プラヴィテル・ヴレーメニ〜異世界召喚された俺は時を支配して神を超える〜

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第一章二部〜龍の迷宮編〜

第十五話 鍵

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 扉を開けた先に待ち受けていたのは、図書館のような場所だった。規模としては図書室と言ってもいいのかも知れない。

 俺は棚に並べられた本を見てみる。

 知らない言語だ。

 まずこの世界の言語じゃない。
 今の俺はこの世界の言語を全て把握している。ゼロの力はそういったところまで及んでいた。その俺が知らない言語ーーつまりこれは、異世界の書物見てもいいだろう。

「ん?……この文字列、どこかで見たことあるような気が……」

 明らかに英語ではない文字列ではあるが、多分あの世界の文字だろう。あと少しで出そうな気もするが、ハゲるのでやめておこう。

 あ、今の俺、神力のエネルギーで生きてるから、毛根に関しては何も問題ないんだった。

 いや、今はそんなことどうでもいい。それよりここにある本だ。よく見たら、ほぼ全部俺の知らない言語の本だった。

 部屋の奥、ここには誰もいないはずだ。しかし、奥の机の上は、書物やらが色々積み上げられ、開かれたまま埃をかぶっていた。

「この字は……東方の国の持つシンロン語だったはず。

『神に栄光あれ。王に栄光あれ。民に栄光あれ。』

 ーーどういう意味だ?」

 書かれた文字を翻訳してみた。しかし、その意味はよくわからない。

 その下にさらに文字が続いていた。

「『邪悪なるは、白へ。白は、物語に閉じる。

 いずれ来たるメシアに、全ては委ねられる。

 プラヴィテル・ヴレーメニに栄光あれ。』」

 うーん。さっぱりわからん。

 他の書物は殆どが異世界の言語で書かれており、解読できるものは殆どなかった。

「財宝とかはなしか……」

 少し期待していたのでガッカリだ。とはいえ、もう少し読めそうな本がないか見てみるのもいいかもしれない。

「この世界のこと、守るとは言ってみたものの具体的な事はわからないし、そもそもこの世界をまだよく知らないんだよな」

 この世界に来てすぐにこの迷宮に落とされた俺は、世界の全貌をよく知らない。

 以前、牢屋に入れられた時にいた爺さんから多少の情勢を聞いたが、その真偽も定かではない。今の俺に必要なのは情報だった。

「まだこっちの列を見ていなかったな」

 俺は先程通った通路の隣の列を横を向きながら歩く。こちらはどうやらこの世界の本の列らしい。どの本の背表紙も読むことができた。

「ん?これは……小説か?…え~っと、『約束の地~幻の大地の冒険~』か……」

 俺は少し気になったので手に取って読んでみることにした。

「………」

 あれから数時間、俺はすでに最終巻まで手に取ってしまっていた。予想以上に面白く、感動を与えてくれる内容にすっかり魅入られてしまっていたのだ。

 そして最後ページをめくる。

 作者のメッセージが載っていた。

『今日までこの物語と共に歩んでくれたことを感謝します。この物語の舞台は私の故郷を題材に書きました。もう今は地図にすら載らない小さな村でした。私は今でも村の本当の復興を願っていますが、その願いもこれで終わりになりそうです。彼らが、成し遂げてくれたから。しかし、彼らの冒険は終わりません。彼らは今もどこかで旅をしていることでしょう。いずれ約束を果たすために。さぁ、これから彼らがどんな冒険をするのか私は大変楽しみだ。』

 そこでメッセージの欄は終わっていた。

 いまいち内容の分からないメッセージだったが、物語を想像する奴なんて基本こんなもんだろうと、俺は本を閉じた。

 作者の名はカープと書かれており、それ以外の詳しいプロフィールは載っていなかった。

 まぁ、古そうな本だし、昔は検閲でもあったのかも知れない。いや、今がないかと聞かれればそれも知らないのだけれど。

「いや~、それにしても面白かったな~!」

 俺は立ち上がり、本を棚に戻そうとする。すると、棚の奥に、何かがあるのを見つけた。俺は手を伸ばし、それを取り出す。

 中から出てきたのは古びた本だった。

「なんの本だ?」

 その本には題名も何も書かれていなかった。もしかしたらメモ用紙みたいな物なのかもしれない。

 なので俺は何も無いならと、一応その本を亜空間にしまおうとする。

 亜空間とは『時空間魔法』の一つで、別次元に作り出した無限空間のことである。この中では時間変化が起こらず、基本的に物の保存に適している。なので生物は全般的に入らなかったりする。

 ヴィン

 しかし、本と共に俺の手まで弾かれる。

「え?あれ?これって本だよなぁ」

 俺はそんな当たり前のことを口にしながら、もう一度本を手に取り亜空間に入れるようとする。

 ヴィン

 しかし、やはり本は弾かれてしまう。

「なんなんだ?この本」

 俺は怪訝に本を見つめる。しかし、特に変化はない。

「あっ!読めってことか!?」

 俺は本を開こうとする。しかし、本は見えない鎖で縛られていて開くことはできなかった。

「ったく、この本はもういいか」

 俺は諦めて本を机の上に投げる。本はボスッと音を立てると、埃を舞い上げた。

【痛ッ】

「へぇッ?」

 突然響いた高めの声に、俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。

【痛たたた、おい!妾を投げるとは何事か!】

 俺は周囲を見回す。しかし、誰かが居る気配もない。

【どこを見ている!ここじゃ!ここ!】

 まさかと思い、俺は本に視線を向ける。そこには薄く光を放ちながら喋っている、世にも奇妙な本があった。

「げっ!本当に本が喋っている」

 俺は驚愕で少し後ずさった。

【せっかく妾が気持ちよく寝ておったのに~】

 すると本は色々と愚痴り出した。長くなりそうだったので声をかけてみる。

「……なぁ、アンタは一体、なんなんだ?」

 ファンタジーな世界とはいえ、喋る本なんてそうそうあってたまる物じゃない。とりあえず何者かは聞き出すべきだろう。

【うん?妾か?妾は神竜の娘の白竜じゃ!】

「えっ?竜?」

 本がいきなり自分は竜だと言い出し俺はまた驚く。

【なんじゃ?信じられん様子じゃな】

 竜といえばやはり巨体に鱗に牙に翼だろう。冗談もよしこちゃんだよ。

【わかるぞ~その気持ち。なんせ最強の種族が目の前にいるんじゃからな。いや、でも驚いてしまうじゃろ】

 本はそんなの御構い無しに喋り続ける。

【妾もずっとこの部屋に閉じ込められておったからのう。久しぶりの人間に少し驚いておったのじゃ。でも、ここまで一人で来たということはお主、中々の強者なのじゃろう?】

 本は俺に尋ねてくる。だが、俺はその一つ手前で気になった。

「さあな、俺は地上の事をあまり知らない。降りるしかなくなったから降りてきただけだ。それに俺はここまで一人じゃなかった。友と一緒だったからな。今は訳あっていないが」

 ここまで来れたのは本当にゼロのおかげだ。今度ゼロの墓でも作ってやるか。

【ふーん。ま、久しぶりの話し相手は嬉しいぞ!】

 本当に楽しそうに喋る本に思わず笑みが溢れてしまう。

 あ、そういえばコイツなら色々と知ってることもあるかもな。

「なぁ、お前、昔からここにいるんだろ?ここは一体どういう所なんだ?」

 迷宮の最下層をクリアしたのに報酬が本だけっていうのも余り面白くない。それだけに何か大きな価値があると見ていた。

【ここか?ここは……妾にもよく分からんのじゃ。妾は幼き頃からここにいるが、今まで誰にも会ったことはない。本の中で何百年も待ち続けたのじゃ。やはり待って正解じゃった。同じに会えたのだから……グスッ】

 本はそう言って泣き始めた。

 何百年もというのは驚きだ。どうやってその間生き延びたのだろうか。

 竜の生命力か、本の力か。

 本の力だとしたら神力が関わっていそうだが……少し調べたいな。

「なぁお前はどうして、本の中にいるんだ?竜なら本来の姿があるんじゃないのか?」

 この世界のドラゴンが、俺の思い描く空を飛ぶ蜥蜴なら本ってことはまずあり得ない。ということはこれは仮の姿に違いない。とはいえ、好き好んでこの中に何百年もいるとも思えない。

 つまり、何者かによって封印されていると考えるのが妥当だろう。

【うーん、確かに妾には戻るべき姿がある。理由を聞かれてもいまいち分からんのじゃ】

 本はすでに泣き止んでおり、悩みながら俺の質問に答える。

「分からないってどういう事だ?」

【いや、な?妾には父も母もおるのじゃ。白竜という名も二人から授けられた。だけど、封印された理由もここにいる理由も分からんのじゃよ】

 つまり何だ?コイツは訳も分からないまま本に閉じ込められ、一人ぼっちで何年も過ごしてきたというのか?

 不憫だ。不憫すぎる。

 俺が泣きそうになってきた。よく今、普通に話していられるな。いや、これだけ嬉しそうに喋るのもその反動からか。

「まぁ、分からないことを問いただすつもりもない。で?どうするんだ?」

【?……どうするとは…?】

 本は困ったように聞き返す。

「このままここに残るか、それとも俺についてくるか。お前にはその選択肢がある。そして俺はその二択をお前に許し与えよう」

 ちょっと神様っぽいが実質今の俺は似たようなもんだしいいか。

【わ、妾はここを抜け出して良いのだろうか?妾は、お主についていっても良いのか?】

 本は不安そうに言う。

「ああ、それはお前意志だ。俺はそれを尊重しよう」

 それだけのことを言える力が、俺にはあった。

【妾を連れ出してくれるか?妾を連れ出してくれるなら、どんなことでも…お主に尽くそう!】

 本は若干涙声で声を張り上げた。

 どうやら意志は決まったようだ。

「よし!それじゃあまずはそこから出すか」

 そう言って、俺は本を持ち上げる。

【なっ!?お主、そんなことができるのか?】

 本は驚いた様子で聞いてきた。

「ああ、俺は神を超える男、神谷    悠二だ。この程度、なんの問題もない」

【神を超える………悠二……かっこいい】

 何やら本はブツブツ言っていたが気にしない。
 神を超える。俺は今初めて思いついたが、それくらいの勢いで行こうと思った。

「それじゃあ行くぞ。『神王の眼ゼウス・アイ』!」

 俺を両眼の神眼を発動し、本にかかる術式を解読する。

 解読を終えると、俺はボードを出して魔術式を構築する。その様子に本はおお~と声を出して驚いていた。

 そして数秒後。俺は解除の魔法を完成させた。

「よし!今からその封印を解くぞ」

【う、うむ】

 俺は本に向かって魔法を使う。すると本は光だし鎖が砕け散る、俺の手から離れて宙に浮き、見る見るうちに人型へと変わっていった。

【おぉぉ】

 抜け殻となった本は光と共に消えていった。

 そして俺の目の前に現れたのは、見た目10歳くらいの女の子だった。

「へっ?」

 俺はその姿に驚く。そして、少女は俺の名前を叫びながら抱きついてきた。

「ユウジ~!!」

「うおっ」

 俺は重心が後ろに傾き、そのまま尻もちをついてしまった。よく見ると、少女は綺麗な長い銀髪を下ろしていて、目は蒼く、頰なんかは柔らかそうだった。

「へへっ、ユウジ~ぃ。ありがとなのじゃ!」

 そう言って少女は立ち上がる。

 俺は少しだけ名残惜しい感じもしたが、自分を見失ってはいけないと、首を振る。

「そういえばお前の名前何だっけ?」

 俺は少女の呼び名をどうするか考えていた。

「白竜なのじゃ!」

 少女は無い胸を張って、自慢げに言う。

「あー、んー、ハクでいいか?」

 俺は白竜だと言いづらかったので、適当に短くする。

「ん?良いぞ?」

 白はあっさりと承諾する。

 何と言うか、マイペースだな。

「さて、白も解放できたしここを出るか」

 俺は立ち上がるとお尻の埃を払いながら言う。

「ん?でも悠二、どうやってここから出るつもりなのじゃ?」

 ここは最下層、これ以上道はない。しかし、元来た道を帰るというのも面倒くさい。

「ククク、さっき調べておいたんだがな……ほら、ここだけ本の高さが違うだろ?」

 俺は白を連れて異世界の言語の本が並ぶ列に向かう。そこの下から二段目に明らかに違和感のある本が並んでいた。

「コイツを引くとーー」

 ーーカチッ

 ガラガラガラ

 机の後ろの壁が消えて、通路が現れた。

「この先に魔法陣があるようだ。そこから転移すれば脱出完了だ。さ、行くぞ」

 俺は話しながら通路の中へ入る。

「あっ!待つのじゃ~」

 白は慌てて俺の後ろをついて行く。

「ここが魔法陣だな?魔力を注ぎ込めばいいのか」

 魔法陣の上に乗ると、白は俺の腕にしがみ付いてくる。

「よし、行くか!」

 そして俺達は迷宮を後にした。

 チュンチュン

 爽やかな風が木々の隙間を通り抜けていく。

「ここ…どこだよ?」

 俺達は、迷子になった。
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