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第4章
47話
しおりを挟む「ん……っ」
エフェルがリーナの首筋から唇を離すと、そこは鬱血し、紅い花が咲いていた。
「ほら、見える? 僕のものだっていう証」
エフェルは鏡を見るように促してくる。
リーナはエフェルに付けられた痕を見たくなくて、目を瞑り顔を逸らした。
「ちゃんと見てよ……!」
「あ……っ」
言うやいなや、エフェルが再びリーナの首へ顔を埋めた。
また強く吸われる。
逃げようとしても、腹部に腕を回されて密着させられてしまった。
「嫌っ……エフィー!」
エフェルが後ろにいるせいで、突き飛ばすことも出来ない。
これでは昨夜の二の舞だ。
「やめて……!」
鏡越しに首元を見ると、リーナの白い肌には無数に紅い花が咲いてしまっていた。
エフェルはリーナの首筋を嬉しそうに見つめると、鏡越しにうっとりと鬱血した痕を撫でる。
「リリア、綺麗……」
「っ!」
エフェルの夢見るような声音に、リーナは恐怖しか感じなかった。
「僕のものになって、そして誰にも邪魔されない天界に帰ろう?」
リーナの肌に所有印を刻み、機嫌が治ったのかエフェルは優しい調子で語りかけてくる。
「天……界?」
リリアの生まれ故郷。
懐かしい響きだ。
「安心して? もうあそこには誰もいない。僕が皆堕天させたから」
「なんですって……?」
エフェルの口から発せられた衝撃的な言葉に、リーナは目を見開いた。
誰もいない……?
リリアが自害した後も、天界はいつも通り回っていると思っていた。
だがエフェルの言葉を信じるなら、今や天界はゴーストタウンのような状態ということになる。
(そんな……!!)
嘘だと思いたかった。
しかし、天界の長であるはずのエフェルが地上にいる。
それは、エフェルの言葉を裏付けるものにしかなりえなかった。
もし天界に誰かいるのなら、天使たちをまとめるはずの長が長期間天界を留守にする事態など認めないはずだ。
「僕はリリアだけいればそれでいい。他のものは何もいらない。君を誑かすもののいるかもしれない世界なんていらない。だから、二人きりになれるあの世界へ戻ろう」
(狂ってる)
けれど、エフェルを狂わせてしまったのは他でもないリリアだった。
「そうと決まれば、戻る準備をしなきゃ!」
そう言うと、エフェルはリーナから身体を離した。
拘束から解放されリーナはほっと息をつくが、エフェルの言葉にはっとする。
「え、ちょっと……!?」
(戻る準備!? どこへ!? まさか、天界!?)
慌てるリーナを気にもとめず、エフェルは花が咲いたように笑った。
「待ってて!」
「エフェル、まっ――」
手を振りながらドアへ駆けていくエフェルの様子に、「待って」と声をあげようとするも時すでに遅し。
引き留めようと伸ばしたリーナの手は、行き場を失って空をさまよう。
ふと窓の外に目をやれば、灰色の雲が空をおおっていた。
今にも雨が降り出しそうなほどにたれ込めた空模様は、まるでリーナの心の中に似ていた。
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