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25.行こう。孤独な獅子を治しに
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数日後。
私は陽だまり薬局の立て看板を『本日貸切』に書き換え、準備万端でその時を待っていた。
店内には簡易ベッドや布団(アレクシス様が王宮から運ばせた最高級品)が敷き詰められている。
そう、今日はガルフ様のための治療合宿ならぬ「お泊まり会」なのだ。
コンコン。
控えめなノックの音がして、ドアが開いた。
「……よう。聖女さん、それに王子」
入ってきたのは私服姿のガルフ様だ。
相変わらず目の下の隈は酷いが、今日は少しだけ表情が柔らかい気がする。
手には小さな鞄を一つ持っていた。
「いらっしゃいませ、ガルフ様! お待ちしていました」
「ああ……。その、なんだ。わざわざこんな……すまねぇな」
彼は居心地が悪そうに頭を掻きながら、店の中を見回した。
「治療って聞いたが……なんだか、ガキの頃のお泊り会みてぇだな」
「ふふ、リラックスしていただくのが第一ですから。今日は難しいことは忘れて、ゆっくり休みましょう」
私が微笑むと、ガルフ様も釣られるように少し笑った。
――その時だった。
ドカドカドカドカッ!!!
とんでもない足音が近づいてきたかと思うと、店のドアが壊れんばかりの勢いで開かれた。
「大将ッ!! 水臭いっすよ大将!!」
「私たちを置いていくなんて酷いです!」
「俺たちも混ぜてください!!」
雪崩れ込んできたのは、多種多様な獣耳や尻尾を生やした集団だった。
狼、虎、熊、兎……。
ガルフ様が率いる、帝国軍第三部隊・獣人隊の面々だ!
「お、お前ら!? なんでここに……!?」
「なんでって、大将が聖女さまのところで治療を受けるなんて言うから心配でついてきたんすよ!」
先頭に立つ、狼の耳を持つ精悍な青年が叫んだ。
その後ろでは猫耳の可愛い女の子がプンプンと怒っている。
「そうですよ! 大将最近全然寝てないし、顔色悪いし! 私たち心配で夜も眠れなかったんですからね!」
「嘘つけ、お前昨日爆睡してただろ」
「うるさいわね!」
さらに、熊のような巨体の男が暑苦しく抱きついてくる。
「大将が死んだら俺たちはどうすればいいんだぁ!! 一緒に寝ましょう! 俺が抱き枕になるからぁ!!」
「離せ鬱陶しい! 暑いんだよお前ら!!」
狭い店内は一瞬にして獣人たちの熱気と騒音で埋め尽くされた。
人口(ケモノ?)密度が限界突破している。
というか物理的に酸素が薄い。獣の匂いと熱気がすごい。
「……おい」
カウンターの奥でアレクシス様(変装中)のこめかみに青筋が浮かんでいた。
「ここは薬局だぞ。いつから動物園になったんだ?」
「あは、あははは……」
私は乾いた笑いを漏らすしかなかった。
アレクシス様の目が完全に据わっている。そりゃそうだ、王太子殿下の御前でこの騒ぎなのだから。
でも。
(愛されてるなぁ、ガルフ様)
彼らは騒がしいけれど、瞳は等しくガルフ様を案じていた。
ボロボロになりながら一人で抱え込もうとする上司を、放っておけないのだ。
「……たく、しょうがねぇ奴らだ」
ガルフ様はまとわりつく部下たちを引き剥がそうとしながらも、表情はどこか嬉しそうだった。
満更でもない、というやつだ。
「聖女さま。……こいつらも、いいか……?」
彼が申し訳なさそうに私を見る。
「もちろんです! 布団なら追加で用意できますから!」
「おっしゃぁぁぁ! 合宿だぁぁぁ!」
「肉! 肉食わせろー!」
ワッと盛り上がる獣人たち。
こうして、静かな治療の夜になるはずが、まさかの獣人だらけの大宴会(仮)が幕を開けてしまったのだった。
◇
……数時間後。
嵐のような夕食タイムが終わった。
なお、私の作った料理が一瞬で消えた。
店内には寝息が響いていた。
ガルフ様を中心に、雑魚寝をする部下たち。
誰かの足が誰かの腹に乗っていたり、尻尾を枕にしていたり。
まるで大きな家族のようだ。
「さて。そろそろ始めるか」
アレクシス様が静かに立ち上がった。
ガルフ様は部下たちに囲まれて安らかな寝息を立てている。
昼間の騒ぎで緊張が解けたのか、夢見の葉を使わずとも自然に眠りについたようだ。
だが、眉間の皺はまだ消えていない。
きっと今も、夢の底では悪夢の中に立っているのだろう。
「リリアーナ、準備はいいか?」
「はい」
私は頷き、ガルフ様のそばに座った。
アロマポットから薄紫色の煙が立ち上る。
「夢渡りの香」――他者の精神世界へと潜るための道しるべだ。
私はそっとガルフ様の手を握り、アレクシス様も私の肩に手を置いた。
「行こう。孤独な獅子を治しに」
視界が白く煙る。
意識が身体から遊離し、深い深い闇の底へと落ちていく感覚。
次に目を開けた時、私たちは――。
私は陽だまり薬局の立て看板を『本日貸切』に書き換え、準備万端でその時を待っていた。
店内には簡易ベッドや布団(アレクシス様が王宮から運ばせた最高級品)が敷き詰められている。
そう、今日はガルフ様のための治療合宿ならぬ「お泊まり会」なのだ。
コンコン。
控えめなノックの音がして、ドアが開いた。
「……よう。聖女さん、それに王子」
入ってきたのは私服姿のガルフ様だ。
相変わらず目の下の隈は酷いが、今日は少しだけ表情が柔らかい気がする。
手には小さな鞄を一つ持っていた。
「いらっしゃいませ、ガルフ様! お待ちしていました」
「ああ……。その、なんだ。わざわざこんな……すまねぇな」
彼は居心地が悪そうに頭を掻きながら、店の中を見回した。
「治療って聞いたが……なんだか、ガキの頃のお泊り会みてぇだな」
「ふふ、リラックスしていただくのが第一ですから。今日は難しいことは忘れて、ゆっくり休みましょう」
私が微笑むと、ガルフ様も釣られるように少し笑った。
――その時だった。
ドカドカドカドカッ!!!
とんでもない足音が近づいてきたかと思うと、店のドアが壊れんばかりの勢いで開かれた。
「大将ッ!! 水臭いっすよ大将!!」
「私たちを置いていくなんて酷いです!」
「俺たちも混ぜてください!!」
雪崩れ込んできたのは、多種多様な獣耳や尻尾を生やした集団だった。
狼、虎、熊、兎……。
ガルフ様が率いる、帝国軍第三部隊・獣人隊の面々だ!
「お、お前ら!? なんでここに……!?」
「なんでって、大将が聖女さまのところで治療を受けるなんて言うから心配でついてきたんすよ!」
先頭に立つ、狼の耳を持つ精悍な青年が叫んだ。
その後ろでは猫耳の可愛い女の子がプンプンと怒っている。
「そうですよ! 大将最近全然寝てないし、顔色悪いし! 私たち心配で夜も眠れなかったんですからね!」
「嘘つけ、お前昨日爆睡してただろ」
「うるさいわね!」
さらに、熊のような巨体の男が暑苦しく抱きついてくる。
「大将が死んだら俺たちはどうすればいいんだぁ!! 一緒に寝ましょう! 俺が抱き枕になるからぁ!!」
「離せ鬱陶しい! 暑いんだよお前ら!!」
狭い店内は一瞬にして獣人たちの熱気と騒音で埋め尽くされた。
人口(ケモノ?)密度が限界突破している。
というか物理的に酸素が薄い。獣の匂いと熱気がすごい。
「……おい」
カウンターの奥でアレクシス様(変装中)のこめかみに青筋が浮かんでいた。
「ここは薬局だぞ。いつから動物園になったんだ?」
「あは、あははは……」
私は乾いた笑いを漏らすしかなかった。
アレクシス様の目が完全に据わっている。そりゃそうだ、王太子殿下の御前でこの騒ぎなのだから。
でも。
(愛されてるなぁ、ガルフ様)
彼らは騒がしいけれど、瞳は等しくガルフ様を案じていた。
ボロボロになりながら一人で抱え込もうとする上司を、放っておけないのだ。
「……たく、しょうがねぇ奴らだ」
ガルフ様はまとわりつく部下たちを引き剥がそうとしながらも、表情はどこか嬉しそうだった。
満更でもない、というやつだ。
「聖女さま。……こいつらも、いいか……?」
彼が申し訳なさそうに私を見る。
「もちろんです! 布団なら追加で用意できますから!」
「おっしゃぁぁぁ! 合宿だぁぁぁ!」
「肉! 肉食わせろー!」
ワッと盛り上がる獣人たち。
こうして、静かな治療の夜になるはずが、まさかの獣人だらけの大宴会(仮)が幕を開けてしまったのだった。
◇
……数時間後。
嵐のような夕食タイムが終わった。
なお、私の作った料理が一瞬で消えた。
店内には寝息が響いていた。
ガルフ様を中心に、雑魚寝をする部下たち。
誰かの足が誰かの腹に乗っていたり、尻尾を枕にしていたり。
まるで大きな家族のようだ。
「さて。そろそろ始めるか」
アレクシス様が静かに立ち上がった。
ガルフ様は部下たちに囲まれて安らかな寝息を立てている。
昼間の騒ぎで緊張が解けたのか、夢見の葉を使わずとも自然に眠りについたようだ。
だが、眉間の皺はまだ消えていない。
きっと今も、夢の底では悪夢の中に立っているのだろう。
「リリアーナ、準備はいいか?」
「はい」
私は頷き、ガルフ様のそばに座った。
アロマポットから薄紫色の煙が立ち上る。
「夢渡りの香」――他者の精神世界へと潜るための道しるべだ。
私はそっとガルフ様の手を握り、アレクシス様も私の肩に手を置いた。
「行こう。孤独な獅子を治しに」
視界が白く煙る。
意識が身体から遊離し、深い深い闇の底へと落ちていく感覚。
次に目を開けた時、私たちは――。
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