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氷の王女の誕生
お兄様との出会い
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―美しく晴れた朝
重厚な扉の向こうで静かに時を刻んでいたローエン公爵が、杉製の大扉をゆっくりと押し開いた。
銀縁眼鏡の奥に浮かぶ深い皺は固い優しさをたたえ、正装の裾を整えながら一歩踏み出す。
「ラウル殿下、セディリオ殿下、ようこそローエン家へ。今回が初めてのご訪問ですね?」
「この度はお招きいただきありがとうございます。また生まれてすぐから私たちの妹であるアイリスを4歳まで育ててくださったことも母に変わり感謝いたします」
ラウルがそう言い終わるとふわりと扉の向こうから小さな声が響いた。
「――いらっしゃいませ」
振り返るとそこには4歳のアイリスが立っている。淡いミントグリーンのドレスに身を包み、レースのリボンがそよ風に揺れる。公爵邸の大理石の玄関ホールで彼女はカーテシーを行った。
そっと頭を下げるその姿は、まるで朝露に濡れた一輪の花のようだと思った。
セディリオは息を呑みゆっくりと一礼する。瑠璃色の瞳が揺れ小さなそっと出してしめると、その先にラウルが優しく視線を送った。ラウルもまた穏やかに頭を下げ、ふたりは玄関で静かな祝福を受ける。
アイリスは控えめに小さな手を伸ばし、「こちらへどうぞ」と微笑む。その手は、まるで初めて大切な宝物を託すように、ふたりの殿下をそっと導いた。
廊下を進む間、邸内は軽やかな足音と使いの者たちの控えめな立ち話に満ちている。
絨毯を撫でるように歩を進める4人。
アイリスの背後を公爵がさりげなく見守り、扉を開けると――
淡い藤色の壁紙が映えるティーサロンがふんわりとした優しい光に包まれていた。大きな窓辺には白いレースが揺れ、丸テーブルには銀製のティーポットと小さなケーキスタンドが並ぶ。
公爵はアイリスを右側の小椅子へ優しくエスコートし、ラウルとセディリオには向かい合わせの席を勧める。
家令であるジョゼフの小さな合図にセディリオがそっとポットの蓋を外した。
「アイリス様には香り高いジャスミンティーをご用意しました。」
ジョゼフからもらったカップを受け取りカップを差し出すと、アイリスははにかみながらも両手で受け取り、湯気の向こうのセディリオを見上げる。
「ありがとうございます、セディリオお兄様」
その言葉に胸が少し締めつけられるような高鳴りを感じながら、セディリオはそっとアイリスの小さな手を包む。
二人の指が触れ合う温度にアイリスは恥ずかしそうに目を伏せる。
ラウルはトングを取り、そっとレモンマドレーヌをアイリスの皿へ載せる。
「アイリスは甘いものはお好きかな?」
アイリスは頷き、小さなフォークに載せたケーキをセディリオに向けて差し出した。
「甘いものだいすきです!よかったらセディリオお兄様も、どうぞ。わたしのいちばんすきなものです」
セディリオは照れくさそうにフォークを受け取り、「いただきます」と小さな声で囁きながら一口。
目を細めて「おいしいよ、ありがとう」と微笑むその様子にアイリスは楽しそうに手をたたき、ラウルは優しく微笑んだ。
公爵は青磁のカップを手に「我が家の紅茶、いかがかな?」と問いかける。
ラウルとセディリオはそろって「とても美味しいです」と応じながら初めて会う兄と妹の距離は縮まっていく。
◇◇◇
淡い翡翠色の光が差し込むティーサロンで、アイリスはケーキをひと口ほおばり、ふと顔を上げた。
白磁のカップから揺れる湯気に小さな指をかざしながらその瞳はまっすぐセディリオを捉える。
「セディリオお兄様って……本当にきれい。髪が金色に輝いてまるで絵本に出てくる本当の王子様みたい」
――その無邪気な賛辞を受け、セディリオは内なる痛みをぐっと飲み込み、表情ひとつ変えずに微笑んだ。
金色の髪をそっと撫でるように手を差し伸べるその仕草は、まるで光そのものを愛でるかのように自然だった。
「ありがとう、アイリス。君の言葉は僕にとって何よりの贈り物だ」
涼やかな声は揺るがず、瞳の奥の翳りはまるで窓の外の影に溶け込んでしまったかのようだ。
アイリスはただ嬉しそうにほほえみ返し、そのままふたりの間にあったティーカップを静かに置いた
その言葉にセディリオは一瞬だけ息を整え、アイリスの手に軽く触れる。
だが指先の温もりへの反応さえ彼の微かな動揺を完全に隠す助けとなった。
隣のラウルがやさしく頷き、トングでマドレーヌをひとつ手に取る。
「アイリスこちらもどうぞ」と差し出すと、
アイリスは礼儀正しく受け取り、穏やかに「いただきます」と口元で囁いた。
ティーサロンには再び静かな幸福が満ちている。
誰も気づかぬまま、幼い姫の純粋な瞳と八歳の少年の秘めた痛みとが、やさしく重なり合っていった。
重厚な扉の向こうで静かに時を刻んでいたローエン公爵が、杉製の大扉をゆっくりと押し開いた。
銀縁眼鏡の奥に浮かぶ深い皺は固い優しさをたたえ、正装の裾を整えながら一歩踏み出す。
「ラウル殿下、セディリオ殿下、ようこそローエン家へ。今回が初めてのご訪問ですね?」
「この度はお招きいただきありがとうございます。また生まれてすぐから私たちの妹であるアイリスを4歳まで育ててくださったことも母に変わり感謝いたします」
ラウルがそう言い終わるとふわりと扉の向こうから小さな声が響いた。
「――いらっしゃいませ」
振り返るとそこには4歳のアイリスが立っている。淡いミントグリーンのドレスに身を包み、レースのリボンがそよ風に揺れる。公爵邸の大理石の玄関ホールで彼女はカーテシーを行った。
そっと頭を下げるその姿は、まるで朝露に濡れた一輪の花のようだと思った。
セディリオは息を呑みゆっくりと一礼する。瑠璃色の瞳が揺れ小さなそっと出してしめると、その先にラウルが優しく視線を送った。ラウルもまた穏やかに頭を下げ、ふたりは玄関で静かな祝福を受ける。
アイリスは控えめに小さな手を伸ばし、「こちらへどうぞ」と微笑む。その手は、まるで初めて大切な宝物を託すように、ふたりの殿下をそっと導いた。
廊下を進む間、邸内は軽やかな足音と使いの者たちの控えめな立ち話に満ちている。
絨毯を撫でるように歩を進める4人。
アイリスの背後を公爵がさりげなく見守り、扉を開けると――
淡い藤色の壁紙が映えるティーサロンがふんわりとした優しい光に包まれていた。大きな窓辺には白いレースが揺れ、丸テーブルには銀製のティーポットと小さなケーキスタンドが並ぶ。
公爵はアイリスを右側の小椅子へ優しくエスコートし、ラウルとセディリオには向かい合わせの席を勧める。
家令であるジョゼフの小さな合図にセディリオがそっとポットの蓋を外した。
「アイリス様には香り高いジャスミンティーをご用意しました。」
ジョゼフからもらったカップを受け取りカップを差し出すと、アイリスははにかみながらも両手で受け取り、湯気の向こうのセディリオを見上げる。
「ありがとうございます、セディリオお兄様」
その言葉に胸が少し締めつけられるような高鳴りを感じながら、セディリオはそっとアイリスの小さな手を包む。
二人の指が触れ合う温度にアイリスは恥ずかしそうに目を伏せる。
ラウルはトングを取り、そっとレモンマドレーヌをアイリスの皿へ載せる。
「アイリスは甘いものはお好きかな?」
アイリスは頷き、小さなフォークに載せたケーキをセディリオに向けて差し出した。
「甘いものだいすきです!よかったらセディリオお兄様も、どうぞ。わたしのいちばんすきなものです」
セディリオは照れくさそうにフォークを受け取り、「いただきます」と小さな声で囁きながら一口。
目を細めて「おいしいよ、ありがとう」と微笑むその様子にアイリスは楽しそうに手をたたき、ラウルは優しく微笑んだ。
公爵は青磁のカップを手に「我が家の紅茶、いかがかな?」と問いかける。
ラウルとセディリオはそろって「とても美味しいです」と応じながら初めて会う兄と妹の距離は縮まっていく。
◇◇◇
淡い翡翠色の光が差し込むティーサロンで、アイリスはケーキをひと口ほおばり、ふと顔を上げた。
白磁のカップから揺れる湯気に小さな指をかざしながらその瞳はまっすぐセディリオを捉える。
「セディリオお兄様って……本当にきれい。髪が金色に輝いてまるで絵本に出てくる本当の王子様みたい」
――その無邪気な賛辞を受け、セディリオは内なる痛みをぐっと飲み込み、表情ひとつ変えずに微笑んだ。
金色の髪をそっと撫でるように手を差し伸べるその仕草は、まるで光そのものを愛でるかのように自然だった。
「ありがとう、アイリス。君の言葉は僕にとって何よりの贈り物だ」
涼やかな声は揺るがず、瞳の奥の翳りはまるで窓の外の影に溶け込んでしまったかのようだ。
アイリスはただ嬉しそうにほほえみ返し、そのままふたりの間にあったティーカップを静かに置いた
その言葉にセディリオは一瞬だけ息を整え、アイリスの手に軽く触れる。
だが指先の温もりへの反応さえ彼の微かな動揺を完全に隠す助けとなった。
隣のラウルがやさしく頷き、トングでマドレーヌをひとつ手に取る。
「アイリスこちらもどうぞ」と差し出すと、
アイリスは礼儀正しく受け取り、穏やかに「いただきます」と口元で囁いた。
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