なんでも欲しがる妹に婚約者を譲った結果

5

「あの娘の性格なら十中八九、どうにかしてあなたに接触しようと試みるでしょうね」

「ほう?」

　夫が身を乗り出して来た。

「今日久し振りに会ってみて確信したわ。あの娘の性格はまるで変わってない。少しは懲りて反省したかと思ったけど、我が儘で自己中心的な所は前と同じ。だからこそ次にどういった行動に出るのか、簡単に予想がついちゃうって訳よ」

「なるほど」

「今日門前払いを食らったんなら、明日はきっと私の名を出すでしょうね」

「具体的には?」

「そうね...例えば私が破水したから急いで呼びに来たとかかしら」

「ほうほう」

「そうやってまんまとあなたを誘き出した後は...」

『ウソ吐いてゴメンなさい。こうでもしないとあなたは会ってくれないと思って...』

「とか殊勝さを装いながら...」

『妻が妊娠していて夜もご無沙汰なんでしょう?　私で良かったら慰めてあげるわよ?　ねぇ、私とヨリを戻してみない?』

「...みたいな感じであなたを誘惑しようとするんじゃないかしらね。それであわよくばカインの魔の手から救って欲しいと」

「なるほどね。確かに妻が妊娠している時に浮気する男は多いって良く聞くね」

「まさかとは思うけど、あなたもその大勢の中の一人だとか言わないわよね?」

　私はジト目で夫を睨む。

「俺がそんなタイプの男に見える?」

　そう言って夫は、大きくなった私のお腹を愛しそうに手で撫で始めた。

「見えないけど...」

「だろ?　それに相手があのリリアだよ?　天地がひっくり返ったって有り得ないよ。俺がリリアにどれだけ振り回されたと思ってるんだい?」

「確かに...その節は私の愚妹が迷惑掛けて本当にゴメンなさいね...」

「もう過ぎたことさ。それに今はこうやって愛しい妻と愛する子供達に囲まれているんだ。振ってくれたリリアには感謝したいくらいさ」

　夫はそう言って優しく抱き締めてくれた。

「ありがとう...」

　私は夫の胸に顔を埋めながらそう呟いていた。

「それで?　俺はどうすればいい?」

　私は夫の胸から顔を離して、

「そうね...取り敢えず引っ掛かったフリをしてホテルにでも誘ってくれない?」

「いいのかい?」

　夫が怪訝な顔になる。

「構わないわ。ただし、ホテルに着いたら...」

『済まない。ちょっと急用を思い出した。先に部屋に行ってくれないか?』

「...とか言って、すぐに匿名でカインに連絡して頂戴。後はカインに任せましょう」

「なるほど、分かったよ。その作戦で行こう」

「お願いね。もうあの娘に振り回さるのは懲り懲りだから。今度捕まればカインは二度とあの娘を外に出せないよう厳重に監禁することでしょう」

「そうなるだろうね。でも君はそれで本当にいいのかい?　仮にも血をを分けた実の妹だろ?」

　夫が心配そうに聞いて来た。