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第4章*想いの糸は絡まり合う
55・魔法使いVS侍従長
しおりを挟む「く……っ! なんの真似ですか、アステロッド様」
マクシミリアンは腰に提げていた護身用の短剣を素早く抜くと、アステロッドから距離を取った。
突然アステロッドから切りかかられたというのに、瞬時に対応しているのはさすが第3王子の専属侍従とでもいうべきか。
(というかマクシミリアン、短剣持ってたんだ……)
普段は上着に隠れているせいか、ルーナは全く気づかなかった。
そもそも、ゲーム『MRL』ではマクシミリアンが戦うシーンなんてなかったのだ。
きいん、と剣がぶつかる音がして、ルーナははっとそちらを見やる。どうやらアステロッドが繰り出した攻撃を、マクシミリアンがギリギリのところで受け止めたようだった。
ルーナは慌てて声を上げた。
「やめて……! アステロッド、やめてよ!!」
アステロッドはルーナの声が届いていないのか、はなから聞く耳がないのか。全く意に介さない様子でへらへらとした軽い笑みを浮かべていた。
「なんの真似って? 邪魔者を消したいだけだけど?」
言いながら、アステロッドが横一線に切りつける。
マクシミリアンはすんでのところで後ろに下がってかわした。
「それならなぜ魔法を使わないんですか……っ」
「だって侍従長殿は魔法を使えないのに、いきなり魔法を使うのはフェアじゃない」
「フェアも何も……! 戦闘は私の専門外なのですが?」
マクシミリアンのいつもの涼しそうな無表情が崩れ、余裕がなさそうなのが見て取れる。
専門外、とは言ったものの、話しながら一方的なアステロッドの攻撃を受け流しているのだから、マクシミリアンもそれなりには戦闘訓練を受けているようだった。
「俺も、短剣での戦闘は専門外だ……!」
きいん!
ひときわ高く、音が鳴る。
それを追うように、からん、と。短剣が一本床に落ちた。
……落ちたのはマクシミリアンのもの。
「俺の勝ちだよ。侍従長殿」
アステロッドは勝ち誇ったようにいうと、マクシミリアンの眼前に鋭い刃の切っ先を突きつけた。
アステロッドが短剣を持つ腕を深く引く。マクシミリアンの心臓を狙って突こうとしているのがまるでスローモーションのように見える。
(いやだ)
ルーナの顔からさあっと血の気が引いていった。
感じたのは絶望。そして、それを上回る怒り。
(嫌だ嫌だ嫌だ)
そう感じた時にはもう、ルーナは駆け出していた。
少し離れた位置に転がっていたマクシミリアンの短剣を手に取り、自分の首に当てる。
「あんたがマクシミリアンを殺すなら、私も今ここで死ぬわ!」
口にしたその言葉は、脅しでもはったりでもない。
マクシミリアンが殺されるようなことは、誰であろうと絶対に許さない。
ルーナが強い声で叫ぶと、アステロッドがぴたりと動きを止めた。
刃とマクシミリアンの体の間に距離はほぼない。
(あっぶなぁ!)
すんでのところだったらしい。あまりの恐怖に、ルーナの心臓がどくどくと打ち付ける。
「ルーナ……っ!」
アステロッドが慌てたようにルーナの方へ視線をやる。
マクシミリアンも、自分の命の方が余程危険にさらされているというのに、ルーナの方を心配そうに見つめていた。
(さっきはアステロッドの方が私を殺そうとしていたくせに)
自分が殺すのは良くても、ルーナが死のうとするのは心配するのか。
魔法使いの心の機微は、ごく普通の人間には理解し難いものがある。
「好きになってもらったのは、嬉しかった」
口にした言葉は、紛れもないルーナの本心だった。
嫌がらせじみたことをされても、好意をもってもらえたこと自体は嬉しいことなのだ。
(今しかもう、チャンスがない)
本心を伝えたところでアステロッドを説得できる勝算はルーナにはなかった。
だがもう、ルーナには思いを伝えるしか方法が思い浮かばなかったのだ。
伝わらないなら、何度でも、伝わるまで伝えてやろうじゃないか。
「だけど、私は生まれ変わったとしても、時が巻き戻ったとしても、何度でもマクシミリアンを好きになる。あなたじゃない」
(私が、転生してもマクシミリアンを好きになったように)
もし、また別の生を受けて、全く違った人生を歩んだとしても。
それでもやっぱり、ルーナはマクシミリアンを好きになると思っていた。
「…………そっか」
はっきりと告げたルーナの言葉に、アステロッドの手からダガーがすべり落ちた。
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