なんでも欲しがる妹に婚約者を譲った結果

6

「確かにそうね。だから最後にチャンスをあげようと思って」

「チャンスとは?」

「あの娘があなたのことを誘惑しようとしなかったら、ただあなたに助けを求めに来るだけだったら、あの娘を隣の領地に逃がしてやって欲しいの」

「いいのかい?」

「えぇ、これまで贅沢三昧で過ごして来たあの娘が、一人で暮らして行くのは大変でしょうけど、それ以上は面倒見切れないわ」

「確かに。大変っていうか一人暮らしなんて無理じゃないかな?　働いたこともないんだろ?」

「もちろん無いわよ。あんなのでも一応貴族令嬢だからね。もしかしたらカインの所で監禁されてるより辛い目に遭うかもね。でもそれでいいのよ。今まで散々甘やかされて来たんだから、少しくらい痛い目に遭わないとね。それに隣の領地まで行けば、そう簡単にはカインも見付けられないでしょうから」

「なるほど、分かったよ。そうしよう。リリアがマトモな対応をして来ることを祈っているよ」

　まぁ確実に無理だろうけどね。私は心の中で呟いた。


◇◇◇


「えぇっ!?　本当ですか!?」

「そうなんです!　まだ予定日じゃないのに姉が破水してしまいまして!　夫であるスミスを至急呼んで下さい!」

「わ、分かりました!　少々お待ちを!」

　チョロい!　リリアは心の中でほくそ笑んだ。昨日玄関払いされたんで作戦を考えて来たのだ。

　とにかくスミスに会うことが必須だ。そしてどうにか籠絡し匿って貰うのだ。自分の魅力でアピールすればきっと大丈夫。なにせ仮にも婚約者同士だった間柄だ。同情してくれるに違いない。
　
　それに妻が妊娠中の男は誘惑し易いと聞く。まずは愛人というポジションを獲得しカインから守って貰う。姉が子供を生むまでは大人しくしていて、上手いこと姉が後継ぎの男子を生んでくれれば最高。
　
　その後に姉を追い出して後釜に座る。自分は出産なんて命懸けの面倒なことを経験することなく、今まで通り贅沢三昧な生活を手に入れられる。

　万々歳ではないか!　苦労や面倒事は全部姉に押し付けて、自分は美味しい所だけを頂けるんだ!

　リリアはまだ見ぬ未来予想図を頭に描いてニヤニヤと笑いが止まらなかった。


◇◇◇


「なに!?　リリアが!?」

「は、はい!　なんでもスミスさんの奥様が破水されたそうで!　急ぎおいで下さい!」

　受付から急ぎの来客だと言われて来てみれば、ここまで妻のアリアの予想した通りになるとは....ある意味妻に感心しながら聞いていた。

　スミスは内心の動揺を悟らせないよう注意しながら、リリアの元に急いで行った。