、まだ少しドキドキはするな。
飯野さんの顔が離れて目を開くと、超絶イケメンがそこにいるからだ。
毎回俺はこのキスの後の飯野さんの甘いスマイルにやられるんだ。
ずっと見たかった笑顔だったけど、ここまで甘くてかっこいいのは聞いてない。ほら初めはさ、バイトの先輩ってだけだったし、誰でも持ち合わせてる笑顔を見たいって軽い気持ちだったから、こんな風に意識するようになるなんて思っても見なかったからだ。
とにかく俺は毎回この飯野さんの甘ーい笑顔にドキドキしてるって訳。
「俺の言う恋人は勿論、お前だ。俺が今のハラリの立場だったら奏多に会いたいと思うし、たとえ別の次元へ行かなくちゃならないってなってもその時はお前も連れて行く」
「飯野さんっ♡」
「ただ大きな負担が掛かるってなるとそんなリスクは負わせられないからな。初めに俺がお試しでどんなもんかやってみるかもな。それで大丈夫だったなら必ず奏多を迎えに行くぞ」
俺も飯野さんも、次元越えのやり方や細かいシステムなんかは知らない。だけど、飯野さんはハラリや俺から聞いた情報を頼りに思った事を言ってくれた。
俺は飯野さんの気持ちが嬉しくて、胸が熱くなった。
同時にハラリも飯野さんと同じ気持ちなのかなとも思えた。
脳に障害が現れた事によって恋人を迎えに行くのを忘れてしまったハラリはそのまま自分の目的だけを遂行する為に旅を続けた。
行きたい次元へ行ける訳じゃないって言うのも、ただハラリは忘れているだけなのかしれないし、本当なのかも分からない。だって、ハラリの追っ手は毎回ピンポイントでハラリの前に現れるじゃないか。
それならハラリも大切に想う恋人のいる次元に行く事も出来るんじゃないか?
それなら俺は応援したいと思うよ。
「飯野さんありがとうございます♡ハラリの事、前向きに考えてみます。ハラリの為に出来る事、一緒に考えてくれませんか?」
「勿論だ。必ずハラリを元の次元へ帰してやろうな」
俺が飯野さんにお願いをすると、微笑み返してくれた。
この飯野さんの表情もだけど、俺自身も変わったなと思った。前までなら自分の思い通りにいかなかったりしたらムカついて投げ出したり、笑って誤魔化したりして来たけど、今は落ち着いて考えてちゃんと相手の目を見て、助けが必要ならお願いする事が出来るようになった。
変わったのは飯野さんだけじゃないんだ。
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