48 / 77
第5章
48話
自分が暮らしていた教会はどちらの方角にあるのだろう。
ヴィンスの暮らす洞窟は、どちらだろう。
リーナは窓ガラスに手をつき、外を眺めていた。
この部屋の窓はとても大きく、天井までガラスが広がっていて空まで見渡せる。
窓の外には鈍色のどんよりとした雲が空をおおっていた。
昼前から雲行きは怪しかったのだが、夕方になった途端崩れ、地面を叩く雨音は大きくなるばかりだ。
遠くの方ではごろごろと雷鳴が唸り、徐々にこちらへ近づいてくるようだった。
(ヴィンスは、大丈夫かな)
あの悪魔は、苦しんではいないだろうか。
雨が酷い。
洞窟の中は冷えそうだから、余計に体調を崩していないか心配だ。
「はぁ……」
ヴィンスに何日逢えていないだろう。
突き放されてから大して日にちが経過していないというのに、リーナはもう何年もヴィンスと顔を合わせていないような感覚だった。
ヴィンスに逢いたくてたまらない。
離れているからこそ、余計に想いが募る。
(ヴィンス……)
いつの間に、こんなにもヴィンスのことを好きになってしまったのだろう。
リリアであった頃、種族的に長い寿命を持つにも関わらず、ヴィンスを好きになったことはリリアにとって初恋だった。
そしてリーナもまた、シスターだったせいももちろんあるが、誰かを好きになったのはヴィンスが初めてだった。
自分で自分を嫌になる。
ヴィンスを好きになったことが、全ての原因なのに。
それなのに。
生まれ変わっても恋に落ちたことは運命なのではないか、と馬鹿げたことを考えてしまう。
「はぁ……」
リーナがもう一度ため息を零す。
扉には鍵がかけられており、この窓ガラスも当然だが開かなかった。そもそも窓には鍵さえ見当たらない。
だが、仮にここから出られたとして、逃げてどうなるというのだろう。
エフェルをどうにかしない限り、何の解決にもならないのではないだろうか。
リリアに対して強い執着を抱いているエフェルなら、逃げても探し出されそうだ。
(説得するにしたって、どうしたらいいんだろう……)
エフェルはリーナに、度々「リリア」と呼びかけてくる。
そもそもエフェルは、リリアはもういないということを理解しているのだろうか。
リーナはリリアではないということを、理解しているのだろうか。
「はぁ……」
一向に考えがまとまらない。
リーナが三度目のため息を吐き出した、その時。
視界に黒い羽が入ってきた。
「え……」
雨に濡れた漆黒の羽が、雨粒をはじきながら艶やかに羽ばたいている。
(まさか……)
そのまさかだ。
はっと顔をあげると、ガラスの向こうでヴィンスが黒い羽を動かし宙に浮かんでいた。
雨が降りつける中、こちらに向かって何か叫んでいる。
(な、何!? 聞こえないのだけど!!)
ガラス越しな上に雨の音が大きく、何を言っているのかさっぱりだ。
ヴィンスは窓ガラスに近づくと、片手をガラスの表面に当てた。
すると、ヴィンスの手が触れている場所が溶けていく。
それはまるで、熱に触れてしまった氷のように。
窓に人が入れるくらいの穴が開くと、ヴィンスは部屋の中に飛び込んだ。
「リーナ……!!」
「きゃ……!」
飛び込んできた勢いのままヴィンスに抱きしめられ、リーナは小さく悲鳴を上げた。
雨に打たれていたせいもあり、ヴィンスの身体はいつも以上に冷たい。
「無事だったんだな……。よかった……」
ほっと安堵の息を吐くヴィンスに、ヴィンスが目の前にいるということの実感がリーナの中に湧いてくる。
「ヴィンス……!」
リーナは自分のネグリジェが濡れるのも構わず、ヴィンスを抱きしめ返した。
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。