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4章 通い妻
22.辛かった事
しおりを挟むマンションの出入り口の横に飯野さんの姿が見えて俺は嬉しくなり駆け寄って愛想を振り撒く。きっと俺が犬だったら尻尾をブンブンと振っていただろう。
俺に気付いた飯野さんは相変わらずの無表情で見下ろして来た。それでもこうして待っていてくれた事が嬉しくてそんなのは気にならなかった。
「飯野さーん♪お疲れ様でーす♪」
「お疲れ」
俺に挨拶をした後に、後ろにいたハラリをチラッと見て頭を下げた。
ここで俺は飯野さんの手に注目する。
なんと!スーパーにでも行って来たのか食材らしき物が詰まったビニール袋を持っていたのだ!
「もしかして夕飯って、飯野さんが作ってくれるんですか!?」
「ああ。奏多はろくな物食べてなさそうだからな」
「嬉しい~♡マジで俺の彼女みたいっすね♡」
「……彼氏じゃなくてか?」
うわっ!飯野さんがノッてきた!
ヤバ♪面白ぇ♪しかもハラリみたいな事言ってるし!
ハラリがニヤつきながら俺らにこう言った。
「おーおー、イチャつくのは二人きりの時にしてもらえますー?それと比良里、俺の分の夕飯あるんだろうな?」
「あるけど」
「イチャつくって、あー、ハラリってばヤキモチかぁ?」
先にマンションの中に入って行こうとするハラリを追い掛けようとすると、飯野さんに腕を引かれて止められた。
何か言いたそうな感じ?
「どうしました?俺達も入りましょ?」
「いや、ハラリはまだ泊まってるのか?」
「はい。しばらくいますけど?」
「そっか……」
「おーい、奏多鍵開けてくれ~」
「はいはーい。飯野さん、行きましょう♪」
ハラリに言われてマンションの入り口でカードキーで解除をして中に入る。
飯野さんにハラリの事を聞かれたけど、親戚って事になってるからいつかは帰ると思ってるんだよな。実際ハラリはいつかはいなくなるとは思うけど、そんなの未定だしずっといたら変に思われるかな?
俺はハラリにはずっといてもらって構わないんだけどね。
エレベーターで部屋のある階まで向かい、俺の部屋に入ると、ハラリはシャワーを浴びに行った。大分怪我も良くなったみたいで、顔の痣はもう無くなっている。
俺は飯野さんを手伝おうとキッチンへ顔を出す。
「飯野さーん♪俺、何か出来る事ありますかー?」
「米を炊いてくれ」
「任せて下さい♪」
「あと使っていい皿を出してくれ」
「好きなの使っていいですよ?一人用なんで数は少ないですけど」
「普段自炊は?」
「しません♪コンビニ弁当か冷食です♪」
「だろうな」
「飯野さんは料理するんですね~。うーん、この材料は……肉じゃがですか!?」
飯野さんがビニール袋から買って来た物を出していって、ピンと来た物を言ってみた。
肉じゃがだったら嬉しいなぁ♪実家にいた時以来だ♪
「正解だ」
「やったー♪ちょー楽しみぃ♪」
「奏多、嫌いな物はあるのか?」
「あります!納豆はダメです!あとレバーも~」
「どっちも美味いのに」
「飯野さんは何でも食べそうですね」
「嫌いな物はねぇよ」
喋りながら野菜を洗って行く飯野さん。とても手際がいいぞ!バイト中もだけど、家事も楽々こなしちゃうんだな~。
イケメンで家事出来るってかなりポイント高くね?これで愛想まで良かったらモテモテでしょうに。
「飯野さんって勿体無いですよね。そんなけかっこ良くて、何でも出来るのに、何で愛想良くしないんですか?」
「むしろ何で興味も無いのに愛想良くしねぇといけないんだ」
「そりゃ人間同士の関わり合いですから~」
「言葉が交わせればいい。愛想良くしても無駄でしかないだろ」
「またそう言う事言って~。飯野さんは損してます!騙されたと思って笑ってみて下さいよ♪今より何倍も楽しい時間になりますよ♪」
「……だからお前は良く笑うのか?」
「そうですね~。俺はどんな時でも楽しい気分でいたいんです♪辛くても悲しくても、その後は笑って過ごしたいです♪」
「辛くても悲しくても?」
「はい♪」
ここで飯野さんは驚いたような顔をした。ただ表情があまり変わらないから分かりにくい。だけど、これは驚いてると思うんだ。
俺なりに飯野さんの表情を勝手に決めてそう思ってるだけかもだけど~。
「奏多にもそんな時があるのか?」
「ありますとも!最近辛かったのは始めたばかりのバイトで先輩に冷たくされた事ですね~」
俺はワザとニヤニヤと笑いながら教えてやった。
もしかしたら怒られるかもな。でも飯野さんから冷たくされた時は辛かった。いや、辛いと言うよりは腹が立って仕方なかったか。
それを聞いた飯野さんは手を止めて俺を見て来た。別に今更怒られても平気だけどな。
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