【完結】君が教えてくれたモノ

pino

文字の大きさ
41 / 43
6章 忘れていた記憶

39.また会う日まで

しおりを挟む

 夕飯を食べた後、ハラリはそのままベランダに出て地面に座り込み胡座をかいてまた瞑想を始めた。
 俺と飯野さんは片付けもしないでその姿を窓を開けたまま部屋の中から見守っていた。
 いつハラリがいなくなるか分からないから、何もせずにベランダで集中しているハラリを見ていた。

 しばらくしてからハラリの頭が動いて俺達の方を振り向いた。その表情は良く知るあの自信に満ち溢れた強気な笑顔だった。


「ようし!バッチリだ!完璧に思い出したぜ♪」

「ハラリ、そっちに行っていいか!?」


 ハラリのとても前向きな言葉を聞いて俺は我慢が出来ずにベランダに顔を出して聞く。
 そしてハラリは立ち上がり「おいで」と手を差し出してくれた。
 俺は駆け寄り出された手を握ると、グイッと引かれてもう片方の手で抱き抱えられた。
 飯野さんの前でハラリがこんな事をするなんて、驚いたけど俺はそのままハラリを受け入れていた。


「奏多、本当にありがとうな。俺、すげぇ大事なもん忘れてたよ。お前のお陰で全部思い出せたわ♪どっかで記憶落としちまって忘れてたけど、これならちゃんと元の次元へ戻れるわ」

「本当か?それなら良かった♪」


 ハラリはとても嬉しそうな声で言った。それを聞いたら俺も嬉しくなってギュウッと抱き返した。
 それからハラリは俺から顔を離して俺の後ろにいる飯野さんにも声を掛けた。


「それと比良里!自分探しの旅とか言ってお前を辿ってたら奏多に会えたんだ。お前にも感謝してる。ありがとうな!」

「どうでもいいけど奏多を離せよ」

「そうだったな!お前は俺に似て嫉妬深いんだったな♪そんじゃそろそろ俺は行くわ♪」


 飯野さんに突っ込まれて「あはは」と楽しそうに笑うハラリはここへ来た時と変わらなかった。
 俺から離れて満面の笑みを向けた。

 俺はハラリが行ってしまうと思って、慌てて声を掛けた。こう言う時って上手い言葉って浮かばないもんだな。


「ハラリ!絶対に生き延びろよな!そして恋人と幸せにな!」

「任せとけ♪あ、最後にちょっといいか?」

「なんだ?」


 ハラリはそう言って俺の前に立ちながら、飯野さんを見て何かを確認した。
 何だろうと待ってると、ハラリは身を屈めて俺に視線を合わせるとそのままチュッと口にキスをして来た。

 驚いて慌てて口を押さえると、ハラリはニヤニヤ笑っていた。これには飯野さんもムキになった。
 ハラリから俺を遠ざけるように抱き寄せて怒り出した。


「奏多に世話してもらって礼をするって約束してたろ?その礼だ♪」

「奏多に何してくれてんだ!余計な事してねぇでさっさと帰れ!」

「飯野さん!もうハラリ行っちゃうから我慢しましょ!?」

「お前も何他の男にキスされてんだ!避けられただろうが!」

「だって、まさかキスするなんて思わなかったんですって!飯野さんはすぐ怒るんだから!」

「ひゃはは♪やっぱお前ら最高~♪二人共愛してるぜ!」


 俺と飯野さんが言い合っていると、ハラリの楽しそうな笑い声が聞こえて二人で振り向くともうそこにはハラリの姿は無かった。
 嘘、もう行っちゃったのか!?
 ちょっと最後ゴタゴタしてなかったか!?
 もっとちゃんと見届けたかったんだが!?

 残された俺と飯野さんはお互い顔を見合わせていた。

 
「やっと行ったか」

「……ハラリ、無事に帰れますかね?」

「大丈夫だろ。あいつの事だから失敗しても死にはしねぇよ」


 相変わらずな飯野さんに、俺は込み上げる寂しさをグッと堪えた。
 飯野さんがそうやっていつも通りにするなら俺だって!


「飯野さん!確認ですけど、俺達って恋人同士ですよね?」

「はぁ?当たり前だろ」

「それじゃあこれからは俺も比良里って呼んでいいですよね?」


 前に呼んだら嫌がられたんだ。
 ハラリは良いのにズルいなぁと思ってたんだ。

 飯野さんは少し考えるような顔してから俺の手を握って答えた。


「いいよ。その代わり二度と他の奴にキスとかされんじゃねぇぞ」

「ハッ!根に持ってる!」

「当たり前だクソが」

「口悪!そうだ!良い機会だからもう一個お願いがあります!」

「何だよ。何でも許されると思うなよ」

「俺の事お前って言うの辞めて下さい!」

「なんだと?お前そんな事気にしてたのか」

「あ!また!なんか上から言われてるみたいでムカつくんですよ」

「奏多より歳もバイト先でも上なんだから仕方ないだろ」

「それでも嫌なんです~!」


 俺が駄々を捏ねるように繋いだ手をブンブンと振り回すと、飯野さんは呆れたように笑った。
 お、やっぱり飯野さんの笑った顔良いな♡


「分かったよ。奏多、中へ入って片付けをするぞ」

「はーい♡比良里♡」


 名前で呼ぶと、照れたような笑顔を見せた。
 これからも比良里のいろんな顔が見れるだろう。
 ハラリとの別れがあんなに辛いと思っていたのに、不思議と今はこうして笑っていられる。

 それもこれもハラリの分身、比良里がいてくれるからだ。
 比良里はすぐ怒るから言い合いになる事が多いけど、本当は優しいのを知ってるんだ。
 そして何よりも俺の事を好きなのも♡

 ハラリ、俺も大事なものを忘れずに生きて行くよ。
 もしまたどこかで会う事があったらその時は一緒に笑い合おうな。

 ベランダから部屋の中へ入る前に上を見上げて夜空を見ると、そこにはたくさんの星が光り輝いていた。




✳︎✳︎✳︎完✳︎✳︎✳︎


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

握るのはおにぎりだけじゃない

箱月 透
BL
完結済みです。 芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。 彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。 少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。 もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

処理中です...