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九頭流布峠のクビマガリ様
第2話・九頭流布峠のクビマガリ様
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N県の九頭流布峠には、古き言い伝えがある──赤い満月の晩、丑の刻、峠の山神を『クビマガリ様』と麓の山村が崇めている特殊な己寅の日に。
峠の山道を若い処女が歩くと、クビマガリ様に首をねじ切られて、花嫁の首として持っていかれる。
そんな、恐ろしい言い伝えも時代と共に忘れ去られ。
今は村の宮司の家系に、細々と語り継がれているだけだった。
♠♠♠♠♠♠
「この村に『クビマガリ様』という、怪異の言い伝えがあると言うのは本当ですか?」
登山者の格好をした大学生の怪異研究会を名乗るカップルが、その村を訪れたのは晩秋の季節だった。
庭で対応している神社の老宮司は、訝しい目で大学生のカップルを眺めて呟いた。
「また、その話しか……どこから、ネットに漏れたかは知らないが。あんたたち、みたいな興味本位でやって来る者たちには村も迷惑しているんだよ……許可も取らずに、勝手に村の所有地に入り込んでくる」
登山帽子をかぶった女子大生が言った。
「あたしたちは、そんな迷惑なコトはしません、ちゃんと許可を取ってから伝承とか怪異を調査研究している、大学のサークルなんです」
神社の狭い境内を掃き掃除していた、宮司は軽く鼻先であしらう。
「口では、どうとでも言える……帰ってくれ」
女子大生が、食い下がる。
「あたしたちも、少し調べてきました……クビマガリ様の生贄の伝承……処女が花嫁となる伝承まで、赤い月の山道……丑の刻〔午前1時から午前3時ごろ〕に、九頭流布峠の山道を歩くのは忌夜だと村で言われていて──出歩くのを禁止されているところまでは知っています……ただ、どの日に歩くのが忌夜なのか、まではわかりませんでした……教えてください、謝礼なら出します」
宮司は大学生カップルを睨むと「そんなコトは知らなくていい……帰れ」そう言って背を向けて、家の中に入ってしまった。
大学生カップルの男性が言った。
「やっぱり、閉鎖的な村の風潮で教えてはくれないな……どうする? この怪異のレポートは諦めて帰るか」
「嫌よ、山道を歩く準備までしてきたんだから……週間の天気予報では、晴れの満月の夜は7日間しか無いんだから……車中泊をしてでも、レポートしないと」
大学生カップルは、オカルト雑誌から、取材費をもらって村に来ていた。
女子大生が、近くの苔が生えた岩に座って呟く。
「赤い満月の峠道……丑の刻……そして、あたしは処女……これだけ条件が揃っているのに、忌日がわからないなんて」
その時──ランニングシャツ姿の一人の子供が、狛犬の後から現れて言った。
「お姉ちゃんたち、本当に、教えたら謝礼をくれるの?」
「君は?」
「この神社の子供……ねぇ、本当にお金くれる?」
女子大生は、あまり期待をしていない口調で言った。
「教えてくれたら、お金あげるよ」
「約束だよ、本当にお金ちょうだい……ウソついたら、クビマガリ様の花嫁にされちゃうよ、クビマガリ様はウソが大嫌いだから
……ちょっと待っていて」
そう言うとランニングシャツを着た子供は、家の中に入って……少ししてから出てきた。
「はい、これ……書き写してきた」
そう言うと、鉛筆で急いで書き写してきた千切った紙を、女子大生の方に差し出した。
「おじいちゃんには、内緒だよ、ボクが怒られちゃう」
受け取った紙には、数字と曜日が書かれていた。
「今夜じゃない……この日を逃すと、一ヶ月先の夜」
子供がニコニコしながら、両手を差し出す。
「約束だよ、お金ちょうだい」
女子大生は、ポケットの中から茶色の封筒を取り出して子供に渡して言った。
「中身を確認するのは、あたしたちがいなくなって一時間後……その方が、おじいちゃんにバレなくて済むでしょう」
「うん、わかった……ありがとう、お姉ちゃん」
子供は嬉しそうな顔で、家の中に入って行った。
大学生のカップルは、足早に神社から離れる。
車に乗ってから、運転席の男性が言った。
「悪いヤツだな……空の封筒を子供に渡して」
「ガキが大金を持つと、ロクなコトに使わないからね……誰が子供に謝礼を渡すものですか」
シートベルトをした女子大生が言った。
「一旦、町にもどってコンビニで、今夜のための山歩きの買い物をするわよ」
♠♠♠♠♠♠
その夜──大学生カップルはスマホ撮影のレポートをしながら、赤い満月が照らす峠道を登りはじめた。
「あたしたちは、N県の九頭流布峠の山道を登っています……峠のてっぺんに到着する頃には、丑の刻の時間になるはずです」
不気味な夜の峠道を、頭にライトを付けて一歩づつ登っていくカップル……夜の虫の声や、動物らしき鳴き声が時折、聞こえてくる。
カップルは、ついに九頭流布峠の頂上に到着した。
少し樹木が開けた頂上からは、山の向こう側にある町の夜景が半分だけ見えた。
水筒の水を飲みながら、女子大生が言った。
「結局、何も起こらなかったね……おぉい、クビマガリ! ここに処女の女がいるぞぅ!」
女子大生がふざけて、叫んだ次の瞬間──いきなり、女子大生の首が、ねじ切られるように後方に回った。
「ぐげぇ⁉」
そのまま、女子大生の首はねじり切られ、胴体と首がバラバラになって、山道に転がる。
体の方は斜面を滑り落ちて、暗闇の中に消えた。
スマホで撮影をしていた男性は、突然の怪異に腰が抜けて、その場に震えて座り込んむ。
頭にライトを付けた、もげた首の両目が数回瞬きをして、首から空気が抜けたような声が聞こえてきた。
「あだし……どうなっだ……の」
女子大生の生首の両目が、赤い満月のように真っ赤に変わり。
N県の九頭流布峠の山道で、首は千切れた面を下に起き上がった。
鮮血が首から流れ、赤い隻眼になった女子大生の首が男に向かってニャッと笑う。
「ウケケケケケケッ」
奇声を発した女子大生の生首から、触手のようなモノが生えて。
女子大生の千切れた首は、クビマガリ様の新たな花嫁となって、近くの木の幹を登ると夜の枝葉の中に消えた。
九頭流布峠のクビマガリ様~おわり~
峠の山道を若い処女が歩くと、クビマガリ様に首をねじ切られて、花嫁の首として持っていかれる。
そんな、恐ろしい言い伝えも時代と共に忘れ去られ。
今は村の宮司の家系に、細々と語り継がれているだけだった。
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「この村に『クビマガリ様』という、怪異の言い伝えがあると言うのは本当ですか?」
登山者の格好をした大学生の怪異研究会を名乗るカップルが、その村を訪れたのは晩秋の季節だった。
庭で対応している神社の老宮司は、訝しい目で大学生のカップルを眺めて呟いた。
「また、その話しか……どこから、ネットに漏れたかは知らないが。あんたたち、みたいな興味本位でやって来る者たちには村も迷惑しているんだよ……許可も取らずに、勝手に村の所有地に入り込んでくる」
登山帽子をかぶった女子大生が言った。
「あたしたちは、そんな迷惑なコトはしません、ちゃんと許可を取ってから伝承とか怪異を調査研究している、大学のサークルなんです」
神社の狭い境内を掃き掃除していた、宮司は軽く鼻先であしらう。
「口では、どうとでも言える……帰ってくれ」
女子大生が、食い下がる。
「あたしたちも、少し調べてきました……クビマガリ様の生贄の伝承……処女が花嫁となる伝承まで、赤い月の山道……丑の刻〔午前1時から午前3時ごろ〕に、九頭流布峠の山道を歩くのは忌夜だと村で言われていて──出歩くのを禁止されているところまでは知っています……ただ、どの日に歩くのが忌夜なのか、まではわかりませんでした……教えてください、謝礼なら出します」
宮司は大学生カップルを睨むと「そんなコトは知らなくていい……帰れ」そう言って背を向けて、家の中に入ってしまった。
大学生カップルの男性が言った。
「やっぱり、閉鎖的な村の風潮で教えてはくれないな……どうする? この怪異のレポートは諦めて帰るか」
「嫌よ、山道を歩く準備までしてきたんだから……週間の天気予報では、晴れの満月の夜は7日間しか無いんだから……車中泊をしてでも、レポートしないと」
大学生カップルは、オカルト雑誌から、取材費をもらって村に来ていた。
女子大生が、近くの苔が生えた岩に座って呟く。
「赤い満月の峠道……丑の刻……そして、あたしは処女……これだけ条件が揃っているのに、忌日がわからないなんて」
その時──ランニングシャツ姿の一人の子供が、狛犬の後から現れて言った。
「お姉ちゃんたち、本当に、教えたら謝礼をくれるの?」
「君は?」
「この神社の子供……ねぇ、本当にお金くれる?」
女子大生は、あまり期待をしていない口調で言った。
「教えてくれたら、お金あげるよ」
「約束だよ、本当にお金ちょうだい……ウソついたら、クビマガリ様の花嫁にされちゃうよ、クビマガリ様はウソが大嫌いだから
……ちょっと待っていて」
そう言うとランニングシャツを着た子供は、家の中に入って……少ししてから出てきた。
「はい、これ……書き写してきた」
そう言うと、鉛筆で急いで書き写してきた千切った紙を、女子大生の方に差し出した。
「おじいちゃんには、内緒だよ、ボクが怒られちゃう」
受け取った紙には、数字と曜日が書かれていた。
「今夜じゃない……この日を逃すと、一ヶ月先の夜」
子供がニコニコしながら、両手を差し出す。
「約束だよ、お金ちょうだい」
女子大生は、ポケットの中から茶色の封筒を取り出して子供に渡して言った。
「中身を確認するのは、あたしたちがいなくなって一時間後……その方が、おじいちゃんにバレなくて済むでしょう」
「うん、わかった……ありがとう、お姉ちゃん」
子供は嬉しそうな顔で、家の中に入って行った。
大学生のカップルは、足早に神社から離れる。
車に乗ってから、運転席の男性が言った。
「悪いヤツだな……空の封筒を子供に渡して」
「ガキが大金を持つと、ロクなコトに使わないからね……誰が子供に謝礼を渡すものですか」
シートベルトをした女子大生が言った。
「一旦、町にもどってコンビニで、今夜のための山歩きの買い物をするわよ」
♠♠♠♠♠♠
その夜──大学生カップルはスマホ撮影のレポートをしながら、赤い満月が照らす峠道を登りはじめた。
「あたしたちは、N県の九頭流布峠の山道を登っています……峠のてっぺんに到着する頃には、丑の刻の時間になるはずです」
不気味な夜の峠道を、頭にライトを付けて一歩づつ登っていくカップル……夜の虫の声や、動物らしき鳴き声が時折、聞こえてくる。
カップルは、ついに九頭流布峠の頂上に到着した。
少し樹木が開けた頂上からは、山の向こう側にある町の夜景が半分だけ見えた。
水筒の水を飲みながら、女子大生が言った。
「結局、何も起こらなかったね……おぉい、クビマガリ! ここに処女の女がいるぞぅ!」
女子大生がふざけて、叫んだ次の瞬間──いきなり、女子大生の首が、ねじ切られるように後方に回った。
「ぐげぇ⁉」
そのまま、女子大生の首はねじり切られ、胴体と首がバラバラになって、山道に転がる。
体の方は斜面を滑り落ちて、暗闇の中に消えた。
スマホで撮影をしていた男性は、突然の怪異に腰が抜けて、その場に震えて座り込んむ。
頭にライトを付けた、もげた首の両目が数回瞬きをして、首から空気が抜けたような声が聞こえてきた。
「あだし……どうなっだ……の」
女子大生の生首の両目が、赤い満月のように真っ赤に変わり。
N県の九頭流布峠の山道で、首は千切れた面を下に起き上がった。
鮮血が首から流れ、赤い隻眼になった女子大生の首が男に向かってニャッと笑う。
「ウケケケケケケッ」
奇声を発した女子大生の生首から、触手のようなモノが生えて。
女子大生の千切れた首は、クビマガリ様の新たな花嫁となって、近くの木の幹を登ると夜の枝葉の中に消えた。
九頭流布峠のクビマガリ様~おわり~
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