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その日の夜遅く、店に戻って来たカンナは変わり果てた店内を見て唖然とする。
「な、なによこれ!? い、一体なにがあったっていうの!?」
店の中はガランとしていた。刺繍に使う布も道具もなに一つ無い。オマケにディスプレイしてあった商品も全て無くなっている。
もちろん、アンナが店を出て行く際に全て持ち出して行ったからだが、そんなことをカンナが知る由もない。
まさか強盗の仕業!? カンナは青くなった。その時、
「うううっ...」
どこかから男の呻き声が聞こえた。
「ヽ(ヽ゚ロ゚)ヒイィィィ!」
カンナは飛び上がって驚いた。恐る恐る呻き声の元を辿るとそこには、
「えっ!? だ、ダリル様!? い、一体どうされたんです!? な、なにがあったっていうんですか!?」
ボコボコにされたダリルが力無く横たわっていた。
「...なにがあったかだと!? 見て分からんのか! この高貴な俺様をこんな目に遭わせよって! 許さん! 許さんぞ! 痛タタタ!」
起き上がろうとした拍子にすっ転んで頭を打ったダリルが悶絶する。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うるさい! 俺様に触るなぁ! この薄汚い平民風情がぁ!」
「キャアアアッ!」
ダリルは助け起こそうとするカンナの手を振り払った。その勢いでカンナは尻餅を付く。
「元はと言えば貴様の生意気な妹のせいだ! このこのぉ! 良くも俺様をこんな目に! 思い知ったかこのこのぉ! 薄汚い平民がぁ!」
ダリルは八つ当たりとばかりにカンナを何度も足蹴にした。
「い、痛い痛い痛い~! や、止めて下さいダリル様ぁ~」
その夜、カンナの悲鳴はいつまでも深夜の店の中に木霊していた。それは近隣住民からの通報を受けた衛兵が突入するまで続いたという。
◇◇◇
「アンナ、この記事読んだ?」
次の日の朝、アンナはクレア夫人がパトロンとなってくれた新しい店で開店の準備をしていた。
「いえ、今朝は忙しくてそれどころじゃなかったもんで。なにかあったんですか?」
「ダリルが傷害の容疑で逮捕されたわよ?」
「えぇっ!? な、なんでそんなことに!?」
アンナはクレア夫人から新聞を渡して貰って読んだ。
「姉に重傷を負わせた!? 一体なんでそんなことに!?」
「さあね、あなたを引き抜かれたんで八つ当たりでもしたんじゃないの? まぁ何れにしてもあの男はもう終わりね。叩けば埃の出る体だから余罪を次々と追及されるんじゃないかしら」
クレア夫人の言葉通り、ダリルはその後余罪が次々と判明し懲役刑を食らうことになるのだった。
「そうなんですね...まぁ自業自得というかなんていうか...」
「姉のことが心配ならお見舞いにでも行って来たら? 搬送先の病院名まで書いてあるから」
アンナはちょっと考えた後、
「いえ、今は新しいお店の開店準備を優先します。姉には落ち着いたら会いに行きますよ」
その後、新しい店が軌道に乗ってからアンナは姉のカンナに会いに行った。すっかり焦燥し切ったカンナは、涙ながらにアンナに謝罪しアンナもそれを受け入れた。
そして今、心を入れ替えたカンナは新しい店のお針子の一人として毎日修行を頑張っている。
ちなみに両親が残してくれた店は今『エンブロイダリー1号店』として、アンナの信頼のおける人物に店を任せている。そして何れは姉のカンナに任せても良いと思っている。
新しい店は『エンブロイダリー2号店』として今日も繁盛している。
~ fin. ~
「な、なによこれ!? い、一体なにがあったっていうの!?」
店の中はガランとしていた。刺繍に使う布も道具もなに一つ無い。オマケにディスプレイしてあった商品も全て無くなっている。
もちろん、アンナが店を出て行く際に全て持ち出して行ったからだが、そんなことをカンナが知る由もない。
まさか強盗の仕業!? カンナは青くなった。その時、
「うううっ...」
どこかから男の呻き声が聞こえた。
「ヽ(ヽ゚ロ゚)ヒイィィィ!」
カンナは飛び上がって驚いた。恐る恐る呻き声の元を辿るとそこには、
「えっ!? だ、ダリル様!? い、一体どうされたんです!? な、なにがあったっていうんですか!?」
ボコボコにされたダリルが力無く横たわっていた。
「...なにがあったかだと!? 見て分からんのか! この高貴な俺様をこんな目に遭わせよって! 許さん! 許さんぞ! 痛タタタ!」
起き上がろうとした拍子にすっ転んで頭を打ったダリルが悶絶する。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うるさい! 俺様に触るなぁ! この薄汚い平民風情がぁ!」
「キャアアアッ!」
ダリルは助け起こそうとするカンナの手を振り払った。その勢いでカンナは尻餅を付く。
「元はと言えば貴様の生意気な妹のせいだ! このこのぉ! 良くも俺様をこんな目に! 思い知ったかこのこのぉ! 薄汚い平民がぁ!」
ダリルは八つ当たりとばかりにカンナを何度も足蹴にした。
「い、痛い痛い痛い~! や、止めて下さいダリル様ぁ~」
その夜、カンナの悲鳴はいつまでも深夜の店の中に木霊していた。それは近隣住民からの通報を受けた衛兵が突入するまで続いたという。
◇◇◇
「アンナ、この記事読んだ?」
次の日の朝、アンナはクレア夫人がパトロンとなってくれた新しい店で開店の準備をしていた。
「いえ、今朝は忙しくてそれどころじゃなかったもんで。なにかあったんですか?」
「ダリルが傷害の容疑で逮捕されたわよ?」
「えぇっ!? な、なんでそんなことに!?」
アンナはクレア夫人から新聞を渡して貰って読んだ。
「姉に重傷を負わせた!? 一体なんでそんなことに!?」
「さあね、あなたを引き抜かれたんで八つ当たりでもしたんじゃないの? まぁ何れにしてもあの男はもう終わりね。叩けば埃の出る体だから余罪を次々と追及されるんじゃないかしら」
クレア夫人の言葉通り、ダリルはその後余罪が次々と判明し懲役刑を食らうことになるのだった。
「そうなんですね...まぁ自業自得というかなんていうか...」
「姉のことが心配ならお見舞いにでも行って来たら? 搬送先の病院名まで書いてあるから」
アンナはちょっと考えた後、
「いえ、今は新しいお店の開店準備を優先します。姉には落ち着いたら会いに行きますよ」
その後、新しい店が軌道に乗ってからアンナは姉のカンナに会いに行った。すっかり焦燥し切ったカンナは、涙ながらにアンナに謝罪しアンナもそれを受け入れた。
そして今、心を入れ替えたカンナは新しい店のお針子の一人として毎日修行を頑張っている。
ちなみに両親が残してくれた店は今『エンブロイダリー1号店』として、アンナの信頼のおける人物に店を任せている。そして何れは姉のカンナに任せても良いと思っている。
新しい店は『エンブロイダリー2号店』として今日も繁盛している。
~ fin. ~
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