役立たずと捨てられた薬草聖女、隣国の冷酷王太子に拾われて離してもらえません!〜元婚約者が「戻ってこい」と泣きついてきても、もう遅いです〜

きみつね

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1.リリアーナ・ベルモンド。貴様との婚約を、たった今この時をもって破棄する!

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「リリアーナ・ベルモンド。貴様との婚約を、たった今この時をもって破棄する!」

 大広間に響き渡る怒声。
 豪奢なシャンデリアの下、私は呆然とその場に立ち尽くしていた。

 私の目の前で勝ち誇ったように笑っているのは、この国の第二王子エドワード様。
 そして、その腕にまとわりついているのは――。

「お姉様、ごめんなさいねぇ。でも、愛のない婚約なんて不幸なだけですわ?」

 鈴を転がすような甘ったるい声。
 私の腹違いの妹、セレスティアだった。

「ど、どうして……エドワード様、私たちは来月、結婚式を……」

「黙れ! 貴様のような無能な女を王家に迎え入れるなど、恥さらしもいいところだ!」

 エドワード様が吐き捨てるように言う。
 周囲の貴族たちからも、クスクスという嘲笑が聞こえてきた。

「聞いたか? ベルモンド公爵家の出涸らし令嬢だ」
「ああ、妹君のセレスティア嬢は癒やしの聖女として覚醒したというのに、姉のほうは……」
「ただの雑草いじりが趣味の、地味な女だろう?」

 違う。
 私は雑草いじりをしていたわけじゃない。
 王国の医療のために、必死で薬草の研究をしていただけなのに。

「セレスティアは素晴らしいぞ。彼女の祈りは、枯れた花さえも蘇らせる。それに比べて貴様はどうだ? 土にまみれて、薄汚い薬草を煮詰めるだけ。美しくもないし、華もない!」

「そ、それは……エドワード様が、珍しい病気にかかった市民のために薬を作れと……」

「言い訳をするな!」

 バシッ、と扇子で頬を打たれた気がした。
 実際には打たれていないけれど、それくらいの衝撃だった。

「貴様のような陰気な女は、私の隣にふさわしくない。これからは、この愛らしく才能あふれるセレスティアこそが、私の婚約者だ!」

 セレスティアが彼の胸に顔を埋めてこちらを見る。
 その瞳は三日月のように歪んで笑っていた。
 
(ああ……そういうこと、なのね)

 私は全てを悟った。
 妹はずっと、私の婚約者の座を狙っていたのだ。
 そしてエドワード様も、地味な私より、可愛らしくて『聖女』ともてはやされている妹の方が良かったのだ。

「……わかりました」

 私は震える唇で、そう告げた。
 ここで縋り付いても、惨めになるだけだ。

「ふん、聞き分けが良いのだけは取り柄だな。……おい、この汚らわしい女を今すぐ城から叩き出せ!」

「え……?」

「城だけではない。ベルモンド家からも除籍処分だ。今日から貴様は平民だ。二度と私の視界に入るな!」

 衛兵たちが、荒々しく私の腕を掴む。
 抵抗する間もなく、私は煌びやかな広間から引きずり出された。

 ドレス姿のまま。
 荷物一つ持たされずに。

 ◇

 城門の外は、季節外れの猛吹雪だった。

「うっ……さむい……」

 薄いドレス一枚の身体に、容赦なく冷気が突き刺さる。
 感覚がなくなっていく手足を引きずりながら、私はあてもなく歩いた。

(どうして……私が何をしたっていうの……?)

 来る日も来る日も、地下の研究室でポーションを作り続けた。
 エドワード様のために。
 国民のために。

 私の作った薬のおかげで、流行病が治まったこともあったはずだ。
 でも、誰もそれを評価してはくれなかった。
 『地味』で『陰気』で『華がない』。
 それだけの理由で、私は全てを奪われた。

(もう、疲れたな……)

 視界が白く霞む。
 膝の力が抜け、冷たい雪の上に崩れ落ちた。

 意識が遠のいていく。
 このまま凍え死ぬのだろうか。
 それもいいかもしれない。どうせ私には、帰る場所なんてないのだから。

 そう思って、目を閉じようとした時だった。

 ザッ、ザッ、ザッ。

 雪を踏みしめる音が聞こえた。
 誰か……?
 霞む視界の先に、人影が見える。

 漆黒のマントを羽織った、背の高い男性。
 その人は私の前で足を止めると、ゆっくりと膝をついた。

「……こんな場所に行き倒れとはな」

 低く、けれど溶けるように甘い声。
 彼は大きな手で、私の冷え切った身体を抱き上げた。

「あ……」

 温かい。
 氷のように冷たい私の身体が、彼に触れたところから熱を持っていくようだ。

「見つけたぞ」

 彼は私の耳元で、嬉しそうに囁いた。

「俺の聖女」

 その言葉の意味を理解する前に。
 私の意識は、深い闇の中へと落ちていった。
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