プラヴィテル・ヴレーメニ〜異世界召喚された俺は時を支配して神を超える〜

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第一章三部〜アークダム王国アレッシオ編〜

第十九話 叡智の花

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「私は冒険者ギルドアレッシオ支部のギルドマスターのエルシアよ」

「……ギルマス」

「エルシア様」

 この場にいる全員の視線が彼女に向かう。
 それは彼女の美しさによるものだけではない。一目見ただけでも分かるその強さが、連中を怯えさせ、その注意を引き付けているのだ。

「……へぇ~、これはどうも初めまして。ユウジと申します」

 俺は手を差し出して握手を求める。
 しかし、彼女はそれを無視するように話し始めた。

「リリー、話は大体聞いていたわ。そこの女の子、確かにこの中じゃトップクラスのオーラを纏っているわね。それも貴女では気づけない程差ね。まあこれに関しては仕方ないわ。……ただ、彼は試験をしてもらったほうがいいかもね。ってわけだからこの試合は私が持つわね」

「は、はい!すみません…」

 リリーは萎縮しながら答えると、エルシアは俺達にもアイコンタクトを送り、俺とルージスはそれぞれ頷いた。
 まあいいさ。さっさと終わらせよう。

「ならついて来なさい。こっちよ」

 俺達はギルド内部の奥の大部屋ーー練技場へと向かった。

 *

「なあ、あいつら何もんなんだ?」

 悠二達が奥へと入った後、残された冒険者の内の一人が同僚に小声で話しかけた。

「アァ?…知るかよ。の方はヤバかったけどよ、兄貴の方は大したこと無さそうだったな。ありゃあ妹の手柄を自分のモノにするとかそういう魂胆だぜ、きっと」

 その言葉に他の奴等も同意の声が飛び交う。
 気づけば酒場は元通りになっていた。
 その中でただ一人、震えている人物がいた。
 Aランク冒険者のウィザードーーレベッカだ。あの場で唯一魔眼を有していた人物でもあった。

「レベッカさん、どうしたんすか?」

 一人様子のおかしいレベッカに気づいた近くで飲んでた男が声をかける。
 その男はDランクの名もなき冒険者だが、レベッカの使い走りとしては有名だった。

「……あ…あれは化け物よ。あんなのが人間な訳がない!」

 突然腰を抜かしてその場に尻もちをつくレベッカ。その様子を見て周囲は騒然とした。

「ど、どいうことですかい?レベッカさん!」

「……私の眼は魂の魔力の上限を見れる。つまり相手の魔力の限界値を知ることができるのは知ってるわよね」

「え、ええ、まあそれは有名ですしねーーッ!まさか!?」

 男の感は元々鋭い方ではあった。
 レベッカの状況とその説明を受けてある程度正解に辿り着くことは、然程難しいことではなかった。

「……アレに、上限なんて無かった。いや、そもそも覗くことすら叶わなかったわ………(…ルージス、頼むから死なないでよ)」

 そのレベッカの言葉に一同は黙り込み練技場の方を見つめた。

 *

 俺と白、ルージス、そしてリリーはエルシアについて少し広めの運動場の様なところに出た。
 位置的にはギルドの地下にあるみたいだ。
 眼を感知仕様に切り換えて見てみると、この空間には無数の強力な結界が張り巡らされていた。
 この結界、壊さねえようにしないとな。
 俺が周囲を見回しているとエルシアから位置につくように言われる。

「悠二~!フルボッコじゃぞ~!」

 白とリリーは結界の外の観覧席に座って見学するようだ。
 ちなみに白はポップコーンを片手に椅子には飲み物が用意されていた。
 白の奴、いつの間にあんな物を持っていたんだ?
 俺は少し羨ましくなりつつも目の前のを見る。
 人間相手に死なない程度というものを理解しておかないとな。今後悪党と戦う時に生け捕りにできるかもしれない。

「両者準備はいいか?それでは!これより、『牙狼』ルージスとユウジの模擬戦を執り行う!始め!」

 その合図と共にルージスは俺を目指して走ってくる。
 しかしその速さは普通の肉眼ではとても追い切れるものではなかった。

「『牙転衝』!」

 一気に懐まで詰め寄ったルージスが放つその一撃は、空間そのものを捻れさせるような衝撃波を繰り出し、俺の腹部へ直撃した。
 そして俺は後方へ勢いよく吹き飛ばされてしまった。
 普通ならこれだけで勝負あり、エルシアもすぐさま模擬戦を止める為に間に入るだろう。
 しかし、エルシアは何も言わずただ飛ばされた方へ視線を延ばしていた。

「ーーなっ!あれはルージスさんの『牙転衝』!いきなりあんなモノを撃ち込むなんて……彼が死んでしまう」

 リリーは立ち上がり青ざめた様子で叫んだ。
 しかし、その傍らで一切の動揺も見せず、ポップコーンを口に放り込む白は愚痴を垂れていた。

「ふんっ!小童が……初めから悠二の力量を見抜いておったのか?全く腹立たしいのぅ」

「ーーえ?」

 白の愚痴にリリーが振り向く。
 白の言葉の意味がまるでわかっていないという顔のリリーを他所に、模擬戦は再開されようとしていた。

 *

「……お前の力は、そんなモノじゃないんだろう?」

 砂埃が舞うその奥にいる人影に対して話しかけるルージス。
 それは本来、今の一撃をまともに食らった相手にかけるべき言葉ではなかった。
 ルージスもレベッカと同様に、悠二の力が白を凌駕していることを理解していた。
 その上で彼は、悠二に戦いを挑んでいたのだった。
 果ての見えない相手に挑むことで、安心感を得たかったのかもしれない。
 ルージスが悠二を見た時、背筋が凍る思いをした。
 ルージスが思い出すのはギルマスーーエルシアを含めた本物の強者達だ。
 しかし、今目の前にいる奴は、そんな彼等をも凌ぐ領域に到達している。そんな気がしてならなかった。
 ルージスは手に汗が滲むのを感じた。

「(……手応えはあった)」

 しかし、それはただの言い訳にしかならない。
 不安と恐怖、これらが自分を覆い尽くし、その希望を呑み込もうとしていた。
 もし、このまま戦ってその果ても見えないまま叩きのめされたら、自分はまた冒険者として立ち上がることが出来るのだろうか。

「(ーーいや、余計な事は考えるな。今は目の前の相手に集中しろ)」

 少しずつ近づく影を前に、意を決したルージスだった。

 *

 痛ぇ……。
 結構重いパンチだったな。アレは中々強いじゃねえか?
 俺は砂埃の中、無傷で立ち上がる。

「……お前の力は、そんなものじゃないんだろう?」

 外からルージスの声が飛んでくる。
 なるほどコイツは最初から俺狙いで挑んで来たわけだ。
 俺は物好きがいるものだなと思いつつ、ルージスの方へと歩き出した。
 コイツの力は大体把握した。後はそうだな…。俺の実験にでも付き合ってもらうか。

「なら眼は閉ざすか」

 俺の瞳は翠から黒へと戻る。
神王の眼ゼウス・アイ』は全ての事象を把握する眼でも有り、対象となった者の行動を予測する能力もあった。
 そんなチートを使っては、そもそも勝負にすらならないからだ。
 ゼロ直伝の体術で相手をしてやる。

「どこからでもかかってこい。で戦ってやるよ」

 その言葉にルージスの目は鋭くなり、その集中は更に深みを増していった。
 俺が瞬きをした瞬間、ルージスの姿は目の前から消え、俺の背後に回り、その拳は頭部に向かって突き出されようとしていた。
 さっきと同じやつか。
 悪いがその技は見切らせてもらった。
 俺が振り向き、ルージスの拳が頬当たろうとしたとき、俺は首を少しだけ傾けて、その軌道から外した。それと同時にルージスの無防備となった顎にカウンターのアッパーをぶち込む。

「ぐぁはぁっ!!」

 まだだ。
 俺は刹那に背後を取ると、その首をへし折るかのように蹴りを入れた。
 コイツ、どういう体の仕組みをしてるんだ?
 俺としてはかなり重い蹴りを入れたつもりだったが、ルージスが重傷を負った気配はなかった。

 そこで俺は眼による解析を挿む。
 なるほどね。
 解析の結果、ルージスはアッパーを喰らって吹き飛んだ瞬間、身体に何重も肉体の強化魔法を掛けていた様だ。
 ルージスを見ると片膝を付いてはいるが、まだ応戦可能の様だった。

「中々の判断力だな。魔法は苦手そうだと思っていたが、よくよく感知してみると魔素量だけは白とタメを張る様だな。これは俺ももう少し本気を出したほうがいいのかもしれない」

 俺は見せつける様に神の力を解放した。
 しかし、この力は持っていない者には感知することすらできない。
 故に、ルージスには何が起こったのか、そもそも何かが起きているのかすらわからなかった。

「そこまで!!」

 俺がその力を行使しようと動いた瞬間、審判をしていたエルシアから模擬戦の終了を告げられた。
 俺とルージスはエルシアの方を見る。
 ルージスはここで止められたことに納得がいかない様子で、エルシアに抗議をし始めた。
 俺はただ黙ってエルシアだけを見ていた。
 その彼女の額には先程まで見せなかった汗がこめかみに流れる程出ていた。

 *

 しばらくしてルージスとエルシアの話し合いは終わり、最終的に俺の勝利で幕を閉じることになった。
 こうして俺と白はギルマスの承認の下、正式に冒険者ギルドの一員となった。
 そして現在、俺達は別室に連れて行かれ、冒険者ギルドの仕組みやらの説明を受けているのだった。

「はい。まずはユウジさん、ハクさん、御二方の冒険者ギルドのメンバー入りを歓迎いたします」

 そう言って頭を下げるのは受付嬢のリリーだ。
 ギルマスが事務処理を済ます間、ギルドの説明を請け負っているのだ。

「では冒険者ギルドーーもといアークダム王国国家自由組合とは、から参りますがーー」

 話が長かったので要点だけを纏めると、まず冒険者ギルドとはアークダム王国が管理する何でも屋だということ。
 しかしその歴史は浅く、まだ設立して20年も経っていないそうだ。
 初代総ギルドマスターの名はゴウ・ミール・アークダム現国王陛下だ。即位前の数年間その座に君臨し続けたらしい。
 現総ギルドマスターはトライグスという人の様だ。
 どうやらかなり凄い実績を残したらしいが、いまいちピンと来なかったので省略させてもらう。

「ーーとまあそんな感じでギルドとは何たるかが分かった所で、次にランクについて説明させていただきます。まず、ランクを付ける意義についてですが、これは冒険者のやる気を上げる為というのが冒険者にとっての分かりやすいメリットではあるのですが、私達ギルドにとってランクとは、あなた方冒険者を守る一つの保険だということです。」

 リリーは説明を続ける。
 これについて詳しい話を要約すると、ギルドの指定するランクは依頼のランクに呼応し、制限を設けることによって無駄な事故を減らし、充実した冒険者生活を送らせる為にある様だ。
 高ランクの依頼になればなるほど報酬は弾むが、その危険度合リスクは膨らんでいく。
 適材適所ーーそれぞれが無理せずやれる範囲でやれればいいという方針だ。

「そして冒険者を区別するランクですが下から順に『F』『E』『D』『C』『B』『A』の通常ランクとあり、Bランク以上は護衛など少し特殊な依頼も可能になります。そして世の中には人智を超えた異常な者達がこの冒険者の中にも存在します。それがーー」

「ーーそこからは私が説明するわ。リリー、貴女は仕事に戻ってていいわよ。今、ちょうど混み始めて忙しそうだから手伝ってあげて」

 多分一番いいところでエルシアに遮られた。
 リリーは少し不満そうにしていたが、ギルマスの指示には逆らえないのだろう。
 リリーは一礼して部屋をあとにした。

「さて、『Aランク』以上のランクについてだったかしら」

 エルシアは美しく、優しく微笑みを見せた。
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