あぶはちとらず

井氷鹿

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第5章 Grasp all , Lose all.3 1995年 亘編 夏2

恋愛は銘々稼ぎ4 Love finds its way.

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 東上線って、こんなに揺れるんだ。
 あはは。どーしよう。
 と言っても、ありがたいけど動けねぇぞ。
 って、紅緒は全く気にすることなく、話をしてる。

「あたしって、ほら」
 と、僕を見上げ顔を近づけてきた。
 うーん。完全に当たってますね。
「右目の二重が左ほどはっきりしてないからさ」
 わぁ、僕の目が映ってるよ君の瞳に。

 ヘイゼル色の瞳。
 窓からの 光を受けるたび、琥珀が溶けるみたいに色が変わるんだ。
「でね……て言うから……」 
 長いまつ毛が奇麗にカールして、これでメイクしてないって誰が信じるってんだ。
 それに比べ、僕のは真っ直ぐだからね、目つきが悪く見えるんだよ。

 ……え?
 突然紅緒の手が頬に触れ、我に返る。
「わーちゃんってまつ毛、長いよね」

 そう言って頬に添えた指で、僕の目の下に触れてきた。
「下まつ毛も、ながっ」
「べーも、まつ毛バサバサじゃん」
 まつ毛が長いのは、君の方だって……
 急に恥ずかしくなって、顔を引く。
 
「あたしのはしょうがないのよ。横浜の爺さん似って言われてるから」
 と、今度は自分のまつ毛を指の背で弾いた。
 また電車が揺れ、紅緒は前を向き座りなおした。
 
 ふうっ。腕が解放されたよ。
 ちょっと残念だけど、ね。
 そうだ、思い出した。
 紅緒の父方の祖父はヨーロッパの人だったんだ。
 どこの国かは知らないけど、日本語以外喋ってるの聞いたことが無いし、な。
 今だって、白髪頭のひょろっと背の高いただの爺さんで。

 良く知らないが、紅緒のばあちゃんは紅緒の父方が苦手だったな。
「横浜の爺さん似」は、彼女にとって褒め言葉じゃないのが、ね。
 たまに聞いてて、こっちも辛くなってたんだ。

「僕は、そのくるっとカールしたベーの眉毛、綺麗だと思うよ」
「え、マジで? 本当に?」
 目を見開いて、僕を見上げる。
「うん。ずっとそう思ってた」
 そう言うと、「やった」と言って紅緒が僕に微笑んでくれた。

 踏切の警報の音。
 通過すると、ひときわ大きく揺れ、紅緒の右半身が僕にぶつかってくる。
 すぐにまた警報が鳴り、また踏切を通過する。
 音を立てて、また電車が大きく揺れた。
 
「おっと、降りるぞ」
「え、もう着いちゃうの?」
 車内アナウンスが流れ、僕が立ち上がると紅緒も一緒に席を立つ。
 和光駅に到着し、流れに沿って僕らは車両から吐き出された。

 南口だったよな。
「南でいいよね」
 確認したら、紅緒が案内板を見つけ「あっちだよ」と僕の腕を取って歩き出した。
「このまま、また歩いて行こっか」
「うん。時間もあるしね」
 僕はそう答え、腕をつかんでる紅緒の手を取り、つなぎなおした。

 紅緒はちょっと驚いて、口元を緩める。
 同時に、握っていた手が強く握り返してきた。

 約束の時間より、少し早めに司法研修所の正門前に到着する。
 すでにリクルートスーツの集団が、背中に荷物を背負しょって例の出入り口から出てきていた。
 首に、あのIDカードをぶら下げている。

「間に合ってるよね」
 不安そうに紅緒が聞いてきた。
「うん。この分だとまだ出てきてないっぽいね」
 邪魔にならないように、出入口の脇に避けて待機する。
 紅緒は待ち切れないのか、人が切れる度に中を覗き込んでは「来ないね」と言ってる。

 また中を覗き込み、
「おおっ。あの集団の中に頭一つ出てるのが二つ居る」
「崇直か?」
「うん。崇ちゃんとナオト先輩だと思う」
 そう言って、悪戯っぽく笑うと隠れるみたいにして脇に避けた。

 予想通り、崇直たかおと並んで田中が出てきた。
「で、なんでおまえらがここに居るんだ?」
 眉間にしわを寄せ、睨んできた。
「よぉ、崇直。田中さんも」

 わぁ、崇直ったらそんな顔しちゃって。
 本当は、逢えてうれしい癖に。
「崇ちゃんお疲れ~。ナオト先輩お誘いありがとうです」
 おや、田中もまんざらじゃないみたいだ、良かった来て。
 
 崇直が不服そうに田中を睨んだけど、どうしたんだろう。
「あれ、言ってなかったっけ。今日でしばらく行けないから予約しといたんだ、先生の店」
 へ? 崇直知らなかったのか。
 今日、お前の誕生日だぞ。

「邪魔だから、こっち。ほら歩け」
 と出入り口から離れ、さらにその先までケツを叩かれ連れていかれた。
「それで?」 
「今日はお祝ってことで、じーちゃんから軍資金たんまりもらってきたよ」
 と紅緒が得意げに、僕たちに向かって下げているショルダーを叩いて見せた。

「しっかり吞めますよ、先輩も」
 そう言って、田中にウインクをする。
 おまえは、なぁ。
「俺まで、いいの」
「いいの、いいの。ママも久しぶりに遊びにおいでって言ってたよ」
 田中は直樹の親友だったもんな。

「ところで、オレまだ研修真っただ中なんだが」
 と困惑気味に崇直が言う。
 もしかして、今日が何の日か忘れたのか、崇直ってばよ。
 
「帰ってくるじゃない、それがみんな嬉しいのよ。家から通うんでしょう」
 紅緒にそう言われ、少し崇直の顔が緩む。
「あ、いっちゃんは」
 と紅緒が、樹は都合が悪いから来れないというと、また崇直は眉を寄せて、何かを追い払うように手で払った。
 
「いい、いい。あいつはムカつくから」
 そう言いながら、不満げに後ろを振り返る。
 釣られて崇直の目線の先を見たら、門から出た司法修習生の集団が何故か僕らを見ながら固まっていた。
 いや、少しづつ動いてはいるようだが、なんだろう?

「亘、あっち見て愛想笑いしとけ」
 はぁ? どういうことだよ。
 迷惑かけてるのか、僕ら。
 意味が分からないが、とりあえず頭を下げる。
 一瞬、その集団がざわついたような気がした。

「じゃ、そろそろ行くか」
 崇直が紅緒の横に並び、促すように腰に手を添える。
「笠神」
 と田中が先の集団を見ながら言った。
「ざわついてるぞ、あっち」

 やっぱり、何かあったのかな。
「崇ちゃん、手繋いで良い?」
 紅緒は僕の方を一度見て、それから崇直の手を取って引っ張るように門からの緩い坂道を大股で歩き出した。
 僕と田中もその後を、慌てて追いかける。

 何急いでるんだ、紅緒は。
 緩い坂を下り、歩道まで降りるが歩く速度は緩めない。
 崇直の手を引っ張り、紅緒はどんどん先へと歩いて行く。

 同じく和光市へと向かうリクルートスーツ集団抜け、追い越し、人が切れるまで、紅緒は歩を緩めなかった。
「何笑ってんの、崇ちゃんってば」
 二人の会話が聞こえてきた。
「いや、ほら小学校の時のお化け屋敷思い出して」
「ああ、わーちゃん毎回涙目だったよね」

 はぁぁあぁっ?
 何言ってやがる。崇直てめーだって!         
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