あぶはちとらず

井氷鹿

文字の大きさ
22 / 75
第2章 Fall between two stools.1 1995年 崇直編 春

灰吹から蛇が出る5 Out of the blue comes green.

しおりを挟む
 田中め。
 何を楽しげに話してやがるんだよ。
  
 サンシャインシティに着くまで、亘の別れ話を聞かされる羽目になったじゃないかよ。
 お陰で数メートルも水を開けられたぞ。
 アイツラ、歩くの早えーよ。

「先輩に話したら、めちゃくちゃ笑われてさ」

 おまえ、さっきから失恋話の割に楽しそうだな。

「寧ろ良かったんじゃないの、平川さんに話して。笑い飛ばしてくれたんだろ」

「確かに、もやもやがふっ切れた」

 そりゃ、傷が浅くてよかったな。相手の女性はその前に上手く逃げたんだよ。

「嵩ちゃん、入口ここで良かったっけ」

 声でけーよ。
 紅緒が高架下広場にある入口を指さしている。
 合ってる合ってる、イケイケと手で合図したらそのまま早足で入っていく。

 何をそんなに急ぐんだよと、亘と追いかけたら。
  
 ホールにでかでかと飾られた水族館のパネルに、紅緒が釘付けになっていた。
 そこには『世界の毒毒猛毒展』という文字が。

「わーちゃん。どうしよう、ヤドクガエル来てる! テレビでやってたんだよね。生で見られるよ」

「べー、ヒョウモンダコも居るぞ。マンバは無理でもアダーあたりは来てて欲しいが。ブラック・ウィドウは居るんじゃね」
 
 おまえら目がハートになってるぞ。
 それに比べどうした田中、顔色悪いな。
 
 10階に着くやいなや、亘たちは入場券買いに走りだし、速攻特別展示場へと消えていく。
 
「何で水族館なのに、爬虫類やら虫までがいるんだよ」

 田中は脚が多くても少なくても駄目なタイプだったらしい。いや、残念むねん。

「知らねーの。ここ常設で爬虫・両生類展示してるぞ。ウーパールーパーとか大人気じゃん」

「トカゲとかヘビ無理。蜘蛛とか絶対無理!」

 首を振って嫌がってる。なかなか中身は乙女だったんだ。知らなかった。
 亘と紅緒はまだ特別展示場に入り浸ってて出てくる様子はまったくねーし。

「ウーパーさんは両生類。しゃーねーな、ちょっと待ってろ」

 亘に事情を伝え、屋上のアシカショーで落ち合うことにする。
 出口で振り返ったら、二人とも大はしゃぎじゃねーかよ。
 この中身小学生コンビが。
 ここまで嬌声が聞こえて来たワ。

 大満足の爬虫類組とサンゴ礁とマンボウで気力を取り戻した田中と、最後にアシカのトレーニング姿を拝見しオレらはサンシャインを後にした。

「あのさ、夕飯食って帰るんなら行きたいとこがあるんだ。ビストロなんだけど美味いよ、行く?」

「いいねぇ」

 元気になったら腹が減ったのか、田中が聞いてきた。
 今から食っても門限まで全然余裕だし、なんなら呑んで帰ってもいいぞ。
 
 紅緒の隣で鼻歌歌ってる亘を引率する体で田中と並んで歩いてるんだが、人増えてきたなぁ。
 それにすれ違うたびに振り返られてる気がするのは、気のせいか。

 頭一つオレと亘は人混みから出てる。
 それは何時ものことなんで気にはならんが、通りすがりに見上げられたり振り返られたりすると丸分かりなんだよな。
 下手したら目が合っちまうもん。

「笠神ぃ、自覚ないみたいだからさ言うけどさ」

 何だよ、改まって。
 
高校の頃むかしっから、お前ら目立ってたんだよ」

 でかいからか?

「双子だからか」

「昔はね。面のいい双子が並べばそりゃ目立つよ」

「嵩ちゃんって人に見られるのも知らない人に声かけられるのも、苦手過ぎて無駄に愛想が良くなったんだよね」

 お、さすが紅緒。オレは知らないやつが馴れ馴れしく声かけてくるの大ッきらいなんだよ。

「なんで?」

「無視した方が良いってのか? オレ生徒会長だったし、キャプテンだったし。知らないやつにも、愛想だけは振りまくクセが付いたんだよ。和を以て貴しとなすだ」

 神社の長男で、日本人なんだよ。

「司法研修所でも、おまえ目立ってるから覚えられやすいんだよな」

 そこで田中はオレの顔をじっと見て、何故か頷いた。

「そうか、目立つってけっこうハードなんだな。知らなくて飲み会の度、おまえの名前をダシに声かけてた」

「あ゙ぁ゙?」

「女子が速攻参加するんだよ、笠神の名前使うと」

 すまんかったと両手を合わせ、謝ってきた。
 
 このやろう。こっちは知らないやつなんか覚えられねーつうの。

「今度からクラス違いは呼ばないでくれると助かる」

「分かった」

 後ろの二人が笑いを必死で我慢してやがる。息が漏れてっぞ。笑いたきゃ笑え。
 本心を出すのが怖ぇーんだよ。だったら。

「まぁ、愛想くらいならいくらでも振りまいてやるよ」

 ムカつくこともあるけど、それで周りが平和なら。

「あ、お店この地下。シェフが塾の先生だったんだ。面白い経歴の人でね、笠神を紹介したかったんだよ」

「ふーん」

 地下のへの階段を降り、突き当たった先に看板が出ていた。
 黒板にチョークアートが施され、今日のオススメが描かれている。
 フレンチ・ビストロだってさ。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...