転生したら死亡エンドしかない悪役令嬢だったので、王子との婚約を全力で回避します

真理亜

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「ちょっとぉ~! ジーク様ったらぁ! 私の目の前で他の女に目移りするだなんてぇ~! 良い度胸してるじゃないのよぉ~!」

 ジークフリート王子の視線の意味に気付いたらしいアナスタシア嬢が、口唇を尖らせて抗議している。

「な、なに言ってんだよ...そ、そんなことしてないって...」

 ジークフリート王子が途端にしどろもどろになった。

「やっぱりそうじゃないっ! 全くもうっ! ジーク様ったら油断も隙も無いんだからっ! ほらっ! もう行きましょ!」

「あ、あぁ...」

 アナスタシア嬢に半ば引き摺られるようにして、ジークフリート王子はその場を後にした。私のことを未練がましい目で見詰めながら。うぅ...気持ち悪い...

 まるで嵐のように過ぎ去って行った二人を見送った後、

「殿下、どうかご決断をお早目に...」

 父親が重々しい口調でそう言った。

「うん...」

 アレクサンドル王子は俯いてそう答えるのみだった。


◇◇◇


『フゥッ...』

 帰りの馬車の中で、私達は親娘揃って大きなため息を吐いていた。

「なんていうか...強烈でしたね...」

 私はそう言うしかなかった。

「あぁ、間違ってもあんなのを王位に就ける訳にはいかないな...我が国が滅ぶぞ...」

「そうですね...」

「リーチェ、今日のことはリータには話さないでおいてくれ。刺激が強過ぎる。こんな修羅場を経験するにはまだ早い」

「分かりました...」

「それともう一つ、あのゲス野郎がリーチェに興味を持ちやがったようだ。これからなにか仕掛けて来るかも知れない。十分に警戒しといてくれ」

「ゲス野郎て...」

 まぁ、合ってるけど...間違ってはいないけど...仮にも王子なんだから...

「あんなのゲス野郎で十分だ」

 父親は吐き捨てるようにそう言った。


◇◇◇


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「あぁ、シンシア...ただいま...」

 今日、シンシアはお留守番していた。王宮に上がる時には、さすがに私付きのメイドを付けて歩き回る訳にはいかないからだ。

「どうしました? なにやらお疲れのご様子ですが?」

「えぇ...実はね...」

 私は王宮での出来事を掻い摘まんでシンシアに説明した。

「そんなことが...大変でしたね...」

「ねぇ、シンシア。あなたアレクサンドル王子が猫を被っていたことに気付いてた?」

「いいえ、全く。単なるアホ王子だと思ってました。凄い演技力だったんですね」

「アホってあなたね...」

 父親同様、シンシアも容赦ないな...

「それよりも、ジークフリート王子がそんなゲス野郎だったってことの方が驚きです」

「えぇ、全くね...」
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